【LUNA SEA】セルフカヴァ―アルバム『MOTHER』全曲レビュー①LOVELESS
29年前の1994年に発表されたMOTHERの再録アルバム発表に先駆けて公開されたLOVELESSのMVを見た時、息が止まった。
中学生の頃、何百回も聴いて、歌詞も内包される曲の細部まで熟知していると思っていた曲が、あれから30年弱が経った2023年に、これほど鮮やかなものとして心臓を掴んでくるとは、正直思っていなかった。
◆LOVELESS
途切れ途切れの人の声。
静けさに重ねられる爪弾かれる象徴的な光の揺らめきのような音。
ドイツ語での囁き声のカウントアップ。
ゆらめく透明な膜のような響きがギターの音であることに気付く。
鼓動のようなドラム、脈拍のような重く揺るぎないベース。
音の情報が重ねられていく毎に、体がこわばり耳に神経が集中していくことを感じる。
人のいない開けた場所で、強い風に吹かれているような体感。
柱となる歌の冒頭の一語の「楽園」が音の世界を定義付けるのを感じる。
揺るぎない意味。
歌の存在が中心にあり、絶対的な意味として機能しているのを感じる。
これは「歌」なんだろうか。「歌」というものは、こんなに意味深く強いものなんだろうか。
繰り返されるカウントアップは、世界に時間が流れていることを示唆する。
時間が流れているということは、ここが「楽園」ではないということを示唆する。
絶妙なタイミングでさしはさまれるシンバルとギターのカッティング。
雪崩落ちるようなドラミングが空気の流れを変え、光があふれる。
荘厳さ。
荘厳さだ。この光と静けさのあふれる祈りを、一言でいうと。
神々しいものを見て、息が止まり、無意識に背筋が伸びるような。
重ねられるアコースティックギターの指ざわりの気配。
呼吸が浅くなるのを感じる。
意識して深く息を吸い込みながら、耳で甘受する情報をすべて手のひらで受け止めようとする。受け止めきれず、こぼれて溢れていく水のような透明で絶対的な大切な音たち。
雷鳴のように情景を変えるドラミング。
自然の摂理のように存在して、揺らがず、風や、光や、波や、温度と共存する世界。
世界だ、と思う。
存在する音が、全て過不足なく一体となって、大きく絶対的な幻を描いている。
これがバンドの演奏のできることなんだろうか。
全ての音に焦点が合わせられ、追うことができる絶対性を持っているのに、全てが調和して一つの大きなものを描いていると感じる。
息を止めて見守ることしかできない。この荘厳さを。
メンバー5人は、それぞれに違う神様で、それぞれに絶対的な仕事をしながら、息を合わせて天地創造をしているようにすら感じられる。
この曲が作られたのは、DTMなんて存在しなかった1994年だ。
何百回も飽きるほど聴いて細部まで熟知しているはずの曲が、形をそのままに、すごい解像度で鼓動と脈拍と血肉を得て、有機的な光と風と水と生命のある世界に降り立っていると感じる。
——こんな未来が、来るなんて、想像したこともなかった。
そこまで考えて、改めて鳥肌が立つのを感じる。
録音技術の向上もあるだろう。
でもそれだけではない解像度の向上。
風に飛ばされる葉っぱの葉脈まで、見ることができるような。
歌唱技術や演奏技術の向上なんて、そんな薄っぺらい話ではない。
声と、音の、絶対性。揺るぎなさ。
歌の意味する言葉が、乾いた大地に一瞬で浸み込む水のように体に浸透する。
LOVELESSで歌われる「LOVE」は本来の恋愛としてのLOVEではなく
命そのものを指すように感じられる。
作詞された当時の意図は、そうではなかったかもしれないけれど
この荘厳な曲に重ねられた「LOVELESS」は、命の創造を体現しているように思える。
全ての始まり。
昔から知っているこの5人の神様の描く天地創造を、息を呑んで見守る時、私は中学生の無力な少女に戻ることを知る。
祈りは変わらない。
当時も、今も。
色褪せるどころか、水の滴りが聴こえるほどの有機的な血肉を得た現在のLUNA SEAが再度描いて見せる天地創造。
*
アルバム発売記念のトーク番組でJさんが
「聴いてみな、飛ぶぜ」
と言っていたことを思い返す。
近年は、CDを買うことすら少なく、
(買っても開封せずにサブスクで聴いてしまうことも多いけれど、)
これほど音源の前に正座して、全ての音情報を掬い取ろうと真剣に耳をそばだてたのは何年ぶりだろうと思う。
軽い気持ちで再生したら、全曲が終わるまで動くことができなかった。
「格好良さ」以外の言葉が出てこない。
こんなことができるのか、という驚きに近いかもしれない。
『MOTHER』『STYLE』の発売日、
「息を呑んで、ひとつひとつの曲の内包する音や、歌や、歌詞の意味に瞬きをすることも忘れた」
という感想がTwitterで飛び交うのを見た。
それは決して誇張ではなかったことを思い知ったわけだが、きっとこれらの曲の凄さは、29年前の当時の曲を知っていたファンにしか届いていないかもしれないと思うと悔しくなる。
今までLUNA SEAを知らずに生きてきた音楽好きの人が、息を呑んで、2023年現在のLUNA SEAの凄さを思い知る一助になれたらと思い、曲の感想を書き留めておこうと思う。
◆つづきはこちら
◆音源はこちら
◆(原版)MOTHER(1994)
◆(セルフカヴァ―)MOTHER(2023)
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