見出し画像

民泊の基礎知識③ 民泊×消防法編

民泊許可手続きの専門家、谷内田です。
シリーズでお伝えしている民泊の基礎知識ですが、今回は消防法との絡みについて説明をしていきます。

前回の建築基準法との絡みもそうですが、消防法についてもかなり専門性の高い分野です。
この分野もやはり建築士や消防設備業者といった専門の方がいらっしゃいますので、エッセンスを抜き出していきます!

消防法とは

消防法とは何ぞやというところなのですが、文字面だけでも何となくイメージできるのではないかと思います。
また、テレビニュースなどで繁華街の雑居ビル火災が起きると、『このビルの階段には荷物が積んであり、消防法違反の疑いが~』といったアナウンスを聞いたこともあるのではないかと思います。

消防法は、火災の予防や警戒、鎮圧を行うことで、国民の身体や生命、財産を火災から保護しようというのが、目的になっている法律です。

具体的には、火災の予防や警戒、鎮圧に必要な設備の設置基準点検、あるいは消防隊員の消火活動や救急活動についての大枠を定めています。

消防法と建築物

火災というものはどこでも起こりえます。
それこそ、一般住宅での火の不始末もあれば、山林での自然発火などもあります。
もちろん火災が発生すれば常に人命にかかわる可能性がありますし、いつまでも放置をしていい訳ではありません。

そこで、まず消防法上、火災の予防や発生した時に備えて一定水準以上の消防設備を設置しなければならないものを「防火対象物」として定義しています。
この防火対象物には、前述の山林や住宅等の建築物、あるいはふ頭に繋留されたなどが含まれます。

これらの防火対象物の中でも特に、不特定多数の方が利用する大型ショッピングモールや劇場などで火災が発生したらどうなるでしょうか?
どこに逃げていいのかわからず、煙や火に巻かれて亡くなってしまう可能性だって十分に考えられます。

消防法は、このような火災が起きた際に危険に陥る可能性が極めて高い建物を「特定用途の防火対象物(特定防火対象物)」として定義をして、より高い水準での防火等に関する設備基準を設定しています。

消防法と建築基準法

消防法と同じように、建築物の防火や火災が起きた際の延焼防止を目的としている法律に、建築基準法があります。

慣れないと非常にややこしいのですが、消防法は火災の発生から消火といった各プロセスに対して、「設備面から」有効なアプローチ方法を模索している法律といえます。
一方で建築基準法は、「建築物の構造から」有効なアプローチ方法を模索している法律です。

かなり大雑把な説明ですが、建築基準法が「」だとすると、消防法は「付属品」というイメージが一番近いです。
ですので、同じ「火災」という出来事に対して、2つの視点でそれぞれ別々の法律が動いているため、時にはこの2つの法律が交わる地点が出てきます。

たとえば「避難器具
消防法上も、建築基準法上も、避難器具についての規定が存在しています。
ただし、それぞれ設置基準が異なっています。
この辺りはかなり雑な説明をしているので、きちんとしたことは設計事務所や消防設備業者の情報発信をきちんとご参照されることをお勧めいたします。

また、「非常用照明」と「誘導灯
非常用照明は建築基準法上の設備で、誘導灯は消防法上の設備です。
誘導灯、よく見かける緑色の避難口マークのことです。
これらは別々の法律で定められた設備で、非常用照明は「緊急時の明かりの確保」、誘導灯は「緊急時の避難方向を示すもの」です。
こちらは、一定の場合には片方の設備でだいたいが出来たり、素人にはかなり複雑な法律の作りになっています。
やはり専門的な知見を持っている、設計事務所や消防設備業者にご確認されることをお勧めいたします。

消防設備の一例

これまでふわっと説明してきましたが、消防設備には以下のようなものがあります。

・消火器
・自動火災報知設備
・スプリンクラー
・誘導灯
・避難器具

もちろん、これは一例なので他にも細かく挙げていけば種類はあります。
また、消防設備とは少し違いますが、消防法上カーテンやカーペット、ブラインダーなど、燃えにくい素材でできている「防炎物品」といわれるものもあります。

防火対象物

先ほどお伝えした「防火対象物」については、下記の一覧をご覧ください。
これは、消防法施行令別表第一といわれるもので、消防署の職員と会話をする際にはこの表が頭に入っていることが大前提となります。

この中でも黄色い網掛けがされているのが「特定用途防火対象物」で、消防設備について厳しい設置基準が与えられています。

ここで押さえておくべきは、
消防法上の用途と建築基準法上の用途必ずしもは一致しない
ということです。

なんかもう既に訳分からないことになっていますよね。

分からない場合は、相談してください。笑

消防法×旅館業

皆様の頭が混乱してきたところで、さらに畳みかけたいと思います。

まず、旅館業法上の営業許可申請を出す場合、観点としては3つあります。

①保健所の衛生確認
②建築課の検査確認
③消防署の検査確認

宿泊事業を営む施設については、先ほどの「消防法施行令別表第一」上は

(5)イ

に該当します。
「ごこうのい」なんて言ったりします。
決して寿限無ではないです、五劫の擦り切れ。

(5)イは「旅館、ホテル、宿泊所その他これらに類するもの」と定義されています。
そして、各消防設備について、(5)イの場合にはこういった基準で設置してね、というのが、決められています。

少し前の方で消防設備について一例を挙げましたが、特に厳しいのかスプリンクラーです。

原則論ですが、
①11階以上の建築物で
②消防法上の用途が(5)イ
の場合、全フロアにスプリンクラーを設置する必要があります。

スプリンクラーの設置って実は結構大変で、まず水を貯蓄しておく水槽が必要です。
スプリンクラーは、一定時間、一定量の水を放水しなければならないので、大量の水を貯蓄できる設備が必要です。
また、貯水槽以外にも水をくみ上げるポンプや、ポンプを動かすための電源装置等が必要になり、設備投資としては相当大規模なものになります。

ちなみになんで11階以上の建築物に必要なのかというと、一般的にははしご車のはしごが届かない高さだからです。

消防法×住宅宿泊事業

住宅宿泊事業として行う民泊物件は、建築基準法上の用途は「住宅系」だということを別の記事でお伝えいたしました。

それでは、消防法上の用途も、住宅系なのでしょうか?

残念ながら、それは不正解です。

住宅宿泊事業として民泊を始める際も、消防法上は(5)イの扱いとなります。
ということは、やはり厳しい基準で消防設備を設置しなければなりません。

特に注意しなければならないのが、共同住宅(マンション)からの民泊転用案件です。
前のセクションでもお伝えしたように、11階建て以上の建築物で宿泊施設としての事業を行おうとすると、原則全フロアにスプリンクラーが必要です。

実は共同住宅というのは、消防法上様々な特例規定があり、また時代によってさまざまな緩和措置があり、本来つけなければならない設備をつけなくてもいいという風になっていることがあります。

スプリンクラーもその一例で、スプリンクラーの11階以上の設置趣旨というのは「はしご車が届かないから」という理由です。
なので、共同住宅の場合でも本来は、11階以上にはスプリンクラーを設置しなければいけません。
ただこれが、「パッケージ型」の設備でもOKとなっていて、この場合、貯水槽やポンプ、電源装置等の大型工事が必要無くなるのです。

一般的に、共同住宅を建築するときは少しでも施工費を下げたいと思いますから、通常のスプリンクラーを導入せず、パッケージ型で代替していることがほとんどです。

共同住宅のままで運用するならそれで問題ないのですが、これが民泊として転用することになった瞬間に地獄をみます。
民泊として利用するとなった瞬間に「消防法上の用途」が(5)イに変わりますので、スプリンクラーを設置しなければならないのです。

ただ、現実問題、スプリンクラーが導入されていない建物に新たにスプリンクラー設備を設置するというのは事実上不可能です。
数億円くらい投資すればできるかもしれませんが、正直建物全部壊して新築した方が安いです。

ですので、11階建ての共同住宅を宿泊施設に転用するのは、避けた方が賢明です。

ただし、住宅宿泊事業については、
①家主同居型で
②宿泊室の面積が50㎡未満
であれば住宅扱いとなって設備設置が免除ないしは緩和できる可能性もあります。

消防法×特区民泊

特区民泊についても、建築基準法上は原則「住宅系」となります。
ただし、消防法上は(5)イとなる点については、旅館業、住宅宿泊事業と変わりません。

ですので、注意点としては全く同じになります。

まとめ

今回は、民泊×消防法をテーマに解説してきました。
正直な所、この部分はかなり専門性が高く、一般の方が理解するのは難しい分野であると思っています。
消防設備は、万が一の事態に人命が救われるかどうか、を左右する、決定的な事項です。

宿泊事業は人の命を預かる事業であるということを肝に銘じていただいて、きちんと法律に適合した形で設備投資をしていくことが必要です。

人命にかかわる部分の設備投資ができないのであれば、手を出すべきではない、とすら考えています。

ぜひ、民泊物件選びのご参考にしていただければ幸いです。
民泊手続きに関するご相談も受け付けています。
ぜひ、ご相談ください。


いいなと思ったら応援しよう!

谷内田真也
最後までお読みいただきありがとうございます! 読んで価値があったと思っていただけたら、執筆意欲の向上に繋がりますので、よろしければサポートお願いいたします。