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書評:ラストパス(中村憲剛さん)

こんにちは、まさ@アラフィフです。

今日はサッカーネタ&書評です。

今年の6月に今年の元旦でプロサッカー選手を引退した中村憲剛さんの最後の5年間(2016年〜2020年)の出来事を、1冊の本にまとめたエッセイ(独白)本が出ました。

 すでに有名な話ですが、憲剛さん(親愛を込めてあえて下の名前で書きますが)は35歳になった時から現役人生を「あと5年」と決めていました。本書はその決断をしてから、これまで「シルバーコレクター」と呼ばれるくらいタイトルから見放されていたのが嘘のように様々な賞やタイトルを獲得した5年間の記録が凝縮されています。

ちなみに5年間で獲得した主な賞やタイトルは以下の通りです。

2016年:JリーグMVP
2017年:リーグ優勝
2018年:リーグ優勝(2連覇)
2019年:ルヴァンカップ優勝
2020年:リーグ優勝、天皇杯優勝

私はまさに2015年からでフロンターレのファンになり、憲剛さんの残りのこの5年間を見てきた訳ですが、本当に色々なタイトルを獲得し喜びを与えてくれました。一方で、選手の入れ替わりや監督の交代もあったので、チームは色々と試行錯誤しながらマネジメントしていた事が本書でわかります。

今回は本書を読んで特に印象に残った点や個人的な気づきを書いて行きたいと思います。

何かが足りなかった2016年

2016年はとにかく悔しい1年でした。リーグ戦はチャンピオンシップまで進みましたが3位、天皇杯は決勝で鹿島に敗戦ということで、ファンになったばかりの私もフロンターレのシルバーコレクターの洗礼を浴びました。

リーグ最終戦の勝てば総合1位になっていたガンバ大阪との試合、前半に2点を取っていたのに後半に3点を取られる試合や、チャンピオンシップと天皇杯の鹿島に負けた試合は、観ていて辛いものでした。

特に鹿島との2試合について、憲剛さんは本書にこう書いています。

相手の戦い方を見極め、相手の嫌がることを丹念に突いていき、セットプレーで得点を奪い、流れを自分たちの方に引き寄せる。そうした戦い方を決勝という舞台でも遂行できる。 Jリーグ史上最多のタイトル数を誇る鹿島アントラーズに受け継がれるDNAを感じた。

フロンターレは風間さんが監督になってから「止める蹴る」の技術をベースに、イメージを共有し阿吽の呼吸による連携を強みとしていましたが、チームを勝利に導くためのほんの些細な違い(憲剛さんは「隙」と書いています)が鹿島とはありました。

悲しいシーズンではありましたが、憲剛さんは個人でJリーグのMVPを獲得し、また今後のタイトル獲得に貢献することになる小林選手、大島選手、谷口選手、チョンソンリョン選手がチームの中心として1シーズン戦ったことは、2017年以降の喜びにつながります。

変化と継承を両立してタイトルを手に入れた2017年

2017年のスタートは色々な事が変化したことから始まりました。

まずは、監督の交代です。これまで約5年間チームの監督を務めてきた風間監督から風間監督の元でコーチをしていた鬼木監督が昇格しました。また、コーチスタッフも一新されています。

こうした変化の中で、憲剛さんはある決意を鬼木監督に伝えています。

もしオニさん(鬼木監督)がチームが勝つために僕を替える必要があると思った時は、迷わず、そうしてください。

この言葉は、前年の天皇杯で鹿島アントラーズの小笠原選手が終盤に交代して、交代したファブリシオ選手が決勝点を上げたことを意識して発せられた言葉でした。ある意味で鹿島の勝負に拘らない意識をフロンターレにも還元したいと思ったようです。もちろん、これは自分の立場が不安定になることを意味しますが、憲剛さんは逆にモチベーションが上がった様です。

そうして始まったシーズンですが、やはりこの年もショッキングな事が起きました。ナビスコカップの準々決勝の浦和レッズとのホーム&アウェイの試合です。フロンターレは初戦に3−1で勝利して、圧倒的な有利の中で第2戦を迎えました。しかしその第2戦の前半で、車屋選手が退場になってしまいます。守備を固めるために交代した選手は憲剛さんでした。

憲剛さんが交代した後、浦和レッズは攻勢を強め4−1で勝利。2戦合わせて4−5となり、大逆転で浦和が準決勝へ駒を進めることとなりました。

憲剛さんはシーズン開始当初に「必要があれば替えてくれても構わない」と言ったものの、この交代には納得できず、鬼木監督と1対1で話し合い自分の本音をぶつけた様です。本書には鬼木監督もこの時の采配を反省していて、その後に「憲剛を下げて負けた試合が、自分の中では大きな分岐点となった」と話してくれたそうです。

この部分は、今や名監督と言われる様になった鬼木監督のルーツになるだなぁと感じとても印象に残っています。そして、幸運にも監督1年目でリーグ優勝を成し遂げました。

後進を育てるということ

2018年以降、フロンターレは毎年の様にタイトルを獲得できるチームになりました。また2019年には前十字靭帯断裂という大怪我をしてしまいましたが、2020年の夏に10ヶ月という短期間で復活し、その後もチームの貢献して引退することになりました。

この辺りの憲剛さんの内側の感情の動きは是非本書を取って読んで頂きたいなぁと思います。記事も長くなってきたので最後に1点だけ本書で印象に残ったシーンを取り上げます。それは小林選手に対する言葉です。

小林選手に憲剛さんが引退を告げたとき、こんな言葉をかけたそうです。

(「これから僕は誰と一緒にパスの練習をすればいいんですか・・・と言う小林選手の言葉に対して」)

オレにとって宏樹さん(現・川崎フロンターレの強化部長)がそう言う存在で、ユウ(小林選手)にとって俺がそういう存在だったとしたら、ユウが誰かのそういう存在になって欲しい。

チームの伝統を受け継いで行くためには、どこかで後進にバトンを渡さなければならないし、バトンを受け取る側もその気持ちを受け止めて覚悟を決めなければならない、そうした神聖な決して形式的でない2人だけの儀式が行われたんだなぁと感じ、感慨深かったです。

今年の後半を超過密日程で非常に厳しいと思いますが、小林選手のリーダーシップに期待したいなと本書を読んで強く感じました。

少し長くなりましたが、以上が中村憲剛さんの「ラストパス」を読んで、個人的に印象に残ったシーンです。400頁近くあって読み応えがたっぷりなので、是非手に取って見て欲しいなと思います。

今日も長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。週2回以上を目標に様々なテーマでエッセイや体験談を書いていますので、またご訪問ください。

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