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エネルギーをかけるとは、共に苦しむこと

躁鬱をもち、落ちてるときはひたすら過眠してしまい起きられない。起きられなくてバイトの面接にもいけないし、スーパーでの買い物もうまくできない。『生きてるだけで、愛。』には、そんな主人公・寧子の様子が描かれる。
寧子とひょんなところから同棲している菅田将暉が演じる彼・津奈木もまた、小説家を目指していたのにゴシップ記事を書いて日々を過ごす。毎日、家で寝ている寧子にお弁当を仕事帰りに買ってくる。

焼きそばとカツ丼を買ってきて、寧子が食べると「何これ、つめた!」「外、寒かったから」といったシンプルなやりとり。買ってきて、電子レンジで温めもしないんかい、と思うくらい淡白というか、何に対しても気にかけていない。序盤では感情の起伏もあまり見せることがない。
映画の最後、いちばんの見せ場の後、ふたりのやり取りの中で寧子はこう言う。

あたしを怒らせないいちばんの方法は頷いてやり過ごすんじゃなくて、 あたしと同じくらい頭使って考えて喋って、あたしがエネルギー使ってるのと同じくらい振り回されろってことなんだよね。 同じだけ疲れて欲しいってのはさ、やっぱ依存?

低エネでなんとかしておこう、っていろんなものに対して振る舞う津奈木に対して、寧子は「振り回されろ」という。おなじ「エネルギー」の総量で。
ひとに向き合うってのは、本当にエネルギーがいる。感情が大きく動けばうごくほどに、エネルギーもかかる。津奈木は仕事を通じても、なるべくエネルギーがかからないようにして、感情を抑えているようにみえた。アイドルや女優の買春記事を書いて、そんな人たちを傷つけながら生きる仕事。途中、会社の後輩がこんな仕事おかしい、といったような憤りの際にも、受け流していた。

仕事でエネルギーをかけないようにやり過ごし (後半、爆発してパソコンを窓に投げつけるのだけど)、人に対してもエネルギーをかけないようにする。
ぼくもときどき、疲れていると妻に対してやり過ごしていたな、と後から自己嫌悪になることも多い。台湾人の妻は、まだ拙い日本語なので話の半分くらいは推測をしなければ意味が読み取れないこともあるし、ところどころは訂正しながら会話しないと、間違いつづけてしまう。そうすると、一つの会話をなめらかに行うにもとてもエネルギーがかかる。意味を受け取ったあとで、どんな単語でどう話せば、かろうじて伝わるかを考えながら返答することもまた、それなりにエネルギーがかかる。

日常のやりとりだけで大変だが、それを省エネで済まそうとしたら、自己嫌悪に陥るのは、妻もそれなりにかけているエネルギーの差分が負い目になるから、だろうか。わからない。

ただ、同じくらいのエネルギーを注ぐっていうのは、関係の最も根本的なことのように感じる。同じだけ疲れて欲しいってのは「依存」なのだろうか。
コンパッションという言葉がある。一般的には思いやりといったイメージがある。ただ、それ以上の意味がある。Com (共に) - patior(苦を身に負う)という語源からくる言葉。

竹之内裕文さんによれば、共感がfeeling into another=他者の内に入り込んで感じることだとすれば、コンパッションはfeeling for another=他者に対して向き合って感じること、だそうだ。他者の苦しみをともにして、わかちあうために向き合うこと。それにはとってもエネルギーがかかる。※1 
(参照: https://www.iisr.jp/journal/journal2022/P061-P091.pdf

それにはとってもエネルギーがかかる。そして、何かを気づかい、時間をともにするにはこのコンパッションが欠かせないとおもう。ケアってのは、身近なひとだけが対象では当然ない。会社もそうだし、植物もそう。会社をケアする、というとなんだかイメージが湧きづらい。ケアという言葉を使わずに言えば、何かを気にかけ、時間を割いて、ある人や、ものごとや、場所や、問題に向きあい、その成長を願うこと。

たしかに、会社をやってて自分は一人で背負っているなと感じる時だってあるが、それもエネルギーのかけ具合や本気で同じ総量で向き合っているのか、といったことはシンプルに感じる。日本語を話せない妻の苦しみに寄り添っていると自分もうまく日本語が話せなくなるときがある。

妻の話し方も伝染して、あれ?となりながら話したりもする。それは苦の状況を自然に模倣してともに背負うあらわれとも、もしかしたら言えるのかもしれない。苦しみをともに背負う、その”背負い方”にもいろいろなかたちがあるのだろうな、と思う。

※1 死生を支え合うコミュニティの 思想的拠り所 ―手がかりとしての「対話」と「コンパッション」―

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