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【読書録86】致知2023年5月号「不惜身命 但惜身命」感想

 今年度に入って、早くも2か月が過ぎようとしている。
日々、漫然と過ぎ去っていく。致知を読み自分を振り返る時間の貴重さを感じる。
 さて、今号の特集は、「不惜身命 但惜身命」。後半の但惜身命には、あまりなじみがなかったが、この後半で深みが増す。
 大徳寺・後藤瑞巌老師の言葉なども後程紹介するが、8文字で1セットだと感じさせられた。

総リード 不惜身命 但惜身命


 安岡正篤師が、「不惜身命」「 但惜身命」について記した言葉からはじまる。

「仏教から言うならば、道というもの、法というもの、法というものは、なにものにも代え難い尊いものであってその尊いものを求め行ずるためには、この身この生も惜しまない‥・・・これを『不惜身命』という」
「その尊い法を求め行ずるが故に身命を惜しむ‥・‥これを『 但惜身命』という」

そしてこう結ぶ

「但惜身命なるが故に不惜身命である。身命を惜しまずしてただ法を求むるのである。求むるが故に身命を惜しむのである」一見矛盾するようだが、どんな道であれ、一道に命をかけて打ち込んだ人は、皆こういう覚悟をもって事に臨んでいたのではないかと思われる。

 本当に取り組むべきことのためには、捨てるべきところは捨てる。「小事省事」という事に通ずる。
 真に求める一道というものを定め、進んでいきたいものである。

 イチローが、大谷翔平にアドバイスしたという「無理がきく間は無理をした方がいい」という言葉も、同義であると紹介する。

 無理をするから実力が養われるが、無理がたたってへたり込んでしまうような無理はしない方がいい。そのバランスを自分で見極め、無理をすることが向上に繋がる。

 最後に禅僧の青山俊董氏の「生命は仏さま、病気はお医者さまにおまかせ、授かりの生命の限りを報恩と誓願に生きたい」という言葉を不惜身命但惜身命を体現する言葉として紹介する。

 自分でコントロールできないものには、囚われず、自分がやりたい事、やるべき事に集中する。

 これが、颯爽と生きる人の姿であり、「不惜身命 但惜身命」を体現する生き方であろう。 

 本号では、この言葉を体現する方々が多く登場する。その方々のものの考え方、感じ方には、共感するものが多い。

その中から、2つ取り上げたい。

世界の平和に人生を捧げて


 裏千家前家元・千玄室氏と五井平和財団会長・西園寺昌美氏の対談記事。
特攻隊の一員として出撃命令を待ちながら、戦争を終え、復員した千氏に対して、大徳寺の名僧・後藤瑞巌老師が言ったと言われた言葉が印象的である。

 「この前、あんたは不惜身命と言うたやろ。不惜身命とは何かに命を捧げることや。しかしな。 但惜身命という言葉もある。命は捧げるときは捧げなきゃいかんが、半面、命はどこまでも大切にすべきものや。それも単に大事にするのではなく、他人様のためになるように使うものや」

 千氏は、この一言で目から憑き物が落ちた感覚になり、「一盌からピースフルネス(平和)」を掲げ、アメリカに渡るきっかけになったという。

利休が説いた「和敬清寂」。玄室氏の解説が良い。

「和」 和み
「敬」 お互いを尊敬し合う、リスペクトする気持ち
「清」 心を清らかにする習慣
「寂」 不動の信念を持って歩め

「清」のところではこう言う。

人間の心は汚い。これを自分で収められるよう自己を修じなくてはいけません。修じるには祈りであるとか、お茶を点てるとか、スポーツに打ち込むとか、そういうものを持つことが大事です。

 清らかになるには、己を修めることが必要で、そのためには何かに全力で打ち込むこと
大切な観点である。また寂の解釈の仕方もうならされる。長年に渡り茶道と向き合ってきた玄室氏の重みを感じさせる。

 西園寺氏の生き方も、不惜身命 但惜身命そのもの。

自分の使命のためには命を捨てる決意で進む。一方、生かされている限りは、神様から自分に与えられた天命を全うできるよう力を尽くし、安心立命の境地に至る。生きていく上では、この両方の調和がとても大切なのではないでしょうか。

 私自身の天命は何であろうか?全力で打ち込めるものは何だろうか?

成功の要諦は”無我夢中の歩み”にあり


 「カメラのキタムラ」のキタムラ・ホールディングスCEOの武田宣氏へのインタビュー記事である。

 ソニーを再生させた、平井さん、日立を復活させた川村さん・中西さん。大企業の再生は、もちろんとんでもなく凄いことであるが、今回のキタムラのV字回復の話は、規模もそれほど大きくなく、またスマホの普及で振るわない一見、構造不況業種にも見えるカメラ業界の話という事で興味深かった。

 カメラの素人ながらV字回復に導いた武田CEOの考え方や物事の捉え方等が素晴らしい。

私はこれから先、どの産業においても、ただ物を売る、サービスを一方的に提供する商売は厳しくなっていくと考えています。それよりも、お客様のライフスタイルに合わせた商品・サービスを提案し、人生の節目でいかにキタムラと接点をつくってもらうかが重要。その人の生活に必ずある「フォト領域」をどのように設計するのか、それが大切な役回りだと思っているんです。 

 ライフ・タイム・バリュー(LTV)をどう高めるかという考え方であろうが、なかなか具現化するのは難しい。
 
 キタムラの経営を引き受けるに当たり、これまでの延長戦では将来は明るくないとしながら、キタムラの他では真似できない強みが多く、大きな可能性を感じていたという。

 お客様からの厚い信頼、全国各地に根付いた店舗、カメラに精通した社員、創業から約九十年かけて培われたこの基盤にはものすごく価値があると感じたんです。

 そして、強みを生かして、LTVを高めるという事について、こう言語化する。 

 私たちの生活の中に密着している「フォト」という文化をうまく収益化する。

 その上で、再建に着手した武田氏の4つの戦略が非常に私自身の業務を行う上でも参考になった。

➀「スリムマッチョ化戦略」とにかく会社を筋肉質に変えること。
➁ デジタル化  
③ マーケティングとブランディング
➃ 働き方改革 マルチタスク化

 ➀の「スリムマッチョ化戦略」は分かっていることであるが、改めて、会社を健全に采配するには必要なことだと考えさせられる。

 無駄を削ぎ落して会社を健康体にする。そのために仕事の中身を数値化する。データを元に社員との綿密なコミュニケーションを重ねたことで、会社を高利益体質に生まれ変わらせる事ができたという。
  以下の例え方はよく聞く話であるが、このたとえが一番理解しやすい。

健康診断と同じで「肝臓悪そうですね」と言われてもぴんとこないけども、数値を出されたら「これやばい」と思うでしょ?キタムラの社員も、どうも調子が悪いなと思っていたはずなのに何が悪いのか分かろうとはしなかった。

 数字の力、定量化の力は侮れない。人は数字を示されるとその数字をよくしよう、達成しようと夢中になる生き物だと誰かに言われたことがあるが、言い得て妙である。

 そして構造改革のベースとして最も大切にしてきたというのが、「コミュニケーション」。伝統的な企業で取締役を勤める私にとっては、以下の言葉がとても刺さった。

社員とキタムラの歴史へのリスペクトをすべての根本に据えました。実際、理解できないことが大半なんです。それでも理解しようという姿勢を示すには、やっぱり丁寧で緻密なコミュニケーションしかない。根本にリスペクトがなかったら、誰も働いてくれませんから。

 また、他に組織をまとめる上で大切にしてきたこととして、以下を挙げる。これも仕事の根本だと感じた。

どんなことが起きたとしても、己のすべてを懸けて当事者として向き合うこと、絶対に逃げないこと、やり切る覚悟に尽きると思います。

「人の話をしっかり聞く」ことも大切にしてきたという。
社員の皆さんの思っていることを引き出し、対話して納得してもらうことが大事という。インタビュアーの「それは非常に根気のいる仕事でもありますね」という言葉にたいしてこう返す。

そうですね。ただ、結果が出ると皆もついてきてくれました。小さな成功体験を共有し、積み重ねていくことで信頼感も高まっていったと思います。

これは、自分の戒めにしたい。どうしてもすぐに結果をもとめたがる。

武田氏の「いまここにある価値を最大限輝かせるには何が最善か」という視点にハッとさせられた。

今までの歩みを振り返ってこういう。

「無我夢中」というひと言に尽きると思います。人間、自分の足下ばかりを見ていたら、どうしても自我やエゴに取りつかれてしまう。でも夢の中に没入していればそういうつまらないことは忘れているじゃないですか。自分というものを無くして自らの使命に浸り切ることが大切だと思うんです。

これからも周りへの感謝を忘れず、自我やエゴを忘れて夢中になるような在り方を常に目指し、会社をさらに発展させていきたいと思っています。

「諸法無我」の精神か。自我を忘れた時に、表れてくる本当の自分はものすごい力を持っている。その力。大切にしたい。

 しかしながら自分の使命は何なのか?と考えさせられた。
「会社に流されているだけなのか?」 一方で、「その場その場で与えられるミッションに価値も感じている」のも事実である。

 その場その場で無我夢中になることで、自分の成長につなげていく。
前回の読書録で書いた「人間としての成長」こそ求めるものなのかなあと改めて考えた。

 



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