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#96 山頂でUFOを呼ぶ儀式を執り行う@ジンバブエ・チマニマニ国立公園

2001年10月30日

大人の遠足 ハラレ~チマニマニ村へ

夜行列車に乗り込んだ僕らは、お菓子を食べながら、「おやつは500円までだよ」とか「バナナはおやつじゃない」などとふざけあった。久々の団体行動で修学旅行のようなワクワク感である。

ハラレの宿に長期滞在していた日本人7人で、ジンバブエ東部、モザンビーク国境沿いのマニカ高地に位置するチマニマニ国立公園へ、トレッキングに行くことになった。チマニマニから帰ってきてたのにとんぼ返りするというしゅうすけ君とM君から、どれだけ素晴らしい場所であるかを聞いて、みんな乗り気になったのだ。車中では、「チマニマニにはUFOが出る」とか「山中のどこかにピラミッドがある」など怪しい噂を二人から聞いて、僕らの好奇心は更に掻き立てられた。

翌朝、列車はジンバブエ東部の都市ムタレに到着。道中最後の大きな街なので、品揃え豊富なスーパーマーケットで買い出し。惣菜コーナーでは、芋虫の甘辛トマト煮が普通に売られており、しゅうすけ君が1パック買ったので、1匹味見させてもらった。ゲテモノは苦手だが、折角ジンバブエに来たからには一度は食べておきたい。「これがアフリカの高たんぱく食だ!」と覚悟を決めて口に放り込む。虫の表皮はざらざらして食感が気色悪く、味は乾燥エビや魚の干物に似て悪くなかった。

僕らを乗せたチマニマニ行きの大型バスは、眺望の良い山道をグングン進んでいった。途中の休憩地点で、雀のような小鳥の丸揚げを購入。一思いに頭を歯でかみ砕くと、尖った足が口に刺さった。可食部が少なくて申し訳ない気持ちになってしまった。

4時間後、ジンバブエ最東部の田舎、チマニマニ村に到着。 今日は準備もあるので、広い敷地にバンガローが点在するヘブンロッジへ一泊する。ここは名前の通り、本当に楽園のような宿だった。綺麗に刈られた緑の芝生の庭からは、岩肌の露出したチマニマニの雄大な山々が眺められて、ゴロゴロするだけで満足して、一日が過ぎてしまいそう。放し飼いの孔雀が「アエーッ、アエーッ」と美しい羽に似合わぬ醜い声を張り上げ、犬がキッチンから僕らの部屋までお構いなしにうろつき、猫が暖炉の前の特等席に陣取って腹を出して寝ている。宿は清潔で従業員たちものんびりして気持ちのいい人ばかりだった。

夕方、スーパーに行き、山ごもりの為の食料として、コーンビーフ、コーンフレーク、粉ミルク、パン、米、スパゲティ、野菜などを購入。食材は限られているが、物価は首都ハラレに比べると更に安かった。ジンバブエの野菜、果物はどれも味が濃くて旨いが、特に人参や玉ねぎは甘くて日本で嫌いな人も食べられそうなくらい。お気に入りはアボカドで、手のひら二つ分ある巨大サイズが10円せずに買えた。

国立公園は村から16kmも離れており、自力で足を確保しなければならない。解体した牛肉をスーパーに搬入していた男に声をかけて交渉。翌日、国立公園まで連れて行ってもらう約束を取り付けた。

天上の楽園で成人の儀式 チマニマニ国立公園

ハラレでは雨季が始まったので、天気を憂慮していたが、翌朝は気持ちいい快晴。気温も昼間少し暑く、夜少し寒いくらいでちょうど良い。朝食は芝生で輪になって、フルーツヨーグルト、パンにアボカドのディップ、村の特産チマニマニチーズとチマニマニハニーを付けて食べた。実にヘルシーで美味しい。

ピックアップトラックは予定通り、10時に宿に迎えにきた。前日、血のしたたる牛一頭分の肉が転がっていた荷台に恐る恐る乗り込んだ。放牧された牛の集団に道を阻まれつつ未舗装の山道を進み、ベースキャンプへ。入山料を払い、最後の炭酸ジュースを飲んで、文明にしばしの別れ。

ここから山小屋までは徒歩のみ。買い込んだ一週間分の食材がやたらに重くて、バックパックの紐が肩に食い込む。食料だけでなく、ムタレで安かったから衝動買いした太鼓も抱えていた。同じ太鼓を買ったM君と月夜の晩に思いっきり叩くのだ。

バナナグローヴと呼ばれるルートを辿り、森林地帯を抜けると次第に登山道は険しくなり、両手を使わないと登れない場所もあった。振り返れば眼下の眺めは素晴らしく、遥か遠くにチマニマニ村が見えた。周囲は木々も生い茂っているが、石灰岩のゴツゴツした岩山が視界の彼方まで幾重にも連なっていた。

ゆっくり休みながら3時間で標高1630mの山小屋に到着。そこは山に囲まれた広い草原を眼下に望めて、重い荷物を運びあげた苦労も一気に報われるご褒美のような絶景、天上の楽園だった。みなチェックインするのも忘れて、箱庭のような緑の草原とジンバブエで二番目に高い標高2439mのビンガ山を含む山々の眺めにしばし見とれた。

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今夜ここに泊まるのは僕らだけ。山小屋の管理人のおじさんが集めてくれた薪で料理開始。しゅうすけ君は同い年で、昔の行きつけだった横浜の飲み屋で彼が働いていたという偶然もあり、すぐに仲良くなった。インドカレー好きでスパイスを常備している彼を中心に手分けをして、大豆ミートのベジカレーを作り、ご飯を炊いて食べた。

夕食後、外に出ると満点の星空。食いしん坊なので京極さんとあだ名がついたおじさんは星に詳しく、南半球でしか見られない南十字星、大マゼラン星雲と小マゼラン星雲を指差して教えてくれた。星雲は雲のかたまりのようなもやもやした微妙な光を夜空に放っていた。

しばらくすると、正面の山並みの上に丸くて明るい月がポカリと昇ってきた。奇麗な星空は消えて、影ができるほどに外が明るくなった。太鼓を叩いたり、しゅうすけ君が習っているムビラというオルゴールみたいなかわいい音がするジンバブエの民族楽器を演奏したり、月を眺めたりしながら思い思いに楽しんだ。

夜更けまで過ごしていると夜中に珍客が訪れた。ベースキャンプにいたロバがここまで登ってきたのだ。彼は月明かりの下、無言で近くに立って僕らの演奏に聞き入っていた・・・。

翌日、成人の儀式をやろうと盛り上がり、しゅうすけくんの案内で南へ向かった。公園内には幾つも小川が流れていて、水はとても冷たく、川底が見えるほど透き通っている。いくつもの沢を横切り、30分ほど道を下るとゴウゴウと音を立てて流れ落ちる滝があった。滝壷は深いようで底が見えない。

M君としゅうすけ君は既に飛び込んだことがあり、お手本を見せてくれることになった。M君がパンツ一丁で約10mの高さの岩場に立ち、ためらうことなく飛び込んだ。2秒ほどの滞空時間の後、大きな水飛沫をあげて水の中へ消えた。すぐ水面に満面の笑顔が現れて無事成功。しゅうすけ君は一度躊躇したため、踏ん切りがつかなくなってしまった。そこに水着に着替えた泥棒事件の被害者、はるこちゃんが「私が先に飛びましょうか?」と声をかけられて、いさぎよく飛び込んだ。

いよいよ僕の番。緊張で手がしびれて、息苦しい。高いところは苦手でバンジージャンプは狂気の沙汰だと思っている軟弱者である。これがもし日本だったら、これがもし旅に出る前だったら決して挑戦しなかっただろう。でもここで飛ばないでどうする、俺!ちょっとためらった後、抵抗を諦めて大自然の中へ、一気に飛び込んだ。「あ(濁点付き)ーーーーーーーーっ」と奇声を上げて、空中にいる恐怖を感じるかどうかのうちに、足から一気にドボン!水が冷たい。水面に顔を出して崖の上を見上げると、自分がこの高さを落ちたことが信じられなかった。アドレナリンが体を巡り、無事に終わった安堵と多幸感が押し寄せた。

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最後に飛んだはるこちゃんは思いっきり体の側面から落ちたため、太ももが真っ赤になった。しかし、京極さんが写真を撮り損ねたため、再び飛ぶはめに。彼女は恐怖を感じないのだろうか?二回目は更に体勢をくずし着水。「バッシャーン!」と激しく水が飛び、水から上がると太ももは内出血で紫色に変色していたが、本人はけろっとしていた。

山頂でUFOを呼ぶ儀式を執り行う

山小屋に戻ると一人の登山客が到着していた。いきなり日本語で「こんにちは」と声をかけてきたので驚かされた。彼はジンバブエに住む白人、アレキサンダー26歳。世界平和を祈るために、日本に来たことがあるというスピリチュアルな青年だった。「チマニマニの山中にあるという噂のピラミッドのこと知ってる?」と聞くと「場所は知らないけど、チベットの高僧が探しにやってきたらしいよ」とか、「NASAの職員が来て洞窟を調べた」とか、「前に来たときにUFOを見た」とか興味深い話を沢山聞かせてくれた。謎が謎を呼ぶ話の展開に、僕らは子供に戻ったようにすっかり魅了されて探検に行こうと決めた。

僕らとアレキサンダー(アレックスと呼ばれることを嫌うので、わざわざ本名で呼ばなければならない)はすっかり打ち解けた。彼は気功を勉強していて、ヨガを勉強しているM君、しゅうすけ君と馬が合ったのだ。夕食は大豆ミートのそぼろごはんと僕が持っていたインスタント味噌汁。アレキサンダーは日本食が好きで喜んで食べてくれた。

山籠もり3日目。最後のアボガドとパンで朝食。今日は眼下に広がる草原をみんなで散策。子供の頃に見たアメリカのドラマ「大草原の小さな家」のオープニングシーンを思い出さずにはいられない、なだらかな丘をスキップしながら下っていく。草原には白、黄色、ピンクなど高原植物の花があちこちに咲いていて可憐で美しい。大草原を横切る小道を端まで歩くと木々に囲まれた泉にたどり着いた。男たちはパンツ一丁でシャワーのような滝で滝ごりをして日向ぼっこ。

少し山を上って洞窟にたどり着いた。この国立公園内には洞窟や大きな岩陰が多数あり、泊まれるようになっている。コイサンと呼ばれる南部アフリカ先住民もかつてこの辺りに住みつき、壁画が残っている。一方で、現在ジンバブエの多数を占めるショナ人は、この山には悪い精霊がいるから近寄らないほうが良いとアドバイスする人もいて面白い。

夕食にスパゲティを食べた後、冗談で「太鼓を叩いてUFOを呼ぼう」と話していたら、アレキサンダーが「僕は呼び方を知っているよ」というではないか!

急遽、僕らはUFOを呼ぶ儀式を執り行うことになった。どれだけ信じているのか、みんなの心は知る由もない。自分も半信半疑だったが、UFOが出てきてもおかしくない神秘的な雰囲気がここにはあった。外に出て、アレキサンダーの指示に従い、みんなで円陣を組んでマントラを唱えた。その後、アレキサンダーが変な質問をみんなに投げかけて、全てに必ずYESと答える、という謎のやりとりを全員が済ませた。5分ほどで儀式は終了。彼曰く、僕らのヴァイブレーションが十分に高まっていれば、山の向こうにUFOが見えるはずだという。

期待とともにしばらく集中して山の上を眺めていたが、そう簡単にはUFOは現れてくれなかった。一生に一度くらいは見てみたかったが、その後も奇跡は起きなかった・・・。

(旅はつづく・・・アフリカ縦断終了まであと43日)
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