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うさぎのまんが 2020 「変わらない日々」

あとがきのようなもの

 このような大変プライベートな話におつきあいくださり、ありがとうございます。正直、夫(フライパン)以外のほとんど誰にも相談せず、衝動のままにバリバリと突き進み、静かに玉砕した、大変ハードボイルドな道でした。

 そもそも、子どもが欲しかったのか。欲しかったのでした。もちろん「女に生まれたなら子を産め」なんて思っているわけじゃありません。絶対的に、子を産むも産まないも個人の自由です。あくまでこのたびは私という女が子をもってみたかった、というだけの話です。実をいうと「家庭」というものに憧れもあるぶん苦手で、そういった関係性から逃げたくてたまらない、というのが私の物心ついてからの考え方や行動のとり方のデフォルトだったので、自分が「子が欲しい」と思ってるなんて、認めるのに相当の時間を要したものです。

 しかしその欲望はなるべく見ないように、人にも見せないようにして生きてきました。なぜなら他のこともしてみたかったからです。他のことがしてみたいのなら、実は「子どもが欲しい」と思っていることなど、口に出してはいけないと、なぜか思っていました。ひたすら引きこもって絵を描きつづけ、時にはふらっと、ものすごく遠くまで旅したい、つまりは「子どもでありつづけたい」私と、子どもという未知なるエネルギーとガチでぶつかりあってみたい、「子どもである」ということの素晴らしさはリアルな子どもに順当に明け渡して、という「自分だけのために生きることにもう飽き飽きしてしまった」私と。結婚してからずっと、その二方向に私の内面は分離していました。

 その分離がようやく終わりを迎えた頃、私は43歳になっていました。もはや高齢も高齢。漫画に描いた夫のセリフじゃありませんが「子どもをつくるなら、ちゃんと自分が大人になってから…」とか思ってたら現実の身体は43年も経過したモノになっていたんです。白髪も老眼もシミも始まってますし、老年なんてすぐ目の前です。ああ、もっとアホな若い頃にうっかり子どもを作っておけば、なんて頭をかすめなかったわけじゃありません。「バカじゃないと子どもなんかつくれないわよ」という物凄い名言は樹木希林さんでしたっけ。病院に駆け込んだらギリギリもギリギリ、望みは薄いと痛いほど釘を刺されました。それでも、と覚悟をしてのぞんだので悔いはありません。折しもコロナ禍が本格的に始まったことで、不妊治療を止めることを私が決断しようとしまいと、医院へのそれ以上の通院は叶わなかったのですが。

 なぜ今、ただでさえコロナ禍で世間が大変なときに、このことを一生懸命に私なりに書き残そうとしているかというと、そのことによって不妊治療をストップせざるを得なかった方々が、沢山いるであろうと思うからです。なかには私みたいにもうすぐラストチャンス、という年齢的にギリギリの方もいたでしょうし、今この時じゃないとチャレンジできなかった、という方もおられると思います。だけど、こんな時じゃ、しょうがいないですよね。続けられないです。皆さん静かに、通院はあと数年は無理かな、と諦めたりしたんじゃないかと思います。

 そのね、静かに諦める、というのがですね。なんでこんなに大きなことなのに、誰にも言えないのか。私もそうだったけど、静かに飲み込んで、泣きそうな笑顔で、無かったことにしないでおくれ、みんなの声を聞かせておくれー!じゃまずは私から話すね!という、気持ちで描き始めました。子どもが欲しい、欲しくない、に関わらず、あの体の内側から喰いやぶって出てくるエイリアンみたいな「女」をみんな、どうしたの?その「女」は「タイムリミットがくるんじゃー!!生き物の世話をしたいんじゃー!!この体をフルでつかわせろ!エネルギーを発散させろボケええええええ!!」って騒がなかった?私のところは、まだいるよ?でも、猫が来てだいぶ落ち着きましたけど。それでも。

 どこかに、女たちがこういうことをもう少し気楽に話せる場があればいいのになあ、と思うのです。私自身、子どもがいる友人にも、子どもがいない友人にも、一連のこういった心の動きについて話すことはなかなか出来ませんでした。たとえば友人の家へ泊まりがけで遊びに行く、くらいじゃないとなかなか。まだ話せていなかった友には、これから時間をかけて話していこうと思います。

 とまあ、長くなりました。人生いろいろ。何もなかった家族も、カップルも、どんな人も、いないんだと思います。ジェーン・スーさんのラジオじゃないですけど、「おつかれさまです。よくやった!よくやってるよみんな!」と時にはあたたかいエールをみんなに、そして自分自身に送ってあげてくださいね。

 長々と読んでくださり、ありがとうございました。こんな読みにくい漫画をよくもまあ、と作者ながらに思います。そもそもこの漫画は私、マルー(MARUU) がかつて描いた漫画本『うさぎのまんが』(祥伝社)のつづきでもあります。うさぎの着ぐるみを着た作者が、問わず語りに自身の半生についてツトツトと喋りたおす、といった本です。まだ読んでいませんでしたら是非。電子版もありますよ。またうさぎが喋りたいことが出てきたら、描くだろうと思います。

愛とともに。

2020年 4月23日   M A R U U

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