【BAR紹介】大阪・千日前salon夕顔楼/美学に統べられたヴンダーカマー
正直なところ、客を選ぶBARだと思う。
同時に、この店に一度は運命のように迷い込むべき人たちが居るとも思う。
赤い照明に照らされた薄暗い店内には、耽美と退廃の気配がする。
壁際に収められた数千冊の蔵書。
芸術、音楽、美術、人形、文学、写真、それらの「美しさ」を軸とするものたちは、店主の目によって一つずつ選ばれ、時間の蓄積のようにこの場所で息を潜めている。
赤い別珍張りのソファー。赤い光を反射する物言わぬシャンデリア。
そして終売品を多く含む、二百種程の希少な酒瓶たち。
千日前の雑踏を抜け、入り口が分かりづらい味園ビルの裏から
階段を上った二階。
営業中でも扉を閉め切っているバーがある。
耽美や退廃、文学や芸術を好む筋の人には広く知られていて、
東京をはじめ全国から足を伸ばす客が多い店であり、
名前を夕顔楼という。
かつて、私がこの店を初めて訪れたのは、
大阪に住む知り合いが案内してくれたのがきっかけだった。
でなければ、旅先の大阪の夜に、猥雑なビルに足を踏み入れ、閉ざされている扉を引いてみることはできなかったと思う。
店主の夕顔氏は、知り合った十年以上前からあまり風貌を変えていない。
この店は、腰あたりまである髪を束ね穏やかに佇む夕顔氏の
美学と精神世界が反映されたWunderkammerだと訪れる度に感じる。
*
豪奢で荘厳な審美眼に統べられた空間。
「知り合いであっても、声をかけられるまでは話しかけない」
とする店主の夕顔氏。
大阪に足を運ぶ際には、多少の無理をしてでも夜に時間を捻出し、
私はこの店を訪れたいと思っている。
訪れる度に、記憶に残るような経験になること。
この店を愛する人たちと言葉を交わすと、そこから何年も繋がる友人が見つかること。
自分の中にある曖昧ながら確かにある「美」という概念への
憧れを持つ同族の人と交差する場所と言ってもいいかもしれない。
耽美・フェティッシュ・退廃・死・儚さ・少女性・悪魔的などの
属性に惹かれる人は、どれだけ遠くからでも
一度は訪れる意味があることをお約束できる。
夕顔楼で供される聞いたことのない数々のお酒も、
この場所の魔法のようだと思う。
終売品になった幻のリキュールが多いのだというが、
私の知っている「お酒」という概念よりも、
子供の頃に読んだ魔女の作る秘密の酒、とでもいったほうが
イメージに近い。
薄暗い店内で、差し出された濃く甘いリキュールを
舐めるように飲んでいると、
アメリカで昔、飲酒が禁じられていた時代の会員制のバーにでも
訪れている気持になる。
*
敷居が高くなるような紹介ばかり書いてしまったが、
夕顔楼は決して高価な店ではない。
年に数度、東京に訪れて高円寺のバーで催す出張営業では、
東京中から夕顔楼を愛する客が詰め掛け、
満員電車のような混雑になることもあった。
店内にひしめいた客は、小さなショットグラスに注がれた
甘いリキュールをストレートで何杯も飲み、
初対面でも構わず、近くにいる客と談笑する。
何年も前から旧知であったかのようにスムーズに話ができるのは、
この場所の美しさを慕うという共通点があるからだと言える。
——興味本位で覗いてみるだけでも。
この場所を訪れる経験が、あなたの人生を深く面白く変える契機になるかもしれない。
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"salon夕顔楼"=bar,gallery,studio & library
営業時間 19:00~05:00[BAR]
※studio利用時あるいはイベント使用時には昼から開いていることもあります。
定休日 無し。大晦日も元旦も営業しています。
住所 大阪市中央区千日前2-3-9 味園ユニバース2階