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#58 混迷の聖地・その1 高圧的な入国審査 @イスラエル・エルサレム

2001年5月9日

高圧的なイスラエルの入国審査

シリアから隣国のヨルダンへ入国して、首都アンマンで3泊。ファラフェルと人参ジュースで朝食を済ませて、ミニバスでイスラエルに向かった。国境を目指して砂漠を西へ走ると、谷をどんどん下って行った。海抜0メートルを越えて更に高度を下げると、気温の違いが体感できるほど蒸し暑くなり、低地にはバナナ畑が広がっていた。

キングフセイン国境のヨルダン側イミグレーションは問題なく通過。ヨルダン川を渡り、イスラエル側のイミグレーションに行くと、入国審査に引っかかった。旅人から噂に聞いていたが、検査官は最初から非常に高圧的な態度で、こちらをまるで容疑者扱いしてきたのだった。

最初は若いお姉ちゃんの検査官だなとナメていたのだが、「なんでイスラエルに来たのだ?」、「一人か?」、「武器は持っているか?」などくだらない質問を上から目線で連発。しかも一緒にいた欧米人旅行者たちは難無く通過したのに、アジア人の自分だけ取り残されて質問攻めされているのが、差別的に感じて気に食わない。

その後、身体検査で十徳ナイフを見つけられて、「これは何のために使うんだ?」と問い詰められて、苛立ちを隠せなくなった。「果物食べたり、缶を開けたり!」とイライラした口調で答えたら「何を怒っているんだ?」と更に突っかかってきた。ぞんざいに扱われて、もう少しで堪忍袋の緒が切れそうになったが、そんなことをしたら別室に連れて行かれてしまう。最後の一線でぐっとこらえて、なんとか審査を切り抜けた。これまでの入国審査でこんな不快な思いをしたことはなく、この旅で最低のイミグレーションだった。

ちなみに入国スタンプはパスポートではなく別紙に押してもらわなければならない。イスラエルと敵対する周辺のイスラム教国は、イスラエルの入国スタンプがあると入国拒否するからである。

イスラエル入国後、パレスチナ自治区の一つ、ヨルダン川西岸地区に入った。ここは第三次中東戦争においてイスラエルがヨルダンから奪った土地。自治区とはいえ、現在では土地の6割をイスラエルが実効支配しており、現在進行形で領有権を争っている紛争地である。

バスに乗って海抜マイナス260mにある太古の町ジェリコへ向かっていると、隣に座っていたパレスチナ人のオヤジが、いきなり「お前はイスラエルに行くのか、パレスチナに行くのかどっちだ?」と詰問してきた。つまり「お前はイスラエルとパレスチナ、どっちの味方なんだ?」と踏み絵を迫られたのだった。心情的には抑圧されているパレスチナを支持したかったが、ここはイスラエル。どちらの肩を持っても危ない気がして、とっさに「俺はエルサレムに行くだけだ」と返事して難問を切り抜けた。

ジェリコはパレスチナ政府の管轄なので、パレスチナ人警官が警備に当たっていた。バスターミナルが金網のフェンスに囲まれていることが異常だし、移動しているだけでこれまで味わったことのない緊張を感じた。

エルサレムの旧市街へ

エルサレムは旅で訪れてみたい街の一つだった。旧約聖書という聖典を共有する一神教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、それぞれの聖地。二千年以上に渡り、巡礼者を引き付けてきたと同時に、領有権を争ってきた街である。その争いは世界情勢にも影響を与えており、そこにどれだけ重要なものが存在するのか知りたかった。

ヨルダン川西岸地区は荒れ地が多く、強い風が吹くと埃が舞って目が痛くなった。ジェリコからバスとセルビスを乗り継ぎ、坂を下って再び上ると金色に輝く半円形ドームが遠方に見えてきた。元ユダヤ神殿の丘に建てられたイスラム第三の聖地、岩のドームだ。預言者ムハンマドがここにある聖なる岩から天に昇って神と会ったという逸話が残されている。残念ながら訪問時、岩のドームへの異教徒の立入は禁止されていた。

6000年以上の歴史があるエルサレムの旧市街は城塞都市で、オスマン帝国時代に造られた高い城壁に囲まれている。1キロ平方メートルにも満たない城壁の内部は、建物が密集して、イスラム教徒地区、キリスト教徒地区、ユダヤ教徒地区、アルメニア人地区と棲み分けられており、各宗教の聖地もその内部に集中している。

北側のダマスカス門から旧市街に入ると、細い路地では露天商のおばちゃんたちが生のミントや乾燥したハーブを売っていた。通路は進むと更に狭くなり、立ち往生することもしばしば。クリーム色の石畳に覆われた路面はつるつるに摩耗して歴史を感じる。狭い坂道が多く車は通行できないが、荷物運搬やゴミ処理のトラクターは例外のようで、徐行で坂道を進み、時に店先の商品を引っ掛けていた。

イスラム教徒地区は、歩いている人も殆どパレスチナ人だった。路地を聖墳墓教会に向かってまっすぐ南へ進んだ後、道に迷って何度も助けられながら、路地裏の宿、アルアラブホステルに到着。

宿のキッチンでパスタを作って食べていると、聖墳墓教会の鐘の音が大きな音でカランカランと聞こえてきた。と思ったら、モスクからのアザーンも同時に鳴り響いてきた。濃厚な宗教都市の中心部にいることを耳からも実感した。(旅はつづく)

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