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【読書録58】「立体としての歴史」を学ぶことで未来をつくる~加藤陽子「戦争まで」を読んで~

本書を読む今日的意義 

 
 日本が、大東亜戦争に歩んでいく道は、現在に生きる我われにとり、その道しかない歴史の中の必然のように感じるが、本書を通じ、何度かの選択の機会に、(意図的にかどうかはさておき)選択した結果であることを、膨大な資料と多面的な分析で立体的に炙り出す。

 私が生きてきた人生の中で、今ほど戦争が身近な時代はない。ロシアによるウクライナ侵攻、台湾危機。
 本書を通じ、様々な選択肢がある中で、多くの人が望まない中で戦争という事態にまでいってしまう危機があるという事を思い起こさせる。
 そのような意味でも、本書は、今を生きる我われにとり、非常に示唆に富んだ必読の書であろう。

著者の加藤陽子は、「はじめに」でこういう。

わずかな偶然が世界のありようを大きく変えてしまうかもしれない。そのような大きな時代の激変期に私たちは立っています。戦争までの歴史を決めた三つの交渉、そこから今、学べることは決して少なくないはずです。

三つの交渉から見えること


 本書で取り上げる、三つの交渉とは、「満州事変からリットン報告書、国際連盟脱退」(第2章)、「日独伊三国軍事同盟」(第3章)、「ハル=野村を中心とした日米交渉」(第4章)である。

 いずれのプロセスにおいても、多くの人々の思惑が重なり合いまた、決して戦争を望んでいたわけではなく、平和を希求して、日本に「こちらの道」においでと受け取りやすいボールを必死に編み出して投げかけてくれる様子を描いている。

過去の歴史を正確に描いたり学んだりしていれば、自然に自分の将来や未来をつくることにつながる。歴史を学ぶ意味は、ここにあるのだと思います。

p.422

 リットンの報告書の内容を正確に理解せず、メディアに扇動される国民。テロリズムによって、政府や為政者の近くにいて、合理的な判断を行うべき人々が萎縮し、活動が止められてしまう
「世界の道」、国際協調の道を示され、こちらへおいでよという誘いを英米側から受けていながら、開戦の道に進んでしまう。
 様々な選択肢がありえたということを描き出す。 

 日独伊三国同盟では、英米を敵にまわすリスクとその際の国力差から同盟に慎重な陸海軍首脳部に対して、前のめりな近衛首相、松岡外相の姿勢は、軍部の独走という通り一辺倒の理解していなかった私には驚きであった。また実務担当者レベルの中堅層の短期的な思惑に引きずられ、後付けで大義を掲げる姿などは、現在の日本社会、企業においても大いにあることだと考えさせられる。

 著者は、三国同盟を急いだ理由は、「バスに乗り遅れるな」ということではなく、ドイツが勝った場合に、敗戦国となる、英仏欄等のアジア権益を日本側でも有利に獲得しようという実務担当者の思惑が大きかったと言う。

そして著者の以下の指摘には、非常に考えさせられる。

為政者や国民が、目の前の事態に対して、判断し、選択するための「時間」は、あまねく公平にあまねく公平に与えられているのではないでしょうか。イギリスのチャーチルは、国論をまとめるために国民の代表者である国会議員に対して説得しました。中国の蒋介石は、軍部のトップが対日妥協をせよと促したにもかかわらず、中国にとって選ぶべき選択肢を三つ、あるいは五つくらい立てて、考え抜きました。
かたや日本では、課長級の事務当局者が唱える目先の利益から国家のスローガンを後づけの論理でつくりあげ、最も密接な協議が必要な陸海軍の組織間で、腹を割った正直な検討は、十年も前から起こりうる事態が正確に予測されていたのに、実質的な検討は行われなかった。公平に与えられていたはずの「時間」が、日本の時空では機能していなかったように思えてなりません。
 歴史に学ぶと言ったとき、このような点こそ学ぶ必要がありそうです。

P.301

未来への希望 


 そして、本書を通じての一番の希望は、参加している中高生の鋭さ、講義を通じて多くの事を吸収していく姿勢であろう。

本書の最後に取り上げられている高校生のコメントには、特に感銘を受けた。

私は、戦時中の日本に対して、何やってるんだ、負けるに決まってるじゃん、みたいに感じたことがありました。教科書では、出来事一つひとつに文章で理由が書かれていますが、今なら絶対こう考えないのに、どうして?と思っていました。
ですが、今回、それを一つの文章で明確にすることはできないんだと知りました。
一つの出来事には、それに賛成する人、反対する人、行動を起こす人、迷う人など、多くの人が絡んでいて、それぞれの思いがあり、結果として歴史があるんだなって。これから生まれる歴史もきっと、人の思いによって、良くも悪くもなっていくんだと思います。だから、過去を学ぶことに、未来を作る希望を見出せるのかなって

P.461

 大なり小なり、今を生きる我われ一人ひとりの選択の積み重ねが、今後の社会を形成する上で影響を与える。
 一人の大人として生きていくうえで、そのように自覚しなければなるまい。

 我々は、我々の子や孫に何を残すのか?

 その為に、周囲に踊らされず、正しく知ること、行動することである。本書を通じ、立体的に歴史を知ることは有益であることを実感した。
 歴史は、死んだもの、古びた過去ではないのである。

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