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#101「旅を続けなさい」呪術師サンゴマの骨占い

2001年12月10日

雑誌の星占いは信じないが、伝統的な占いには、歴史に裏打ちされた特別な力が備わっているような気がする。ポニートレッキングに参加した僕ら一行は午後、ロッジの敷地内にある伝統的な小屋「バソトハット」の中で、呪術師サンゴマに占いをしてもらうことになった。

通訳が英語で一人ずつ順番に入室するように説明。一番手はアメリカ人のナンシー。待っている僕らは中の様子が気になってソワソワしてしまう。ナンシーが出てくると、次はオランダ人マライアの番。最初、占いは信じないと強がっていた彼女だが、何か良いことを伝えられたのだろう。小屋の中から弾んだ声が聞こえてきた。

いよいよ自分の番が来て、薄暗い土間の小屋に入った。英語のガイドブック「ロンリープラネット」に、伝統衣装に身を包んだ女性サンゴマの写真が載っていたので、似た人物がいるに違いないと思い込んでいたのだが、椅子に座っていた本物を見て拍子抜けした。女性ではなくおじさんだったのは仕方ないとして、伝統衣装の代わりに灰色のジャケット、水色のジーンズに黒い長靴という、東南アジアの田舎で田植えしていそうなダサい格好だったのだ。

外観に騙されてはいけない。中身が大切だ。気を取り直し、神妙な面持ちで「ドゥメラ(こんにちは)」とソト語の挨拶をして、椅子に腰掛けた。指示に従い、動物の骨、角、サイコロ、大小様々な形の貝殻などを両手に山盛りに持って、土を固めた床に放り投げた。その散らばり方で占うようだが、こちらにはサイコロの目くらいしか意味が分からない。

しばし、散らばった様子を眺めてから、僕に向き合ったサンゴマは「これまでの人生はどうでしたか?」と尋ねてきた。8ヶ月前にギリシャで盗難に遭い大金を失ったものの、精神的には立ち直り旅を満喫していたので、「順調にきています」と答えた。呪術師は満足そうに頷くと、散らばった貝殻などを見ながら話し始めた。

「あなたは強い運の持ち主です。強力な先祖の霊に守られていますよ。」

通訳を通じて伝えられたその一言だけで、占ってもらって良かった!と有頂天になった。「日本に帰ったら友達を呼んで、先祖の霊を供養するパーティーを開いたら良い」というアドバイスにフムフムと感心して頷いた。「まだ結婚していませんね?」と聞かれて「まだです。」と答えると「2、3年のうちに相手と出会って、その当然の結果として子供を授かるでしょう。」と予言された。

「質問はありますか?」と聞かれて慌てた。沢山用意していたのに、頭が真っ白になってしまった。いただいたアドバイスを元に考え直して、「長い旅をしています。これからも続けるべきでしょうか?それとも帰るべきでしょうか?」と訊いてみた。

サンゴマは「旅によってどんどん成長して、より高いレベルへと進んでいきます。そのまま旅を続けなさい。あなたは人に好印象を与えるから、これからも旅を続ければ様々な人たちに出会い、沢山の経験をしていくでしょう。」と太鼓判を押してくれて安堵した。

「日本に帰ってから、やりたい仕事が見つかるか不安なのですが・・・?」と質問したら、「自然にそれが見つかって、忙しく働くでしょう。友達よりも仕事を優先しなさい。」と嬉しいような嬉しくないようなアドバイスを貰った。「長生きするでしょうが、酒の飲みすぎには注意しなさい。」というのが最後の忠告だった。概ね前向きな内容だったので満足して、両手で握手して「キヤレボア(ありがとう)」とお礼をして明るい屋外に出た。

外では占いが終わった者同士で、どのような内容だったかを話し合っていた。先祖の霊を供養すること、長生きすることは共通していた。日本人にとって先祖供養は違和感なく受け入れられるが、欧米人にとっては馴染みないことかもしれない。ナンシーはアドバイス内容と貝殻の散らばり方に納得しておらず、もう一度振りたいと愚痴をこぼしていた。

振り返れば誰かに占ってもらったのは1年近く前のこと。インドのジョードプルで、街をウロウロしていたら、子供に誘われて入った家にいたおじいさんが手相を見てくれたのだった。
どちらの占い師も僕のことを「運がいい」と断言してくれた。インドの時は半信半疑だったが、長旅を経て今回は素直に納得した。それは個人が強運か不運かという次元ではなく、先進国に生まれて、教育を受けて、不自由なく大人になり、世界を自由に旅する人生を歩んでいるという事実においてである。

アジアとアフリカを旅してきて、教育に恵まれず、まともな仕事にもつけず、劣悪な環境に甘んじるしかない沢山の人々を見てきたから確信できる。それは彼らの自助努力が足りないからだと切り捨てられない。人間は生まれた環境は選べず、人生の可能性を知ることもない。努力はできるが限界もあるものだ。 

サンゴマのお告げにより、旅に出たことが正解だったことを改めて実感したのだった。まだ旅を続けよう。

(旅はつづく・・・アフリカ縦断終了まであと2日、あと4話で終了です!)
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