【読書録93】主体的に行動しないことはただ命を失っていくこと~高橋祥子「生命科学的思考」を読んで~
以前から、読んでみたいと思っていたが、ようやく図書館で順番が回ってきて手に取った。
めちゃくちゃ面白かった。
科学者ならではの論理的な文章と生命科学研究者ならではの視点。人としての生き方を考えさせられた。
副題の「ビジネスと人生の「見え方」が変わる」というのも過大なタイトルではないと思う。
本書を通じての著者の主張は、こうである。
生命の原則とは何か?
生命に共通する原則とは何か?
と著者は言う。
例えば、他人に対して怒りを覚えてしまうのは、自分の敵に対応するためであり、孤独感は人と集団で生活することで生き延びてきた人類が、一人で生きることを避けるための機能だという。
こう言った視点を持つことで、客観的に物事をみることができる。
客観的を超えて「達観」とも言えるかもしれない。
生命原則から見た時の「死」の捉え方も興味深い。
身近な人や自分自身の死というのをそんなに達観して見ることはできないが、だからこそ、限られた生を精いっぱい生きようという気になる。
そして多様性に対する捉え方も非常に興味深い。
LGBTに対する仮説もなるほどと思う。
スエヒロタケと言われるキノコは、性別が2万3千種類以上あると言われており、2種類の性別しかないのが、人類の最終形態かどうかは証明できないと言う。また魚類では、集団内の環境によって、性別が頻繁にかわるものもあると言う。
そのような事実から、LGBTを含む性の多様性を、人類の発展途上かもしれないと言う。
そのように視野を変えて物事を見れるのも、生命科学という一つの専門分野を極めているからであろう。一つの分野を極めて、その視点から物事を見るのは深いところに到達できるのだろう。
人間の本質は、主観性=自分が何をやりたいか
著者の真骨頂は、生命科学者のみならず、起業家であるという事である。
起業家としての側面が大きく出ているのが、人間には、生命原則を理解した上で、それに抗うために主観的な意思を活かして行動できるという後半の主張であろう。
本書の面白さを何重にも増しているのが、この人間の主観性に関してだと感じた。
この箇所、非常に好きである。
著者も例に引くように、新型コロナウイルス感染症の流行などは、社会経済のあり方が変わり、自分の考え方も大きく変わる出来事であった。その中で残った自分の主観、自分らしさこそ、忘れてはいけないものなのである。
自分の主観の見つけ方
自分の主観は何なのか?私自身もよくわからないが、著者はこう言う。
行動する中で見つけていくというのは非常に共感する。そして起点はやはり自分の好きな事なのだ。
それでもピンとこない人に対してこう言う。
震災とかコロナなどの有事、或いは、海外など生活習慣文化が違う環境、そんな状況に身を置くことで見えてくるもの、それが本当の自分、自分の主観なのかもしれない。
その他、著者の主張で興味深かったことなどを書いていきたい。
「覚悟」とは何か?
私は、自分がやったことに対して、後から「こうしとけば良かった」「なんでこんな選択してしまったんだ」と思うことが多い。
著者は、私のように後からうじうじとするのを「葛藤」と呼び、それは、「覚悟」が足りないとしてこう言う。
覚悟は不確実な未来に対する「掟」
最初に決めていくという時間軸を持つこと。なかなか難しいが、著者が言う、時間軸の視野のコントロールを持つ、せめて意識するというのがポイントだろう。
時間軸については、「いつかくる未来のために生き続けることの虚しさ」として、ニーチェの「過去が現在に影響を与えるように、未来も現在に影響を与える」という言葉を引用してこう言う。
「いま、ここ」という禅の教えがあるが、これも同じことなのだと思う。
快楽と幸福の違いも時間軸の持ち方の違いとするが、「いま、ここ」に集中するとは、単に現在を過去・未来と分断するのではなく、広い時間的視野、空間的視野の中で、いま、ここで何をするのかということなのかなと考えた。
行動することで情熱が湧いてくる
次に印象に残ったのは、「行動」についてである。
著者は、「情熱とは、後天的に獲得可能なものである」としてこう言う。
また東京大学の池谷裕二教授の言葉としてこう紹介する。
これもよくわかる。
うじうじ考えている時間あれば、Just Do It!!なのだ。
やりたいと思っていること、まだ手を付けていないことはささっと始めてしまう。
これは本当に大事。
主体的に行動しないことは、ただ命を失っていくこと
このような強烈な言葉を使い、著者は自分の価値に沿った行動に駆り立てる。
科学的に客観的にいうとこういうことである。
とりわけ、私のように中年になってくると、学生や新人と違い、知らないことについて強制的に勉強させられる環境が無いため、意識的に行動して行くことが重要であるとする。
そして、行動の重要性として、こう締めくくる。
行動こそが、正のスパイラルを回していく一番の源なのだ。
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