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Customer-led Growth を追い続けて

萩原 雅裕

Customer-led Growth という言葉をはじめて聞いたのは2006年。もう16年前になるのか。いま気づいてビックリ。

当時入ったばかりの戦略コンサルティング会社で、ちょうど NPS を日本に啓蒙しているときだった。と言ってもNPSそのものを売り出すのではなく、「顧客ロイヤルティマネジメント」とか「顧客起点での成長戦略」という形だったような気がする(ちょっと記憶があいまいだけど)。

その基礎となる論文How to achieve true customer-led growth という見出しではじまり、顧客が期待するほどには、企業は価値提供できていないことや、さまざまな業種で本当に customer-led な企業とそうでない企業との業績の差が示されていた。

ちょうど日本で『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』が出版されるタイミングであり(私もゲラを読んで、ほんのちょっとだけ校正を手伝った)、東京オフィスのリサーチによって、日本のさまざまな業種でNPSと業績に相関関係があることが、これでもかというくらい鮮やかに示された資料が続々とできあがっていた。

そういえば、出版にあわせて来日していたフレッド・ライクヘルド氏に生意気にも直接質問してみたりしたなー(いま考えると、たいしておもしろくもない質問をよくできたもんだ汗)

Customer-led Growth(顧客主導型成長戦略)の主張はいたってシンプル。「悪しき利益」を生む仕組みでは短期的に利益は出せても、顧客ロイヤルティにはつながらない。顧客起点で戦略を立て、ちゃんと顧客に価値を提供すれば、長期的な業績と企業価値に反映される。顧客ロイヤルティと利益は相反するものではなく、むしろ相関する

グゥの音も出ないような正論。データに裏付けられたこの主張に、私は虜(とりこ)になった。いや、正確に言えば、昔からそうだったのだ。古い事例(ケース)でも新しい事例でも、常に顧客が本当に求めていることを知ろうとし、一見すると業界の常識に反することであっても、知恵と工夫でカバーし、それが会社の成長につながる。そういうストーリーが大好物だった。

その後、コンサルティングプロジェクトで実際にNPSを使うこともあったし、転職後もNPSこそ使わないものの顧客起点で戦略を立てたり、顧客が本当に求めていることは何なのかを議論し続けたり、NPS(とその後のフィードバックループ)を試したりといったことを好んでやっていた。

あ、転職面接で「入ったら何する?」的な質問に対して、「Customer-led Growth が大事だと思ってるから○○からはじめる」なんて回答したこともあったなー(英語面接)。

いろんな局面で、Customer-led Growth を実現・実装しようと試みてきた。大きな取り組みもあれば、ものすごく小さな取り組みも。その結果、うまくいったこともあれば、うまくいかなかったことも、もちろんたくさんある(むしろ、思うようにはいかなかったことの方が多い)。

そもそも顧客を大切にすることはそれ自体「正しい行い」であるはずだと、私は思っている。そして、より良い企業、より良い社会、より良い人生の実現へとつながっていく、そう思うのだ。

ネット・プロモーター経営―顧客ロイヤルティ指標 NPS で「利益ある成長」を実現する

どこまでできたかはさておき、想いとしては、このフレッド・ライクヘルド氏の言葉とまったく同じだった。


長い間 Customer-led Growth を実現しようとあれこれ試してきた私にとって、

顧客はサービスに価値があると思えば使うし、ないと思えば使わない(解約する)
企業は、顧客に価値を提供しつづければ成長する

というSaaSのビジネスモデルは、とんでもなく魅力的だった。

特に、B2B の世界で NPS や Customer-led Growth を実装することの難しさを実感していた身としては、「SaaSは美しい」と表現した前田ヒロさんに激しく同意した。

幸運にも SaaSビジネスの立ち上げにかかわることができ、どうやって事業を成長させるか、顧客は何に価値を感じているのかを毎日考えたり、カスタマーサクセスやカスタマーマーケティングに携わる経験は、めちゃくちゃ楽しかった。勉強会やミートアップに参加したり、アウトプットしたり、実務での試行錯誤を続けたりを繰り返すことで、学びが多かった。


最近は、SaaS市場もカスタマーサクセスという概念も成熟したせいか、話題の中心が細かい部分になりがちな印象。正直言って、細かいところにはあまり興味がなく、また大事なポイントは限られるので自分にとっての学びが減りつつあるなー、なんて思っていた(←偉そう)

そんななか、カスタマーサクセスの本家 Gainsight の日本法人設立パーティーで福田康隆さんが

Gainsightは、顧客主導型成長(Customer-led Growth)を推進するために必要な機能をすべて提供しています。

と紹介し始めたときには、思わずピクッと反応してしまった。まさかここで Customer-led Growth と再会するとは。

Gainsight.co.jpのファーストビューには「カスタマー・レッド・グロース」の文字が


聞いた瞬間、なるほど、そうだよね、と思った。

Gainsight からすると、もはや「カスタマーサクセス」という概念や機能、役割を啓蒙するフェーズは終わったんだと思う(特にUSでは)。つまり、「カスタマーサクセス」というキーワードに反応するセグメント、いわゆるアーリーアダプターの人たちには、もう届け切ったということ。

これからはキャズムの向こう側、つまりレイトマジョリティーにメッセージを届けないといけないフェーズ。だから、Customer-led Growth という戦略(成長戦略)の文脈にカスタマーサクセスを位置づける必要があるんだと思う。

というのも、実は、まったく同じようなことを考えてたんですよね(めちゃくちゃ嘘っぽく聞こえるなw)

今の日本でもたぶん「カスタマーサクセス」というキーワードは、おもにSaaS企業で働くアーリーアダプターたちには十分届いている状態(日本では圧倒的にサイズが小さいけど)。でも、日本でカスタマーサクセス(やカスタマーマーケティング)を実行・実装すべき人、つまり今はカスタマーサクセスなんて聞いたことないけど本当に知ってほしい人というのは、事業を変革しようとしている人たち、本当の意味でのDXを推進している人たちなんじゃないかと思ってる。

なので、ここから先は「カスタマーサクセス」というキーワードよりも、DXを通じた成長戦略、具体的には新規事業・新サービス開発とか、既存事業の変革とか、そういった文脈に乗せていくのが大事なんだろうなー、それってつまり Customer-led Growth だよなー、と思ってたのです。

特にこれから、インフレ・円安が進み企業のコストプレッシャーが高まると、新規顧客を獲得するハードルはどんどん上がっていくはず。そうなると、いかに既存顧客を深掘りするかという話が大事になってくる。つまり、カスタマーサクセス的な活動。

また、既存顧客を丁寧に分析していくと、自社サービスに価値を感じている(でもこれまでちゃんと対応してこなかった)セグメントを発見できることもある。それはつまり、新規事業・新サービス開発のヒントでもある。

カスタマーサクセスも新規事業・サービス開発も、「コレをやれば成果が出る、短期でわかりやすく成果が出る」という類いの活動ではない。だからこそ、差がつく。不況時にイノベーティブな企業が生まれる理由はコレだと思う。顧客中心志向をお題目ではなく本業の利益につなげられるかの本気度が問われるから。

既存顧客と向き合い、インサイトを得る。地味だけどこれが一番効果的。でもやり方が分からず困っている人も多そうに見える。

というわけで、これからも Customer-led Growth を実現・実装することに携わっていきたいし、同じ思いの方を支援・伴走したいなと、最近はそんなことを考えてます。



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萩原 雅裕

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