第10回「本音から組織を変える技術」

組織変革は「本音の開示と事業方針の合意」

4年から業績向上の為に営業支援に入った大手IT会社の販売会社子会社の事例である。当初は1年かけて行った営業変革プロジェクトの甲斐があって、その年の業績は向上した。しかし、私から見て、まだまだその仕組みの定着までは至っておらず、プロジェクトの継続を提案したが、社長から来年度は内製化でとの意向を受け、その後の継続が叶わなかった。

しかし、その後再び業績が落下、改めて根本的な組織変革をどうしたら良いのかとの相談を受けた。私は経営陣の意識変革の必要性を訴えた。その意をくみ取って頂き、経営陣への意識改革研修が始まった。約半年が経過した折、ある役員から「営業所長との間に温度差を感じる」との発言があり、「目安箱」を設置し、無記名で営業所長の本音を聞くという企画を実施した。蓋を開けてみたら、経営陣のパワハラ、立て続けの離職者増、曖昧な指示命令による戸惑い、社内資料の提出の多さ等々、思ってもみなかった不平不満が噴出した。

この事態を真摯に受け止めた社長からの依頼で、研修の軸足を営業所長へとシフトし、まずは上記の不平不満の整理と重点化を行った。このような状況に陥った経緯は以下の通り。本社から赤字経営の立て直しの命を受けて、新たな経営陣が送り込まれた。典型的な体育会系リーダーを営業本部長に据えた組織体制。営業所長からすると、これまでのキャリアを真っ向から否定され、戸惑いとストレスを抱えながらの呪縛の時であったであろう。経営としても、すべては本社の期待とその責任感から行われたことであった。20年前だったら正当化されたであろう組織立て直しの手法かもしれない。

しかし、このVUCA(不透明な)の時代に、もはやこの旧態依然のマネジメントは通用しない。その後、経営陣と営業所長との対話の場を設けて、問題の検討会議を実施した。私はその場で「会社は経営者が変わっただけではうまくいかない。それぞれの役割を機能化することが変革の駆動力となる」ことをお伝えした。そしてこれからはお互いの信頼をベースに、しかるべき権限委譲を図ることが、組織変革の要であるとの理解を促した。

その後、それぞれの営業所長の個性を認め、所長自らビジョンと事業方針を考えてもらい発表するという改革を目指した。その後月日が流れ、遂に昨年末に方針発表会を実施するに至った。その後の懇親会での社長からは「本日の営業所長の事業方針を聞き、ようやくあるべきゴールに向け一体となって走ることができると確信した」とのコメントがあった。

4年がかりのプロジェクト。経営陣の総入れ替え、本社からの赤字経営の脱却の重責を担った強烈なトップダウン。誰も会社を悪くしようと思っている人はいない。ただ、そのやり方が分からなかった。これは日本の至るところで散見される事象。要は会社を良くするという前提で「本音を開示と事業方針の合意」である。もはや、日本企業特有の建前論は通用しない。これからは「本音で語る」が組織変革のキーワードだ。

 

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