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コミュニティのクリエイティビティと想いを触発する-足元の実践と中動態-

大きな変化も小さな個人から出発する事例を、プロジェクト駆動の民主主義小さなプロジェクトから大きな変化へで取り上げてきました。一方で、個人という単位は小さすぎるという考え方もあります。

社会を変えるには、個人ではなく地域が重要な単位である
―David Brooks

今回は、「日常」「地域」「コミュニティ」をキーワードに、地域コミュニティからはじまる実践を中動態という概念を借用しながらサポートする事例と、その重要性を取り上げます。

ローカル=足元の実践から、世界へつながる

ローカルとは地域や地方ではなく、「足元」という意味で捉えることが重要です。従来のローカルということばには、都市に対置された閉鎖的な地方のイメージが存在していました。それでは東京に生まれた人のローカルとはどこか?と問われたときに、答えに窮します。これはおかしいぞ、となるはずです。ローカルとは、すでに存在している外側のどこかではなく、いま自分が立つ内側の世界。あなたが立っている場所から、ローカルは立ち上がるものではないでしょうか。足元としてのローカルは、いまあなたが暮らしをかたちづくっている場所なのです。

そして、持続可能な未来へのトランジション(移行)についての多くの変革理論にて、このローカルは非常に重要な位置付けがなされています。一見、足元の場所というと、範囲もせまく大きなインパクトにつながらないと誤認されがち。しかし、暮らし・日常生活は生の可能性を閉じも、開きもする活動の起点です。デザイン研究者のManziniは、日常生活はわたしたちが何ができ、できないのかを決定づける「可能性のフィールド」なのだ、と指摘しつつ、ローカルの新しい捉え方を提示しています。

今やローカルという言葉は、場所やそのコミュニティに固有の特徴と、グローバリゼーションや文化的・社会的・経済的な相互関係によって世界中で生み出され、支えられている新しい現象とを結びついている
Manzini, E. 2016.

ローカルは複雑なネットワークです。短いネットワークは、地域の社会や経済基盤を生み出し、長いネットワークはその足元の場所と外部の世界をつなげます。これはコスモポリタン・ローカリズムという言葉であらわされます。特定の場所やコミュニティに根を張りつつ、グローバルな情報や人、お金の流れとつながっています。ひとつの地域で生まれた活動でも、そのノウハウや知は世界規模のネットワークに乗っかり、別の地域でも応用可能な可搬性を持ちうることがあります。つまり、別のローカルの知を借用しながら、足元の実践をおこなう。そこから得られた知が、またグローバルに還元される、相互依存関係にあります。冒頭の地域/都市の二項対立をこえるローカルの意味合いに加え、ローカル/グローバルという対立自体を融解させる見方といえます。

場所に根ざした多様なライフスタイルのビジョンは、文化や歴史、生態系に関係なく、同じようなライフスタイルを推進するグローバリゼーションの均質化とは対照的です
Sachs, W. 1999.

地域の独自性・土着性を保ったままに、知やノウハウなど様々な情報は足元を超えた広大なネットワークから参照することが可能になります。ゆえに、ファストファッションのように均質的なライフスタイルの圧をかけるグローバル化の波を乗り越える可能性も示唆しています。

一方、ネガティブな意味でも足元の暮らしと世界のシステムはつながっていることを忘れてはいけません。空腹を満たすためにファストフード店に行くことは、輸送コストやエネルギーの面から世界規模の供給ネットワークを強化し、生態系への悪影響にもつながっているからです。だからこそ、足元の実践が重要です。

中動態的視点からのクリエイティブなコミュニティ実践

いつだって、制度やインフラの変革をまたずして動きはじめる人々から、既存の延長ではない望ましさが芽吹いてきます。個人の衝動から拡がる民主主義の実践も以前、とりあげました。とはいえ、衝動や強い想いをもつ個人は、必ずしも必要でしょうか。想いをもった主体からはじまる、そこからしかはじまらない活動も当然あります。ひとりひとりがヴィジョンを持つ尊さもとても共感します。ただ、あまりにもそうした「強い主体」がフィーチャーされすぎではないか、とも思います。みんなが初めからそんな強靭なわけでなりません。

ゆえに、すべての活動がそうである必要もないでしょう。ひとりの明確な熱量や意志に依らない、クリエイティブな実践だって、あってよいはずです。ここでいうクリエイティブとは、「今まで世の中になかったアイデア」を生み出す創造性ではありません。今この足元のくらしには存在しないけど、こうしていきたい!これをやりたい!から、かたちづくられる日常実践のための創造性です。ただ、それは熱量ある個人に依存しなくてもよい。

そして、その切り口になるのが「中動態」です。中動態についての詳しい説明は國分功一郎さんの「中動態の世界」や、「<責任>の生成」に詳しいので、ここでは割愛します。

かんたんに述べると、する/される=受動/能動の二項対立はもともと、中動態/能動態の対立だったそうです。わかりやすい例をあげると、動詞の「惚れる」は中動態です。「このひとを好きになるぞ!」ではなく、気づいたら「あかん、好きやん...」となっている、そういうものです。つまり、自分の意志でもなく(能動)、だれかに強制されるでもない(受動)、中動態の地平が存在します。明確な「意志」を要する考え方は危険性をはらみます。だって、本来、あらゆる選択はまわりからの多くの触発により起こっているものだから。

意志というのは“切断”とでも呼ぶべき側面を持っています。「僕はこれを自分の意志で決定したんだ」というのは、何ものからも自由で独立した自分が決めたという意味を持ちますが、本当はそんなことはあり得ない。自分で決めたと言っても、いろんなことから影響を受けているに決まっている。けれども意志という言葉を使うと、そういうものを断ち切る、切断することができる。
http://igs-kankan.com/article/2019/10/001185/

"場"を"ともにする"過程のなかで「なんかいいじゃん」の連鎖が起こり「なんかこれやりたいかも」が生まれてくるのではないでしょうか。

「自分は何をどう欲望しているのだろうか」について誰かと一緒に考え、自分の欲望の形をハッキリさせていく、そういう支援のほうが大切ではないか。これが僕が考える欲望形成支援です。
http://igs-kankan.com/article/2019/10/001185/

もちろん、そのためにはともに一緒に考えてくれる仲間や様々なきっかけ、少しの補助線が必要です。だからこそ、コミュニティが重要だしデザインツールも重要になってくる。今回はそうした集いの形成・やりたいの過程をサポートする事例をご紹介します。

Co-gardening|ともに菜園を行うための支援ツールの作成

ブリュッセルをベースにするStrategic Design Scenariosは、ストラテジックデザインやシナリオ作成、コミュニティとの協働アプローチを専門とする組織です。そのプロジェクトのひとつ、Co-gardeningは、使われていない庭をご近所住民が共有して使うことを促進して、アーバンファーミングのシステムと文化を育むことを目的に行われました。

ブリュッセルの住民は庭をもっているけれど家庭菜園や農業を行うことも少ない一方、やりたかったとしても自分の土地がない人も多くいます。そのためCo-gardeningでは、これまで出逢ったことのない住民同士につながりが生まれ、ともに小規模でも家庭菜園を行うためのプロジェクト。具体的には、庭や農地をもっていても活用していなかったり家庭菜園の知識がない人と、土地を活用したい人たちをマッチングさせます。

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Co-gardeningの様子(画像引用)

マッチングに加えて、2つの方法でサポートを提供しています。ひとつには経験知をもつメンバーの紹介をする・ワークショップの運営やファシリテーションを手伝うなど、必要なリソースをあらゆる形で提供するもの。フォームから必要な支援を相談できます。

もうひとつはCo-gardening ワークショップ・キット。2時間のワークショップを住民がじぶんたちで開催できるようにするツールで、オープンソースでDLできます。

キットの中身は
・4種のワークショップへの招待カード
・4種のペア作成カード
・4種のメッセージカード
・菜園プロジェクトの立ち上げに役立つ10枚の質問カード
..などから構成されています。

最初にやりたい!と思った人が、住民を招待して参加をつくる過程から、「"ガーデニング "と "くつろぎ "を楽しむ菜園」「"野菜を作って家族を養う "ための家庭菜園」「"開放的な気分で人と会える菜園」などどんな菜園をつくりたいと思うかを起点にマッチングを促すプロセスをカバーしています。おそらく、菜園をつくりたい以上の欲望がない人も多いのでしょう。だからこそ、XXな菜園、とカードが代弁していることで、自らの意志を起点としない触発が起こります。そして、「これいいかも🤭」というゆるやかな欲望が「わたしもこれいいかも、と思ってた👶」と承認されることでより強固な欲望へと生成されていく。これも中動態的です。

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どんな菜園をつくりたいか書かれたマッチングカード(画像引用)

それをふまえて、以下のような具体的に菜園をはじめるために検討すべき問いなどが設定され、はじめるハードルを引き下げています。

・時期、頻度、作物の種類..をどのように設定する?
・消費量(種、水、土など)をどのように管理する?
・家庭菜園の道具は何が必要でどう調達する?
・収穫したものをどのように分かち合い、どこに保管する?...

はじめたい!と思ったときに知識も場所もないと、少し気持ちが重たくなり結局やれない...ということは自分自身もとても痛感するところ。「ともに行う」意味は、そうした自分のやりたいを仲間がいることで、後押ししてくれるところにも見いだせます。そうしたマッチングから実践までをサポートする事例です。

また本プロジェクトは、都市農園においてシェア畑なども最近は流行ってきていますが、そうした事業者が所有する土地を借りるのではなく、住民がみずからの土地をある種のコモンズへ還元していき、小さな場所における自治と食糧自給の回復をうながす試みとも言えます。スーパーに置かれている「誰がどこでどう育てたのか」わからない野菜を買う、という選択肢に対して、足元から自律性を取り戻す変革の一歩です。

Every One. Every Day|ご近所同士の地域実践に伴走する

バーキング・アンド・ダゲナムはロンドン東北部に位置するエリアです。ここで拡がるEvery One Every Dayプロジェクトをご紹介。

私たちは住民と協力して、あなたやご近所さん、友人、家族に利益をもたらすプロジェクトを作ります。例えば、新しいことを学んだり、お金や時間を節約したり、自信や幸福感、健康を増進させたり、新しい友人を作ってコミュニティ意識を高めたり、さらには新しい生計手段やコミュニティビジネスのアイデアを開発したりすることも。
https://www.weareeveryone.org/every-one-every-day

本プロジェクトでは、人々が育てたいアイデアを伴走してかたちにすることを支援するもの。プロジェクトの立ち上げから、必要なリソース(ex キッチンやワークスペース、機材、ワークショップの開催に必要なノウハウetc)の提供までを行っています。これまで大小ふくめすでに150以上のプロジェクトが行われており、たとえば現在はコロナ禍での閉塞感を破るために窓を彩るwindow projectや、新鮮な地元野菜のサブスクリプション・サービスの開発が進んでいます。

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Tomorrow Today Streets (画像引用)

数あるプロジェクトのひとつTomorrow Today Streetsは、市民がご近所どうしで暮らしを盛り上げるための、イケてるプロジェクトを始めるサポートプログラム。素材・機材・ヒント集・ワークショップなどをふくんだ、24のキットを提供しています。お花を植える・ともに食事をする・モノや知をシェアする・自然を回復する..などあらゆるご近所どうしで行えるコンテンツをカバーしています。やりたい!となったときに、その背中を後ろからそっと押してくれる存在です。

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Street Party (画像引用)

Street Partyは、ご近所どうしで空き地などを使いながら宴を楽しむことを後押しするサポートキット。200£分の材料費、テーブルクロス、お皿..など必要な一式がそろい、大きなパーティを計画するためのアドバイスも提供されます。

なぜパーティが大事なのか?共に愉しむという時間はそれだけで尊いものです、それだけで理由は十分でしょう。加えて見知らぬご近所の人とふれあうことで、何者かわからない不安から心理的な安心が高まります。子育てで助けが必要なときに頼れる関係性に発展するかもしれません。若者がまったく知らない世界を知っている人々や、他者の物語に出逢い、これまで考えなかった生き方の可能性が生まれ出るかもしれません。ともにコンポストをやろう!とノリあえるかもしれません。これらはすべて関わりあいから起こりうる可能性であり、逆に言えば関わりあいからのみ生まれ出てくるものなのです。

このEvery One. Every Dayが、パーティやともに食事をすることにチカラを入れていること。それは、とても重要な第一歩ではないか、そう思えて仕方ありません。何かをやることありきではなく、ただ時間を共にすることから、はじまっていくのです。そこから、下記のような持続可能性への取り組みにつながれば、なお素敵。

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Rewilding Birds & Trees (画像引用)

Rewilding Birds & Treesは、近所の人たちと一緒に、木を植えたり、種をまいたり、バードハウスを作ってデコレーションしたりして、道路や庭に設置するためキットです。鳥の巣箱がオープンソースになっており、かんたんに近所の施設で印刷し、組み立てられます。

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Hive (画像引用)

また、Hiveはあらゆる通りの樹木の近くにハチの巣をつくるためのサポートキット。ハチの世話をする楽しさを学び、まちの養蜂家になろう!というわけです。夏の間、養蜂場でミツバチの飼い方を学び、コロニーを作り、冬の間に世話をして、翌夏に自分の住んでいるご近所に移す準備をします。近しいもので、スウェーデンの家具メーカー・IKEAのR&D的機関でもあるSPACE10も、オープンソースのハチの巣キットを開発しています。

これらに共通することとして、気軽にできる修復的な取り組みが義務感ではなく、コミュニティの活動に位置づけられることで祭り的な愉しみをはらむこと、それが重要ではないかと感じます。Street Partyで出逢い、仲良くなったご近所さんと「はちの巣とか作ったら楽しくない?🐝」とか「ちょっと養蜂場いってみない?」というバイブスから始まることはとても自然なやりとり。まさに自ずから然りという内発性に基づいています。そして、これこそが想いをもつ主体に依らない、コミュニティから中動態的に触発され、生成される活動の可能性なのです

おわりに

「集う」こと自体が問われている現在ですが、人の集いとともに在るための枠組みや少しの刺激を用意することで、明確な想いをもつ個人なくともゆるやかに想いが生成されていく。そんな考え方と事例を紹介しました。みなさんはどう感じたでしょうか、以下の問いをもって終わりにします。

・あなたがいま、強い想いや欲望をもっているとしたら、それはどのような多様な要素から生み出されてきたものでしょうか?
・ただいっしょにいれる場所が、足元に、地域に、どの程度あるでしょうか?

今回のように行政×デザインの話題についてもし興味をもっていただけたら、本マガジンのフォローをお願いします。また、このようなコミュニティ活動の支援、その他なにかご一緒に模索していきたい行政・自治体関係者の方がいらっしゃいましたら、お気軽にTwitterDMまたはアドレス📩publicanddesign.pad@gmail.com宛にご連絡ください。

Reference

《中動態×オープンダイアローグ=欲望形成支援》第1回 20分でわかる中動態――國分功一郎
http://igs-kankan.com/article/2019/10/001185/

COGARDENING
https://www.strategicdesignscenarios.net/cojardinagecogardening/

Co-gardening kit. https://environnement.brussels/sites/default/files/user_files/kit_cojardinage_fr.pdf

Every one. Every Day.[https://www.weareeveryone.org/every-one-every-day](https://www.weareeveryone.org/every-one-every-day)

Manzini, E. 2016. Resilient systems and cosmopolitan localism — The emerging scenario of the small, local, open and connected space. p.4

Sachs, W. 1999. Planet dialectics: Explorations in environment and development

Twitter:より断片的に思索をお届けしています。 👉https://twitter.com/Mrt0522 デザイン関連の執筆・仕事依頼があれば上記より承ります。