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スペキュラティヴ・デザインのサマースクール忘備録inタリン

ここ最近大学は夏休みということで日本に帰省しては修論研究したり、家族がフィンランドに来て旅行したりと過ごしていました。そんな中、日本からフィンランドに帰国直後で時差ボケに苦しみつつ、7/29-8/2の5日間でエストニア・タリンにあるEKAという学校のサマースクールに参加してきましたので忘備録を。スペキュラティヴ・デザインは最近聞くけど実際にはどう思考プロセスを踏んでいくの?と気になる方にお役に立てればと思います。

今回はExtrapolation Factoryというデザイン&リサーチスタジオの2人組がワークショップの講師/ファシリテーター。ぼくが修論研究で行った内容でもかなりこのお二人の取り組みはインスピレーションになり参考にしていたので非常に楽しみでした。中身としては、スペキュラティヴ・デザインのアプローチを用いて、未来の働き方を思索するというものです。エストニア政府内のForesight Centerというシンクタンク的な機関が実験パートナーとしてコラボレーションします。彼らが行った「2035年の雇用の未来」というシナリオワークに対してのオルタナティヴを提案するというのがデザインブリーフである一方、更にメタなレベルとしていわゆる古典的なシンクタンクのアプローチを再考するという趣旨も込められています。

👇こんな感じで、シンクタンクのアプローチにおける異なる可能性を探索。従来は専門家が戦略設計をして、政策担当者に届け、それが政策の形式で市民に届く。しかし今回は左下の「市民がヴィジョンを市民に対して提案する」という部分を強調。実際にこのアプローチが、どのような影響や可能性を持ちうるうのか?というリサーチです。これがまた、修論の内容に近くて興奮しました。

1日目; レクチャー&シグナルスキャニング

初日は、基礎的なレクチャーから始まりました。Discursive Designに出てきたデザインの4分類(Commercial・Responsible・Experimental・Discursive) であったり、未来志向的なデザインの領域をマッピングして整理された構図の紹介だったり。

Design FutureというのがStrategy・Future Study・Designの交差点として置いているのは個人的に面白いなと感じたところ。つまり戦略的活用がなされることが前提の未来洞察の方法論という位置づけ。

その後はFuture Coneという基礎的フレームワークやよく用いられるツールの紹介。例えば、Signal, STEEP model, 2×2 Scenario matrix, Future Wheelなど。この辺は、Extrapolation Factoryの著書により詳しく紹介されています。

最後に、エストニアのForesight Centerで未来シナリオの作成の担当者からシナリオプランニングの事例の紹介。こういうステークホルダーを巻き込みながら、こう進めていき、こういうふうに2軸を設定してマトリクスを作って〜のようなお話です。しかし、やはり市民はプロセスにほぼ介在せず専門家のみで完成。そもそも市民がこうした未来洞察に参加すべきなのか?であれば、どのくらいの参加が必要か?というのが今回の裏の問いなわけですが、担当者の方は対話の必要性自体は非常に感じているとのことでした。特に、シナリオのアウトプットが出来上がってから実際それが生活レベルでどう変化を及ぼすのか?というのは欠けている側面として大いにあると感じます。最終的に政策に落ちるのであれば、生活への影響は避けられないですが、現状はマクロ視点のみの記述かつシナリオのアウトプットがとてもAnalyticalであるために市民には届かない(ハードル高くて興味あるほんの一部にしか読まれない)というのに課題感を持っていました。

そうしたインプットなどを踏まえて、夕方からはグループワーク開始。最初はチームそれぞれでシグナル=未来の兆しとなる特定のイベントを集めます。そのためにジャーナルやカンファレンスの情報などの色んなソースをあたったり。学びになったのはシグナルとトレンドの違いをきちんと理解できるようになったことです。トレンドはすでに大きな運動体になっているものだけど、"Signal is a precise event to see the world differently"とのこと。つまり、いつ何が起きたのか?みたいな特定の小さな、しかし異なる未来への入り口となる出来事です。しかし、専門家のみがシナリオワークに携わる悪影響の1つにこのスキャニングのプロセスが挙げられるなと改めて思いました。どんなシグナルを洗い出すか?どのように核となるものを選ぶのか?そこには多分にバイアスが含まれるので、誰がこれをやるのか問題。

その後、洗い出したシグナルをSTEEPモデルに沿って簡単に整理。STEEPモデルを使う意義というのはどこかに偏らないためのチェックリストとして。また、特定のシグナルは政治的なものなのか?社会的なものなのか?など主観的な視点で分かれるために、それを可視化し議論するためのツールとして機能します。

2日目; 軸の作成

シグナルをグループ化した上で、その背景にある大きな対局を見据えて軸の候補を洗い出します。そこから2つ選び、よくあるマトリクスをつくるのですが、この2×2マトリクス自体はおなじみのフレームではあるものの、Mutually Exclusive(相互排他的) であれ、というのがとても強調されて良い捉え直しの機会になりました。考えてみれば当たり前だけど、軸の対立の2極をとっているのでAの軸に含まれうるものがBに相当してはならない。例えば、脳のインプラントにより記憶力が向上した、とかいうシグナルを軸に落とし込むときに「Human Enhancement⇔Natural condition(自然な状態的な)」みたいに最初はざっくりつけていたのですが、これよりも「Accept human enhancement⇔Refuse human enhancement」のほうがうまく対極を表しmutually exclusiveである、と指摘を受けたり。

また、シナリオプランニングで陥りがちなのが、2×2マトリクスによりできるABCDの4象限のうち、明らかにAが望ましくてDがネガティブだよね、みたいになってしまうこと。議論から示唆を得ることが重要、特に今回はDiscursiveであることがポイントなために、ABCDそれぞれでトレードオフを示せるようなものがよい、とされました。

しかし実際には組み合わせた上で、どういうシナリオが描けそうかのプロトタイプを作ってみないと、マトリクス自体の良し悪しは評価できないので、面白い部分でもありまあ大変。軸のラベリング1つで包摂できる意味合いが変わってくるし、このあたりの抽象的な概念操作を英語でやるのはまだまだ厳しいなーという感じもある。

3,4日目; シナリオづくり+シーン+アーティファクト

今回の最終ゴールは4つのシナリオにおける雇用のシーンおよびその状況で用いられるプロダクトを作り、写真に収めること。描いたマトリクスの各シナリオから生まれうる未来の雇用のあり方、新しい仕事などを思索します。

シナリオやシーンを描くにあたっては、Future Wheelというツールを用いるのが効果的。このサイトにある事例のように中心に特定のsignalやwhat ifの世界観、仮定的な状況を置いた時に、結果として何が起こりうるのかを周辺に書き出し、それぞれの出来事が起こったらさらにどういう影響が生み出されるのか?というように、派生していく未来への影響を想像するためのツール。このあたりはもう発想勝負という感じ。例えば、もしも中国が資本経済よりエコロジカルな価値を重視するようになったら?という仮定の世界があったとしたら、「信用スコアにより環境へ配慮した行動によるスコアが向上し優遇される..かも」みたいな感じです。

そして、Speculative Design等で重要な点としては日常的な経験から未来を想像させることであり、日常との媒介を設計することです。未来学者のStuart Candyが提示しているのはExperiential Future Ladderというフレームワークです。つまり大きな未来の世界設定をシナリオに落としただけでは、抽象的すぎて人々が未来を(擬似的にでも)経験できないために、生活への示唆や影響を汲み取れない。そこに経験可能な閾値があり、それを乗り越える日常の状況を思索することが求められます。物理的なモノがある強みはここにあります。

その後は描いたシーンを具体化していきます。そのためのプロトタイプ用の材料集めも5日の日程のうちに含まれていたので、もう時間がなくて仕方がなかったですが、100均や中古商品を扱うお店などを散策するのは楽しい。

5日目; プレゼンテーション

そして最後にエストニアのForesight Centerの人が再びやってきて各チームのプレゼンテーション。僕たちのグループの1つのシナリオは舞台を中国に設定して、現状の傾向が極端化してGDP拡大のために"高い生産性"があらゆる価値基準を上回り人間拡張を合法化した社会にて、ジョブトレーニングや採用のあり方も変わりうることを提示。最終的なアウトプットは描いた複数のシナリオを下のイメージのように落としこんで提示したのですが、下記は未来の自販機にて能力向上のためのツールを購入している様子。

5日間でやるのは実際けっこうきつかったという所感...あとは純粋にチームとしてうまく回らなかったなー。
ちなみに、この上記のイメージは全てまとめて新聞のフォーマットに落とし込み、ローカルニュースペーパーとして一般市民に配布するという予定だそうで、より広い市民へのリーチを行います。

アプローチについてのリフレクション

ともあれ、その後はリフレクションも兼ねてこの「市民がヴィジョンを市民に対して提案する」アプローチの可能性を全員で検討しました。個人的に感じたのは時間的制約もありマクロなシナリオや世界観の整合性ある提示ができていないこと。そのため、Foresight Centerの方の指摘としては、従来の専門家主導でつくった2×2シナリオのプロトタイプをもとに、その各シナリオで起こりうる生活レベルの示唆を思索するという組み合わせ方がいいのでは、というお話でした。そんな感じで怒涛の5日間でした。アウトプットは正直満足いくものが出来ずでしたが、プロセスにおける各ステップの理解を深められたというのが収穫でした。

あとは初日に"Personal bias & view point should bring up in scenario making"という言葉を頂き、無理な合意形成に落ちずに、個人が感じる可能性や違和感を表現していくことで、多々のオルタナティヴを生み出すことが重要なんだ!それが視点の交換を生み出し、豊かな対話につながり、多様な未来のあり方を創るのか!と大きな学びを得られました。

Twitter:より断片的に思索をお届けしています。 👉https://twitter.com/Mrt0522 デザイン関連の執筆・仕事依頼があれば上記より承ります。