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 『調味料』

「空腹が最大の調味料」であるといったのは、かの古代ギリシャ哲学者のソクラテスでした。この言葉はキケロの「至善至悪論」に引用されています。脳科学的にも、空腹時は、脳の血糖値が低下し、神経細胞が活性化することで味覚が敏感になるということが分かっています。

調味料というと、味の素を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。私は元々味の素に勤めていたこともあり、調味料に関しては多少知識があります。グルタミン酸ナトリウムをはじめ、中華系、塩、和風だし系など様々な調味料を研究していました。

もともと若い頃から、濃い味が好きで、卓上にあるソースやしょうゆを、目の前のおかずにたっぷりつけて食べていたので、母からはいつも「つけ過ぎ」「かけすぎ」と注意されていました。

その後、味の素に就職したことも相まって、各種の調味料はいつも卓上にそろっていました。つまり、濃い味付けを好む傾向は大人になっても続いていたのです。長年続けてきたこの食習慣により、塩分過多をまねき、次第に高血圧に発展していきました。

それでも食習慣を変えられずにいた結果、ついに脳卒中で倒れるという悲劇を迎えてしまいました。幸いにして一命を取り留めたものの、濃い味付けの食習慣を変えない限り、再発は免れないと担当医から告げられました。

私はそのような人生の一大転機を迎えることにより、ようやく、その後の人生で塩分とカロリーを控えるという生活を送れるようになりました。その結果として、倒れる前は90kgオーバーだった体重を70kg前半まで落すことができました。毎回の食事のカロリーをコントロールすることが難しかった為に、一日2食というペースを習慣化しました。

この塩分とカロリーを控えるという食生活に変えたことにより、わかったことがあります。ひとつ目は、塩分を控えると素材の味に敏感になるということです。たとえば、野菜から出る出汁にも味があり、それだけで十分に美味しいのです。

もうひとつは、人は毎回定時に食事をする必要はないということです。つまり一日3食を食べなくても良いのです。とにかく腹が減ったら食べるというようにしたら、結果として胃袋が小さくなり、それほど量を欲することがなくなりました。さらに、毎回の食事で使う調味料も、ほんの少しの風味程度でよくなりました。

そして、はからずも、この「腹が減ったら食べる」という原始的な食生活を習慣にできたことで、「空腹を最高の調味料」に祭り上げることに成功したのです。脳卒中という病のおかげで、時空を超えて古代ギリシャのソクラテスの言葉が蘇りました。「空腹が最高の調味料である」というこのソクラテスの主張に、もはや「弁明」の余地はありません。


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