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そのとき主審は何を見てそう判断したのか? #10

皆さんこんにちは。家本です。

当初は note で取り扱う予定はなかったのですが、皆さんからの要望があまりにも多いので、9月18日に行われたJ1リーグ 神戸 v G大阪戦の「PKの判定は妥当かどうか」についてお話します。

【神戸 v G大阪 77分15秒のシーンについて】

9月18日のJ1リーグ「神戸 v G大阪」戦の77分15秒に起きたシーンです。主審は武藤選手(神戸)が福田選手(G大阪)に対して反則を犯したとして、G大阪にFK(フリーキック)を与えます。そこへVARが介入。主審がOFR(オン・フィールド・レビュー)を行った結果、当初の判定を自ら覆して神戸にPKを与える決断を下しました。多くの方が「そりゃないだろ!」「反則は逆だろ!」と反応されたのではないでしょうか。今回はこのシーンについて解説します。

論点は何か?

1.ボールにプレーできる距離と位置にいたのか
2.ボールにプレーしようとしていたのか
3.ボールにプレーできたのか

判定の難易度はどれくらいか?

難易度 ★★★★★(5段階評価)

なぜ主審は判定を覆したのか?

主審の位置からは武藤選手が右足を出して福田選手をトリップした "ように" 見えていたと思います。残念ながら主審のポジションは、この時あまり良いものではありませんでした。とはいえ、副審側からのCK(コーナーキック)だったので、この状況でより良いポジションを取ることはかなり難しいです。そしてもうひとつ。副審1の方もこのときにフラッグアップをしているので(左手で旗を上げて主審に合図している)、副審の位置からも「武藤選手が反則を犯した」とみていたことがわかります。

★が接触ポイント Rは主審 黄色が主審の視野 赤◯が神戸 青◯がG大阪

ではなぜVARが介入したのか。それは映像をよく見ると、武藤選手が福田選手をトリップしたというよりは、福田選手が武藤選手を蹴った "ように" みえる映像があるからです。

そういう観点でこのシーンをみると、主審の下した最初の判定は「はっきりとした 明白な間違い」と判断できるので、VARは主審にOFRを勧めたのだと推測します。それを受けて主審は、自ら映像を見て、自らの判断を覆すに値するものが映像で確認できたため、G大阪に与えたFKを神戸のPKに変更した、というのが一連の流れです。

家本はこのシーンをどう判断するのか?

僕の結論は、非常に悩ましいですが、PKではなく当初主審が下した判定、すなわち「G大阪にFKが与えられるのが妥当」というものです。

ただし、これはあくまで個人的な解釈で絶対的なものではなく、人(審判)によって意見が分かれる "非常に難しいもの" であり(判定難易度はmaxの5)、主審の下した判定が "完全に否定されるものではない" ことはお伝えしておきます。"いえぽんボード" 的に示せば、下の図の「赤丸」のあたりで「どちらともいえる」部類のものだと考えます。

根拠を確認する前に、まずは競技規則を確認しておきたいと思います。このシーンに関するところは、以下のところです。

競技規則 第12条 ファウルと不正行為
1. 直接フリーキック


競技者が次の反則のいずれかを相手競技者に対して不用意に、無謀に、または過剰な力で行ったと主審が判断した場合、直接フリーキックが与えられる
 ・チャージする
 ・飛びかかる
 ・ける、またはけろうとする
 ・押す
 ・打つ、または打とうとする(頭突きを含む)
 ・タックルする、またはチャレンジする
 ・つまずかせる、またはつまずかせようとする

身体的接触を伴う反則が起きたときは、直接フリーキックまたはペナルティーキックで罰せられる

競技者が次の反則のいずれかを行った場合、直接フリーキックが与えられる
 ・ハンドの反則を行う(自分のペナルティーエリア内でゴールキーパーが手や腕でボールに触れた場合を除く)
 ・相手競技者を押さえる
 ・身体的接触によって相手競技者を妨げる
 ・チームリストに記載されている者もしくは審判員をかむ、またはこれらに向かってつばを吐く
 ・ボール、相手競技者もしくは審判員に向かって物を投げる、または持った物でボールに触れる

日本サッカー協会 サッカー競技規則より抜粋

次に、上であげた論点を確認しておきます。

論点1:ボールにプレーできる距離と位置にいたのか

福田選手も武藤選手もボールにプレーできる距離と位置にいました = 問題なし

論点2:ボールにプレーしようとしていたのか

福田選手はボールだけに向かい、武藤選手はボールに向かうのではなく、ボールと福田選手の間に自分の身体(正確には右足)を入れようとしていました。ボールにプレーできる位置にいて、ボールと相手との間に体を入れる行為事態は反則となるものではないとはいえ、タイミングややり方によっては反則となることもあります  = 問題ありの可能性

論点3:ボールにプレーできたのか

ふたりとも接触により、ボールにプレーすることはできませんでした = 問題あり 

ざっと論点を確認しましたが、僕が思うこのシーンの見極めのポイントは、「ボールにプレーしようとしていたのかどうか」です。なぜかというと、ふたりともボールに向かっているのであれば、①どちらが先にボールに触れたのか、②ボールに触れずに相手に触れたのか、③ボールに触れた後に相手に触れたのか、を考えていけばいいのですが、このシーンは "ひとりがボールに向かっていない" ことで接触が起きているので、そこを "見極めポイント" とする必要があるからです。この見極めポイントが変わると、結論も変わるということは知っておいて下さい。

話を進めますね。

選手がボールにプレーできる距離にいて、相手を押さえてボールをコントロールする目的でボールと相手との間に自分の体を入れてボールを保持する、あるいは保持しようとすることは競技規則上認められています。そしてその場合、正しい方法であればその選手にチャージをすることも競技規則で認められています。そこは前提としてあるものの、それでも僕が「武藤選手のほうが反則を犯した」と考える根拠は、以下のとおりです。

武藤選手のほうがボールに近い位置にいて、初動も早く、自分の右足をボールと福田選手の間に投げ出してからボールを保持しようとしているものの、

① 出した右足はボールに触れようとしているものではない
② 出した右足はボールではなく福田選手がボールに向かっている方向へ出した
③ 結果的にボールには触れていない
④ 福田選手は "ルーズボール" に向かい、武藤選手には向かっていない
⑤ 福田選手がボールを蹴る、またはコントロールしようとするまさにその時に、武藤選手が "強引に" 足だけを出して福田選手がボールにプレーするのを妨げた

とはいえ、武藤選手は、

① 福田選手よりもボールに近い位置にいる
② ボールと相手の間に体を入れる行為事態は反則ではない
③ 福田選手よりも先に足を出した
④ その足を後方から福田選手に蹴られた

という事実があるので、「武藤選手のほうが反則を受けた」と判断したVARや主審の判断は十分理解できますし、完全に否定されるものでもないと個人的には考えます。

このシーンは、神戸側(選手・チーム・サポーター)からすれば「審判団は "正しい判定" を下した!」と思っているでしょうし、G大阪側(選手・チーム・サポーター)からすれば「ふざけんな!誤審だろ!」と思っているでしょう。そしてJ担当審判の中でも「福田選手が反則を犯した」と考える方もおられるでしょうし、僕のように「武藤選手が反則を犯した」と考える方もおられると思います。

あるいは、ふたりともフットボールをしている中で起きた接触なので、どちらも "許容できる" として反則とはせず、プレーを続けさせるという選択肢もないわけではありません。競技規則の解釈からしても(ノーファウルという判断も)十分ありえる選択肢です。

以上が今回のシーンの個人的な解釈と結論です。

最後に、競技規則の前文にある「サッカー競技規則の基本的考え方と精神」の一文を皆さんにご紹介して、終わりにしようと思います。

サッカーの競技規則は、他の多くのチームスポーツのものと比べ、比較的単純である。しかしながら、多くの状況において「主観的な」判断を必要とし、審判は人間であるため、 必然的にいくつかの判定が間違ったものになったり、論争や議論を引き起こすことになる。

人によっては、これらの議論が試合の楽しみや魅力の一部となっている。しかし、判定が正しかろうと間違っていようと、競技の「精神」は、審判の判定が常にリスペクトされるべきものであることを求めている。試合において重要な立場である人、特に監督やチームのキャプテンは、審判と審判によって下された判定をリスペクトするという、その試合において明確な責任を持っている。

日本サッカー協会 サッカー競技規則より抜粋

それではまた。

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