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#140字小説 on Twitter JAN

明日もきてね

花の季節がやってきた。白い梅の花。毎年1月中旬になると近所の男の子が毎日やってきては、まだかな、もう咲いてるかなと私に咲く花を探す。そろそろ来るかな…。お、来た来た。今日は一輪だけよ、見つけられるかな?彼は私の腕に掴まり、肩に乗り、そして見つける。紅空の中、純白に咲く私の髪飾り。

すずめの涙

わたしには行きつけの餌場がある。毎朝老いた人間がパン屑をくれるのだ。ちなみに昨日はメロンパン。味は悪くはなかった。今日も寝床からスッと例のベランダへ。あれ…おかしいな。いつもなら、もうゴハンをくれるのに。ガラス越しに内を見て、すぐに飛び去る。早くあのケーキみたいな車を呼ばなきゃ。

おつとめひん

「先輩、お先失礼します」
「おう、明日のプレゼン期待してるぞ」
今日も10時まで残業コースか。
キーボード上を両手が躍る。デスクトップが映し出すドット絵。どれも網膜上で像を結ぶが、彼の脳には送信されない。
同僚だった奴らはもはや上司。不出来な俺には大層似合うレッテルが貼られてるらしい。

振り返っても白

トンネルを抜けると一面の銀世界!まるで全てがまっさらな画用紙になったみたい。くるくるくるっと喜びの舞を披露する…といっても独りだけど。どこをみても真っ白で黒なんてない。ここまで頑張って歩いてきて正解だったなあ。もう少し散歩したら、家に帰って鍋でも…
白い世界で疑問が脳裡に芽吹く。

空は繋がっている

わたしは今、檻の中にいます。人間の入る檻です。時たま外に出て運動することはあるけれど、楽しみなんてひとつぐらい。毎朝、妹がメッセージをくれるんです。暗号とカラスを使って。日本を覆う黒い五線譜とカラスの止まる位置。今日は『コレデサイゴダネ』って。明日は会いに行く。今日で最期だから。

ふたつ目の生き物より

僕が前方200°しか見えない生物でよかったと今更ながら思う。360°も見えたら、どの風景も歪んでしまう。いや、別にそれはいいんだ。それよりも、そんなことよりも、あなたのその顔が歪むことだけは許されないことなんだ。あなたは僕を見ないけど、僕があなたしか見えない生物でいてよかったと思ってる。

僕だけを見ていてほしい

遊園地のコーヒーカップ。彼女と2人。他にもお客さん入っているけれどこのカップには僕ら2人だけ。動き出す。彼女は両手でカメラを構えて僕を撮る。全力で回す。夕闇と絢爛なイルミ、場内を埋める人と喧騒。全てが混ざり合う。なんの形もわからないこの瞬間、確かに世界には僕と君しか存在しなかった。

彼の最初の情景

氷柱のようなスカイツリー
根を下ろした高層ビル
セーフティネットになり得ない電線

何もなかった
僕の小さな
でも僕の偉大な
一歩

案の定
全てが覆っている
信号機の色の順番も
ひだまりの猫の呑気な声も

靴は脱いでない
紙切れひとつさえも
残してない

明日の新聞の一面は
『凶器は地球でした』

冬の山は気をつけろ

冬の山、豪雪、2日目。そしてふたり。連絡手段はない。隣の彼女は冷静に「ロッジはこっち。林で見えないけどすぐ近くのはず」言う通りにしないと見捨てると言いたげの目に急かされて進む。ロッジ発見。真っ先に入る。あったかい。彼女にお礼を…

そういえば彼女の声はどうして聞こえていたんだろう。

自己紹介 –はじめの一歩–

みかんをむく。お茶をすする。何気ない日常生活。うむ、いつも通りだ。部屋に煙が充満するのも。
煙い煙い。換気しないとまた怒られてしまう。まあ、形のない人間をどのようにして怒るというのか。
いつも通りの朝。唯一変わったのはわたしの目の前を漂うのがタバコの匂いから線香のそれになっただけ。

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