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【LUNA SEA】セルフカヴァ―アルバム『MOTHER』全曲レビュー②ROSIER③FACE TO FACE④CIVILIZE

◆LOVELESSはこちら

上記① LOVELESSに続いて、セルフカヴァーアルバム『MOTHER』の全曲レビュー続けていきます。

◆ROSIER

LUNA SEAの代表曲と言われるROSIER。
LUNA SEAのことを知らない世代の人にも認知されていることが多く、
私は正直「もう一生分聴いた」と思っていた節があった。

新生MOTHERの中でも、ROSIERにはそれほど期待の意識を向けずにいた。
何の気なく音源を再生した時に、耳慣れた原曲との違いが際立って聴こえる一曲となっており、目の前に電流が走るような心持がした。

アレンジも演奏も、原曲に忠実だと言っていいだろう。
聴きなれた一体感と勢いのある完成度の高いROSIER。
それを忠実になぞりながらも、それまで耳に届いてこなかった細部までの解像度が爆上がりしているからこそ届くそれぞれの音の独立性と表情の豊かさ。

輝くことさえ忘れた街は ネオンの洪水 夢遊病の群れ
腐った野望の吹き溜まりの中 見上げた夜空を切り刻んでいたビル

Aメロでタイトに刻まれているベースから滲む抑圧的な熱量。
するどさを孕ませながら響くSUGIZOのリードギターと、繊細に響きを内包しながら端正に舞うINORANのアルペジオ。

夢のない この世界

つぶやくように、しかし圧倒的な説得力と諦念のような感情が乗せられたワンフレーズにハッとする。

音の情報に酔いそうになる。
一体感、とさっき表現したが、これまで聞いていたROSIERを紐解くとこんな構成要素に支えられていたのだということが、種明かしのように開陳されたように思う。

顕著な違いとして、ハッとしたJの英文独白パートの表情の豊かさ。
カラオケでもまともに追えたことのない早口の英文が、聴きやすく聞き取りやすい速度とまとまりになって耳に届く。
そこからバトンタッチされるSUGIZOのギターソロの鮮やかさ。
それを支える真矢の端正なドラム。
伸びていく光の行く先を見守っていると、「フウッ」という息を合わせた瞬間の後に、一体となった演奏は滑らかにかつてないほど表情豊かな声色のRYUICHIのボーカルを迎える。

揺れて 揺れて 今心が 何も信じられないまま
咲いていたのは ROSY HEART
揺れて 揺れて この世界で 愛することもできぬまま
悲しいほど鮮やかな はなびらのように

ROSIER 愛したキミには
ROSIER 近づけない
ROSIER 抱きしめられない
ROSIER 愛しすぎて

アウトロに向かう箇所。
ドラムが一層激しさを増し、悲鳴のようなギターが乗せられる箇所。
そしてそれを幕引きのように鮮やかにギターの響きに収束されるところまで、息ができないまま耳に神経が集中するのを感じながら見守る。

◆FACE TO FACE

宇宙のような重い暗闇の情景が、深遠さと透明感を増している。
見知っている原曲の描いた闇夜は、ひたすら続く暗黒のイメージだった。

少しだけ時間を戻して 二人きり 宇宙の中で
思い出さえ残せなかったから 空白のまま 心が

どうやったらこれほどまで、真っ暗で静かな情景を演奏で描くことができるのだろう。
その答えがこのFACE TO FACEであることは自明なのだけれど。

もう一度時間が止まれば 二人きり 宇宙の中で
思い出さえ 残せなかったから 空白のまま あなたが

原曲にはなかった女声コーラスが、曲に優美さを添えている。
静けさの情景のまま、動悸だけが収まらないというように低い音で響き続けているベース。

RYUICHIの声の表情豊かさ。ひるがえる歌の翳りや憂いの芯として確信があるから、これほどまでに情景の描写力が高いのかもしれない、と思う。

濃密さに脳がしびれて、鼻血が出そうだ。

ここまでの三曲、LOVELESS、ROSIER、FACE TO FACEだけでも、一つのバンドの曲であることが疑わしいほどの振り幅であると改めて驚く。
手癖ではなく、音像でそれぞれの物語を内包する自負があるからこその豊かさなのだろうと思う。

◆CIVILIZE

冒頭から、象徴的なギターリフが原曲から大きく表情を変えていることに息を呑む。
大きく歪み、不協和音で繰り返されるギターリフは、長い年月を経て自重でひずみ、崩壊に向かっている人工物の象徴である建築を思わせる。

罪人たちの詩さ 流行りもの 道化師たちの詩は
紙一重の平和さ 世界を人の悪がおびやかすだろう
私は誰 何をしたいのか? 生きているのか?(Don‘t Care)

欲望は腫れあがる 醜い金の亡者の街で
カリスマ 独裁者 世界をその手で粉々にしたいのか
貴方は誰 何をしたいのか? 生きているのか?

行き場をなくした 歪なCIVILIZE 氷の世界か 砂の星か
行き場をなくした 歪なCIVILIZE 生き残ることも夜明けも見えないまま

言葉が際立つように計算された背景。
「これは、聖書にある寓話だ」と感じる。

繰り返される歌詞の背景に重ねられた、クリーントーンのアルペジオが
人々の重ねた時代の情景の走馬灯のように見える。

罪人たちの詩さ 流行りもの 道化師たちの詩は
紙一重の平和さ 世界を人の悪がおびやかすだろう

不穏な音色の示唆する表情が、冒頭のフレーズに重ねられる。
ドラムに誘われる鮮やかな幕引きに見とれ、手品のようにかき消えた幻の面影を求めてしまう。

続きます


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