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#02 モテ期到来?上海ナイトライフ @中国・上海

2000年10月12日。

送迎バスが迎えにきた浦江飯店は、当時バックパッカー御用達の宿として定番だったが、元々は清朝時代1864年に上海初の西洋式ホテルとして開業した由緒ある宿泊施設。かつてアインシュタインやチャップリンも泊まったという。昼間でも薄暗い館内は天井が高く、大げさなシャンデリア、使い込まれた板張り廊下など重厚で趣きがあった。一階で両替とチェックインを済ませて、エレベータで上へ。映画でしか見たことのない金網格子の旧式エレベータを、エレベータボーイならぬエレベータおじさんが運転していた。

屋根裏的な最上階の604号室、5人用相部屋には日本人が2人、南ア人が1人、先客で泊まっていた。日本人の若い男の子は中国に留学中で、昼間からベッドの上でパソコンをいじっている。壁にスーツがかけてあるのは、上海で就職活動中だから。事情通の彼曰く、「北京は今、オリンピック開催地に立候補してるから、急ピッチで街の改革をしてますよ。開催地として相応しい街になるために、それまで無かったトイレの壁を作ってます。」とのこと。「開催が決定したら今度はドアを作ります」とのオチ付きだった。

ベッド脇に荷物を下ろし、無事に上海での拠点を確保。小腹も空いたし、同室になった三島君と名物の小龍包を食べに行くことにした。宿を出て、外灘(バンド)と呼ばれる川沿いの公園を歩いていく。この公園は横浜の山下公園に似ており、地方から来たオノボリさんたちがそぞろ歩き記念写真を撮り、 通り沿いに租界地時代の洋風建築が立ち並ぶ。川の対岸にはみなとみらい的な新開発地区があり、個性的かつ斬新なデザインの高層ビル群が上海の経済発展を物語っていた。

右を見て車が来ないことを確認して道を横断しようとしたら、左側からクラクションが鳴り、車が目の前を通り過ぎていった。中国は右側通行なのだ。事故に遭わないように気をつけなければいけない。現地の人々はみな信号無視で道路を横断し放題。混沌としている。

お茶屋の店頭で、訳知り顔で手に茶葉を取り、匂いをかいでみたり、秋に旬を迎えた上海蟹が大きなタライの中でうごめくのを覗き込んだり。見るもの全てが新鮮で、何が売られているのか気になって仕方ない。

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小籠包の店がある豫園(ユエン)は16世紀に建てられた江南の名庭園で、今は大きなショッピングエリア。小龍包で有名な南翔饅頭店は行列が出来ていた。黒酢がかかった直径3cmほどの小籠包を、湯気の立つアツアツのまま、口に放り込む。皮を噛み切ると中からたっぷりの肉汁がほとばしり、火傷するくらい熱いがとても美味い。

豫園周辺を当ても無く散歩していたら、昔ながらの住宅街に迷い込んだ。子供たちが路上で遊び、細い路地を遮るように洗濯物がかかり、生活が家の外まではみ出し、日本の戦後期のような懐かしさを感じる風景が残っていた。悲しいかな、この辺りも開発が進んでおり、ビル工事現場を取り囲む防護壁が、すぐそこまで迫ってきていた。

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帰りがけにお茶屋さんに立ち寄った。中国茶といえば鳥龍茶という先入観を持っていたが、流石はお茶の原産地。白茶、青茶など10種類ほどの茶葉が並んでいる。中国の長距離列車にはお湯が必ず備え付けてあり、中国人はプラスチック水筒を持ち込み、お茶を飲んだり、カップラーメンを食べたりするという。列車旅に備えて、店主のおじさんお勧めの茶葉と新茶の2種類購入した。

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夕食後、家族や友人に連絡をするために一人でインターネットカフェを探しに出掛けた。ネットカフェ利用者はゲームをやっている若者がほとんど。あちこちの店を回ったが、どこも回線の具合が悪くて、インターネットを使えなかった。

他のネットカフェを探して、ペプシコーラのネオンが明るい歩行者天国の大通り、南京路を歩いていたときのこと。派手なワンピースを着た、化粧の濃いお姉さんから日本語で「お茶しませんか?」と突然声をかけられて驚いた。歩きながら話を聞くと、23歳でNECに勤めているから日本語が出来るそう。しきりにお茶を飲もうと誘ってくる。中国で日本人はモテるという噂を聞いていたが本当なのだろうか。ネットカフェに行くからいいよと断ったが、僕が行く予定の店はもう閉店しているという。

閉店しているならお茶するくらいならいいかなあ、なんて心が緩み始めた時にばったり、けんご君と臼井君に出会い、「櫻井さん何やってるの?」と声をかけられた。状況を説明して、4人でお茶しようと盛り上がったのだが、店を決めたとたんに、彼女はころっと態度を変えて立ち去ってしまった。やはり騙そうとして近づいてきたのだった。友達に運良く会えたことが幸いだった。

宿に戻り長期滞在中の若者に、逆ナンパされた経緯を話すと、「道で声をかけられて、ぼったくりバーに連れて行かれて騙される人は多いですよ。日本語で話し掛けてくる人は、大抵怪しいと思ったほうが無難ですよ。」と当然の常識のように教えてくれた。

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上海3日目、夕食に中国式鍋料理「火鍋」をけんご君たちと食べて、食後はリッツカールトンホテルで上海雑技団を鑑賞。その後、上海のナイトライフを満喫するため、上海の最先端の若者が集うという触れ込みの小室哲哉プロデュース・ディスコ「Rodim」にタクシーで向かった。

街の中心部にあるファッションビルに入り、エレベータで上へ。暗い店内に入場すると、いきなり若い中国人の女の子に腕を掴まれてボックス席に連れていかれた。お店の従業員なのかと聞くと「イエス」と言う。ずいぶんと強引な店員である。飲み物は何がいいかと尋ねるから「ビール」と答えたら、渡したお金で自分の分まで買ってきた。何かおかしいなあと思っていたら、体を密着させて耳元で、「ホテルに行きたい、280元でハッピー、ハッピー」と片言の英語で囁いてきたのだった。

入口からの積極的な接待も小室プロデュースなのかと思って、なすがままにされていたが、ただの売春婦だった。可愛くなかったからやめた、というのは冗談だが、そんな目的で来た訳ではないので誘いを断った。路上逆ナンパの件といい、騙されやすいカモに見えるのだろうか。もっと気を引き締めないといつか足元を掬われそうだ。

Rodimのダンスフロアには前評判通り、街で見かけないお洒落な若者達が集まっていたが、ステージのダンスショーはダサくて、日本ではもはや過去の遺物と化したジュリアナ扇子を女性たちが振っており興ざめだった。気分も盛り上がらず、遅くなる前に帰途についた。

宿の部屋に戻って中国事情通の若者に「夕飯に食べた火鍋はスープが濃厚で美味しかったですよ!」と報告すると、「あのスープは客が使った後も、捨てずにまた別の客に出すんですよ。」と後味の悪い話を聞かされた。


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