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天使と悪魔が居ない夜

 先日、職場の飲み会があった。とある仕事が無事成功し、一番中心として頑張った先輩のお疲れ様会兼慰労会ということで僕が企画した。二次会まで行われたこの会を通じて僕は大人の飲み会の難しさを改めて感じた。

 これまでも職場の人と飲みに行くことは何度もあった。幸い周囲の人には恵まれており、毎度楽しく過ごせていた。もちろん今回もいつものソレと同じつもりで臨んでいた。
 ところが2日経過した今、飲み会を振り返ると、「ああ、、、」とただただ言葉通り言葉にならない感情となっている。
 いつしか誰かが言っていた。何かをやらかす時っていうのは大体その前から何かしらやらかしていると。そう、僕はきっとやらかしていたのだ。

 そのやらかしを書くには、少し現在の僕の職場での立ち回りを書く必要がある。

 今年、社会人3年目を迎えた僕は悩んでいた。何か、それは、、現在不満が特にないという状況そのものにだ。
 語弊がありそうなので付け加えると、不安はある。一日中忙しない仕事柄、ミスしないように、怒られないように、そして、「やらかさないように」常に頭をフル回転させて頑張っていた。それが功を奏したのか、周りの「優しい」先輩は「いや、ほんとすごいよね。3年目とは思えない」「うちのエースだね」等々とにかく肩を叩いてくれる。僕はその度に「いやいや、褒めすぎですよ」「いや〜そんなそんな」と謙遜している。しかし、心の中では天使と悪魔が銃をぶっ放しながら僕の心という名の領土を奪い合う。
 天使「だめよ。簡単に言葉を受け入れてはいけないわ。あなたのガラスの心を見抜いた先輩がハッパかけてくれているだけよ。」
 悪魔「オウオウ、天使何言ってやがる。てめぇもほんとの俺の感情わかってるんだろう。俺の人生なんだかんだ上手くやってきたじゃねぇか。そらは紛れもなく俺の才能のおかげよ。」
 天使「そんなことないわ。あなたそれでこれまでどれだけ失敗してきたと思ってるの。」
 悪魔「ケッ!」

 と、こんなふうに、人の時間でおよそ2秒にも満たない間に、戦争は起こり、これまで何度も開戦と休戦を繰り返してきた。そして現状天使がやや優勢という形で僕の心は収まっている。

 そんな風に過ごす中で、どんな時にも謙虚にいようという気持ちを大事にしながらも、自分の今の立ち位置を確認して、ここは少しだけ、はみ出してみてもいいかなと思うことが時々出てくるようになった。

 飲み会を開くことが決まりお知らせの書面を職場に配布することになった。この時僕は少しはみ出していたので、ちょっと面白いふうにしようと、ワンピースの名場面をコラ画像に加工して、みなさん飲み会に参加してください!と呼びかけた。一部の方から後日、何あれ笑とリアクションをもらい、内心失敗したかなと思いつつ静かに時は流れていった。そう、悪魔が勢力を広げつつあったのである。しかし、そんなことに微塵も気付かない僕は呑気に過ごしていた。参加者が確定し、店も予約し、よし、これであとは当日を迎えるだけ!そう思いながらどこか胸騒ぎを感じつつ当日を迎えた。

 予定していた時間をすぎて出発したため、お金をおろし忘れていたり、電車を逃したりとトラブルは続いたものの10分前に店に到着した。
すでに店には数名が到着しており、「遅くなりました!」と息をきらしながら汗だくのまま僕も席についた。
 酔う前にお金は数えておかないとなと思い、準備をし始めたが、誰からすでにお金を預かっていたのかをメモした紙を忘れたことに気づいた。ある程度覚えていたとはいえ、そこですでに軽いパニックだったと思う。いや、なんなら店に着く前から少しパニックにはなっていたと思う。
 そんな中、隣に座っていた歳の近い先輩が、汗だくになっている僕を見かねてお金の計算を手伝ってくれた。女神に見えた。(実際そんな雰囲気の人)
 いよいよ飲み会のはじまり!僕は幹事として参加のお礼と社長副社長からのお心遣いを紹介した。実はこの短時間でも2回やらかしている。
 一つ目はとにかく噛みまくったこと。「お心遣い」を「おころづかい」だの「おこ、、、おこ、、、おころんづかいいたんだきました」だのこれでもかというくらいまくしたてた。この時体感的には5分はあったと思う。
 二つ目に今回のお疲れ様会を開くきっかけとなった仕事の名前をまあまあな大きさで喋ったこと。これは自分でも多少まだ3年目だからしょうがないと思うところもあるが、職業柄外では大きな声で仕事の話をするのは御法度であるため、後から先輩にチクリと言われた。
 とはいえ、無事、会ははじまり、しばし、楽しい時間を過ごした。
 ところが今になって振り返るとこの時間でも僕はやらかしていた。そう、隣の女神と話し過ぎたのだ。もともと一緒の仕事をすることが多かった反面、プライベートな話はしてこなかったので、ある意味初めてちゃんと話した。そして、前々から感じていた通り、その女神も僕と同じこちら側の人間であることが判明した。オードリーのラジオを聴いてると話していたことがあり、もしや、と思っていたらまさにその通りだった。とにかく話が弾んでしょうがなかった。側からみたらただのめんどくさいヤツでしかないこの感情を共感してくれるという存在は何より大きかった。
 ただ、話し過ぎたのだ。結局その後の二次会でも席が隣になり、また同じような話を繰り返ししてしまった。今思えば、僕に話を合わせていたのかなと、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
 それに派生して、せっかく先輩方がいる場で、幹事という立場でありながら特定の人としか話さなかったということも含めて今はものすごく反省している。

 そして、二次会が終わり、お会計の時間になった。(細かいことを言えばこの二次会の間も振り返るだけで少なくとも3つはやらかしているのだが、書くのが疲れてきたので割愛する。)
 この二次会には副社長が引き続き参加しており、車で来たということで終始ソフトドリンクを飲まれていた。一方で女神との会話に酔いしれた僕は頭がフラフラの状態で正常な判断なんてものはどこかへ忘れてしまっていた。
 そして、お金の計算をしている時、副社長が「いいよ、僕がお会計やってくるよ。」と声をかけてくださった。いつもの僕なら、言い換えれば、「天使と悪魔が争っている状態の僕」なら、そんな判断はしなかっただろう。そう信じたい。
 しかし、この時でた言葉は「あ、すみません、ありがとうございます〜」 
 そんな僕の姿を見た別の先輩はそれまで眠そうだった顔から血相を変えて飛んできた。「私がやります!」そう言い、その先輩がお会計を済ませた。
 僕は一瞬にして目の前で起きたその現状をただただ眺めているだけだった。もはや天使も悪魔もいなかった。
 後からその先輩にチクりと、「あれはあかん」と釘をさされ、僕の幹事としての役目は終わった。

 「ああ、、、」とただただ立ちすくむだけの僕に挽回する余地はなくみんなは店を後にした。

 その後、解散し、帰ろうかなと思ったところで、職場で唯一の後輩が涙目になっている姿を発見した。
 話を聞くと、会を楽しめなかったそうだ。みんなの話についていけず、話を振られてもうまく返せず、とにかく疲れてしまったみたいだ。
 偶然にもその場にいた、飲み会参加者の若手メンバー5人はそんな後輩を励ますためにいろんな声をかけた。「気にするな」「最初はこんなもんだ」から始まり、「俺なんて、先輩にお酒注いだことないよ」「私も昔やらかしてるよ」「俺は昔二次会断ってクラブ行ったらその姿を先輩に見られちゃったよ」等々次第に謎の黒歴史暴露大会が始まる。僕もいろいろ励ました。聞いてみると今週は特にそういう場面が多かったらしく、帰りのタクシーでも悩みを吐露していた。僕もできる限り励ましの言葉をかけた。

 タクシー代も奢り、先輩として最低限のメンツを保った状態で、自分も帰宅してすぐ布団に直行した。そして天井を眺めながら思った。
「そうか、つまらなかったか」
 励ます中、なぜかずっとモヤモヤしたものがあったが、これだ。

 もっと僕は幹事として動けたのではないか。先輩に失礼をはたらかなかったのではないか、後輩を楽しませてあげれたのではないか。

 そう思うと今まで呑気に参加してきた飲み会は大丈夫だったのかなといろいろ不安が込み上げてきた。とは言っても今更どうしようもないし、これが経験といわれればそれまでだが、なんとも後味の悪い形で終わってしまった。

 次こそはうまくやってやるぜ!と前向きに思ってはいるものの、結局のところ今回の失敗の原因は今までと同じ飲み会の感覚でいたところが大きな要因であり、それはワンピースのコラ画像を配った時からすでに始まっていたのだ。

 今僕は思う。

 大人って難しい。

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