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2000人超の処分!かんぽ生命の不適切販売問題について

■目的を見失った


この問題についてまず考えなければならないことは、営業(郵便局員)の目的は何かということです。言い換えれば営業の定義をどう捉えていたかです。この事象を見る限り、日本郵便の営業はノルマを達成することという定義で活動を行っていたという事になります。自社都合優先、ノルマの達成が個々の営業、組織の使命となっていたのではないでしょうか。日本郵便に限らず、このような古い考え方をしている組織、営業マンは少なくありません。「お客様の為」と標ぼうしながら、現実的には目標というノルマを優先し、その達成のみに活動を向かわせるという管理手法です。人口が伸び、市場が伸びていた時代には、とにかく頑張れ、さすれば偉くなれるという紋切り型のスローガンを掲げれば、頑張れた時代には辛うじて通用していたやり方ですが、今の時代には全くそぐわないやり方で、この旧態依然の考え方を変えられなかったというのがこの問題の根本原因だと思います。本来はお客様のために最適なソリューションを提案するという使命であるはずの営業が、自分のノルマの為に、不適切な提案をして「数字を獲得する」行為をやっていたわけです。察するに、日本郵便の営業の方々のモチベーションはかなり低かったと推測されます。ノルマを達成すれば、また、より高いノルマがやってくるというバッドスパイラルに陥っていたのは間違えありません。つまり、目的と手段をはき違えた活動をしていたのでしょう。人は目的が見えない、健全ではないことをするとストレスがかかります。意味もなく、穴をほって、その穴をまた埋めるという仕事は人を狂わせます。なぜならば意味がないからです。もし、意味をつけるとしたら「拷問」ということになるでしょう。
長くなりましたが、人は本来、誰かのために役に立ちたい、貢献したいという気持ちをもっています。さらに、自分の仕事が社会に貢献できているという実感があれば、それだけで幸福になれます。つまり、営業の目的はお客さんに貢献することであり、その行為が社会の為になっているということを確信できれば、仕事にやりがいを感じます。その使命感を見失っていたので、このような事象が起きてしまったという事ではないでしょうか。
その定義を会社が掲げて、それを上司が部下指導の中心に置いていれば、上から何といわれようと、「それは会社が目指す目的と合わないのでできません」ときっぱり断ることができたはずです。さらに、そのような組織風土ができていれば、定義に合わないことを部下に強要することもなかったと思います。
■これから時代に考えねばならない事
日本の人口減少どんどん進んでいく中、やみくもな業績拡大志向は時代に合わなくなりました。日本郵政の決算報告を見てもやはり、対前年で伸びたのか、減ったのかという数字のオンパレードです。どれだけお客さんに貢献できたのか、社員の満足度が上がったのかという指標は見当たりません。リモートが進み人や会社との心的距離が遠くなってくると、自分を冷静に見つめる機会も増えるでしょう。また、時間に余裕ができたので、副業を始める人も多くなっています。つまり、今務めている会社に頼らなくても生きていける、会社に生殺与奪の権を握られることのないサラリーマンが増えていきているという事です。そうなると、会社から給与をもらっているのだから、指示通り働くのは当然だろうという論理で従わせることがもはやできなくなってしまったという事になります。上司の権限は給与評価にあったものが、その唯一が無くなってしまったのです。これからはポジショニングパワーで屈服させる上位下達のマネジメントは通用しない世の中になりました。通用しないというよりはそこから脱皮しない限り、会社が存続できない時代になったといった方がもはや正しいかもしれません。そのためには、今一度企業の目的を明確にし、お客様と社会に貢献することを掲げ、その実現のためにどうしたらいいのかをひたすら追求する会社を目指すことです。営業の評価も数字を達成することではなく、お客様に貢献し、どれだけ信頼を得たかをKPIとする時代に移行したのです。つまり、会社の理念に合うか合わないか、働き甲斐を見いだせるかどうかが、もはや就職活動の大きな判断基準になりつつある、否、すでになっています。

■お役人の体質


別の確度からこの問題を考察すると日本郵政は半官半民の企業で、巨大な売上と利益があり、日本国に守られている企業です。株の半分以上が国の保有、保有証券の多くが国債という事実からみてもそうです。つまり働いている従業員は役人です。役人は「与えられた仕事を使命と捉え、遂行する」というものだと、ある官僚の方から聞いたことがあります。役人道は日本の精神、武士道に近いものがあるように思います。上からの指示には忠誠を誓うという精神性です。一方、この問題は「私は貝になりたい」という映画を想起させます。戦時中に上官の指示により捕虜を竹やりで刺し殺した二等兵が東京裁判で死刑を宣告されて、そのまま絞首刑になったという話ですが、裁判の時に主人公は「戦時下で、上官の命令に従わない判断などできるはずがない」と反論するシーンがあります。私は、この問題に関わった2000以上の社員を、誤った号令で向かわせたにも関わらず、処分して事を収めようとする姿勢には賛同できません。


■日本人の弱さ


日本人は「恥の文化」だと説いたのはR・ベネディクトの「菊と刀」でした。恥の文化とは、恥じないこと、人に後ろ指を指されない生き方をしなさいという精神性のことなのですが、これを掘り下げると、自分勝手なことをするな、人に迷惑をかけるな、最後は人と違う事えするなということにもなります。この精神性のお陰で、何の罰則もないのに、緊急事態宣言が出されれば、外出を控え、三密を控えるという従順な国民でもあります。しかし、全体が違う方向に向かっても「違います」とは言いにくく、右に倣えと甘んじてしまう弱さもあります。そういう意味では、役人体質の悪い面、日本人の脆弱な部分が露呈したのがこの問題の背景にあろうかと思います。

■真の改革を目指す


私がこの会社を立て直す立場ならば、
① 日本郵便の社会的使命を再考し、
② その実現のための具体的な目標を掲げ
③ 社員の評価はその実現にどれだけ貢献できたか
④ 逆に会社の評価はどれだか社員満足度を上げられたか
を軸にします。そして、透明性と誠実、信用と信頼を掲げ、日本一働き甲斐のある会社を目指す方向に舵を切ります。

そのためには、まずは、社員の不満を集め、実行可能なものから順次解決に向かい、お客間の信頼とともに、社員の信頼回復を図ります。

問題を変革のチャンスと捉え、大胆な改革が行われることを期待します。
その改革がこれからの日本再生の模範になればこれほど大きな社会貢献はありません。


以上


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