役者・裏方・脚本・指導・撮影すべて社員。新卒研修で「演劇」をやってみた。
福岡県では毎週土曜日午後にテレビ放送されている「よしもと新喜劇」。高校時代からほぼ欠かさず観ています。最近は土曜日に出かけることが多いため約30話ほどビデオに撮り溜めていて、なかなか観る機会がありませんが、娘と一緒に少しずつ観ているところです。
こんにちは、株式会社丸信グループ広報担当する田中(@marusinofficial)です。
これだけ新喜劇を見ていると脚本を書けそうな気になってきます。せめて社内の新年会など内輪イベントで従業員の皆さんに新喜劇を演じてもらえる日が来ないかな~と夢見ていたところ、新喜劇ではないけど、脚本を書くチャンスがやってきました。
それが新卒特別研修の演劇版「丸信物語」です。私が2年ほど前から社内報で連載してきた社史「丸信物語」を、演劇として披露してもらうための脚本。こんなに早く脚本を書く機会が来るとは思ってもいませんでしたが、実際に演劇をやるとなるといろいろと大変なことがありました。
初の試みとなった新卒特別研修(演劇)をレポートします。
1.経緯
2022年12月末、社長から人材育成部長と広報スタッフ2人(1人は私)宛てに、1通のメールが届きました。内容はこうです。
「4月入社の新卒社員に演劇やってもらおうと思います。確かMさん(もう一人の広報スタッフ)は元劇団員だったよね」
背筋が凍りました。自分が社内でやろうとしていた新喜劇は、芝居が出来そうな社員を厳選して承諾を得た上で配役を決める計画(妄想)だったので、新卒社員に問答無用で芝居をやってもらえるのだろうか。また、やってもらえたところでクオリティはどうなんだい?という大きな不安、、、。社長のメールの最後にはこうも記されていました。
「お遊戯会レベルじゃなくてガチだからね(^o^)」
なーにーっ?!と思わず心の中でツッコミみました。この時点では、メールを受け取ったサポートスタッフ3人とも、なかなかのムチャぶりをされたという認識でした。
ちなみに社長が新卒社員に演劇をやってもらいたい理由としては、直近で経営者研修に参加した際、研修プログラムの中に「坂の上の雲」の演劇が組まれていたこと。実際に台本を覚えて参加者みんなで演じたところ、「歴史の理解」「団結力」「達成感」が得られたため、これを新卒社員にも体験してもらいたいとのことでした。なるほど、上手く演じられればそういうメリットはあるかも。上手くいけば、ね。
そういえば、確か吉本興業も新卒社員に演劇(もちろん新喜劇)をやってもらうというのを、何年か前にテレビ番組で見たし、福岡の有名な食品メーカーも新卒研修に演劇を取り入れているという話を聞きました。こうやって公表されている研修プログラムならまだしても、弊社の新入社員は入社後に初めて演劇をすることを告げられるわけで、とにかくいろいろとハードルが高いように思われました。
ひとまず、入社してくる4月までには一旦、脚本を完成させなければ。過去に書いた「丸信物語」17話分を読み返して、これまで脚本なんて一度も書いたことがないけど、1人もくもくと脚本的なものを一気に書き進めました。
ちなみに、当初は脚本も新卒社員が書く方向でしたが、元劇団員の広報スタッフによるとわずか3か月の期間では演劇練習しかムリ。なんなら演劇練習も3か月では全く足りない、ということで脚本だけはサポートスタッフ側で用意することになりました。
2.懸念点
完成した脚本(らしきもの)を握りしめ、Web制作課の動画制作スタッフを尋ねました。練習風景や本番の様子を映像として記録し、できればメイキング映像なども作ってもらうため。昨年に中途入社した動画スタッフのS氏(40代前半)は、もともと映画を撮っていた人物。その他にもスポーツ団体の専属カメラマンを務めたり、過去には演劇の映像撮影にも携わったことがあるとのことで、依頼をしつつ今回の新卒演劇の件についても相談することに。すると、
「普通は演劇研修メソッドみたいなものがあるので、そういうメソッドを持っている研修会社に外注するんじゃないんですか? え?本当に全部、自前でやるんですか?無理でしょ、信じられない、、、」
とまあ、ある意味、絶句してました(笑)こちらも信じられませんが(笑)
おそらく社長が参加した研修や、有名食品メーカーが取り入れている研修も演劇メソッド的なものがもとになっているのではないかと。次年度から自前でやるととしてもさすがに初年度は外注が無難なのは確か。でも、3人がサポートスタッフとして指名された以上、もうこのメンバーでやるしかないんです(涙)
と言って、S氏には諦めてもらい、可能な限り演劇の方もアドバイスをもらうことに。動画スタッフには練習の度に撮影に来てもらい、ときどきコメントも拾ってもらうなど撮影で多大に協力してもらうことになりました。
そんなわけで、事前に抱いていた不安を整理するとこんな感じです。
演劇経験者が何人くらいいるのか?
未経験者でもやってくれるのか?
演劇が嫌で辞める人が出ないか?
本番までの3ヵ月で間に合うのか?
できたとしてクオリティは大丈夫?
練習の過程で険悪になったりしないか?
本番で欠員がでたら代役はどうする?
団結力、達成感、歴史の理解は本当に得られる?
グダグダになって「やらなきゃ良かった」とならないか? など
本番がグダグダになって、新卒社員や指導役など関わったみんなや、本番を観覧した人たちが何とも言えない消化不良感を抱えてしまう、、、みたいな最悪の事態が頭をよぎりました。この不安は、練習が始まってもしばらくは続きました。
3.初顔合わせ
4月3日、新卒社員が入社しました。総勢15名(5月に1名追加)。その日の午後のレクレーションで人材育成部長が「この特別研修では演劇をやってもらいます」と初めて伝えました。新卒社員の反応はというと「ん?」「え?」「・・・」等と薄かった様子。そりゃそうでしょう。まさに寝耳に水、思ってたのと違う、理解が追い付かない、そういったところでしょうか。
それから2週間後に特別研修の初日を迎えました。新卒社員とサポートスタッフとの最初の顔合わせ。特別研修の趣旨を伝えた後は、事前に渡していた連載「丸信物語」17話分を読んだ感想を書き出し、多くの質問に答えていきました。出てきた主な質問は、
「台本はいつできるんですか?」
「どのくらいのペースで練習するんですか?」
「3か月で間に合うんですか?」
「全員が演じるんですか?」
「本番の大道具は誰が作るんですか?」
「どこで本番やるんですか?」
「誰が観に来るんですか?」
「演劇じゃなくて映像ではだめですか?」etc.
なかなか鋭い質問もあってタジタジになりながらも、基本は全て(脚本と演技指導以外)自分たちで作り上げる主旨。どうやって進めるのかも自分たちで決める。悩みがあればサポートスタッフに相談してもらう、という方針を説明。これを基本に質問に答えていきましたが、このとき感じたのは、新卒社員の多くがすでに演劇をやること前提の質問だったこと。「私(オレ)絶対ムリっす」みたいな人が出なかったのは一安心(心の中ではあったかも)。この前向きな質問攻めによって、サポートスタッフ側もスイッチが入った感覚がありました。
4.練習スタート
4月末から本格的な練習が始まりました。これ以降、練習や本番の様子はメイキング動画をご覧いただくとして、スケジュールとしては6月末の本番までに週1~2回の練習(1回3時間)を設けました。
役割決め
台本読み合わせ
練習
練習
練習
練習
練習
練習
練習
通し練習
通し練習
会場での通し練習
本番
ちなみに、私は脚本を納品しただけで、その後の練習はほとんど参加していません(特に役に立たないので)。練習は主に、元劇団員の広報スタッフと社歴30年以上の人材育成部長の2名で進めてもらいました。
練習が始まってからしばらくは、演技指導をしている広報スタッフが頭を抱えている様子を何度か見ました。最初はやはり“お遊戯会レベル”で、発声のレベルもまちまち。学生時代にショートムービーに出演したことがあるメンバーもいましたが、ほとんどが未経験。高卒・専門卒・大卒と学歴も違う16名なので、練習当初は指導という指導も出来ずにフラストレーションも溜まっていたことでしょう。
5.目的を再確認
練習を重ねるうちに、ほんの少しずつですが、レベルが上がっていきました。ただ、6月末の本番にピークを持っていけるほど順調ではなかったことも事実です。それでも、一生懸命、演じてくれればそれで良いと思っていましたが、途中、「上手に演じなければ」「失敗は許されない」という空気感が漂い始めました。そこで、脚本を書いた立場から、ある日の練習の冒頭でこう伝えました。
「上手く演じてもらうことに越したことはないけど、それよりも、丸信の歴史をしっかり理解してもらい、あなたたちなりの表現の仕方で観客の皆さんに一生懸命、伝えてください」
正直、下手でも棒読みでも構わない思います(演技指導の広報スタッフはそう思っていない!?)。台本を通じてしっかり理解した丸信の良さを、目の前の人たちに伝えようという気持ちがあればそれで良い。高いレベルにはならなくても、それがこの研修の目的であることを伝えました。
本番まで1か月を切って、通し稽古に社長がやってきました。表情を見る限りその評価は微妙でした。この時期、演技指導の広報スタッフは、個別指導も行うなど本番に向けて追い込みましたが、残念ながら”ガチレベル”には到底届かないレベル。ほとんどが素人で2か月前ほどに初めて知らされ、練習期間は3か月もない状況で、当然と言えば当然です。
ただ、そんな中でも、新卒メンバー全員が前向きに取り組んでいることが救いでした。実は、ほとんどのメンバーは早い段階から覚悟を決めて取り組んでいた模様。本番が終わった後にあるメンバーに「いつ頃スイッチ入った?」と聞いたところ、次のような返答がありました。
「台本を1回読んで、役が決まってきてから、覚悟しました」
6.本番
本番までの間、新卒メンバーは練習に励むだけでなく、大道具・小道具や当日の案内チラシ作成なども手分けして準備しました。それも含めて3カ月弱で本番を迎えるのだから、いま考えても無理のあるスケジュールだったと思います。そして本番当日を迎え、演劇の仕上がり具合も含むと、もっとも不安を抱えていたのはサポートスタッフの方だったかもしれません。
本番当日は13時頃から招待客がやってきました。新卒メンバーの上司や幹部など社歴の長い従業員、演劇の登場人物を含めたOB・OGもやってきました。開演直前の時間は、さながら同窓会の様相。演劇とは関係なく異様に盛り上がっていた観客席を一旦静止して、14時に幕が上がりました。
メンバー代表が挨拶を終えると先にメイキング映像。これまでの練習の頑張りが映像で流れます。そして、演劇へと続きました。
ほとんど練習を見ていなかったので、正直、メイキング映像だけで感傷的になってしまいました。みんな、しっかり頑張ってたんだな、と。社内の映像スタッフの動画編集力も素晴らしい。
本番の演技はさらに驚きの連続。チラっと覗いた通し稽古の時とは別人のような演技。ときどき間違えることはあっても、一生懸命で、声も出ている。そして、みんな堂々としている。
演劇終了後、社長から「練習の時の25倍良かった!」とお褒めの言葉(メイキング映像参照)。“25倍”がどういう基準か分からないけど(^^;) 確かに練習よりはるかに良かったのは間違いない。きっと観客の皆さんの心にも響いたことと思います。一言で言えば、大成功でした。
7.メンバーの感想
ここで、本番終了後に新卒メンバーからもらった感想を紹介します。当初の予想を覆す充実感・達成感に溢れる感想ばかりでした。
デザイナー「最初は不安でいっぱいでしたが、このような機会がないと話さなかった人もいると思うのでやってよかったなと思います」
デザイナー「幼稚園以来やったことが無かったので、難しかったですが、丸信の歴史を伝えられて良かったです」
デザイナー「同期の絆が深まって良い経験になりました」
工場勤務「3か月の間、同期と一緒に目標に向かって努力した事は、今後も仕事をしていく上で糧になると思います」
工場勤務「最初は上手くいくのかとても心配だったけど、みんなで力を合わせて一つの作品を作り上げる事ができてとても感動しました」
工場勤務「“信義さん”という超大役を演じ切る事ができて本当にうれしかったです」
工場勤務「皆さんのおかげで無事やり遂げることができました。楽しかったです!」
工場勤務「人生初めての劇でとても緊張しましたが、無事成功できて良かったです。とても楽しかったです!!」
工場勤務「3か月間みんなと楽しむ事ができて良かったです」
工場勤務「本番では練習以上の演技が発揮できたのでよかったです」
営業「楽しかったです!同期のみんな、指導して下さった方々に感謝です!」
営業「皆さんと一緒にやり遂げることができて良かったです!」
営業「有意義な時間を、ありがとうございました」
営業「会社の歴史について学ぶ事ができ、同期との絆も深まった貴重な経験となりました」
おそらくは、最初に演劇をすると聞いたときに嫌な気持になった人や、練習をしていくうちに自信を無くした人、本番前まで不安でいっぱいだった人もいたと思います。それでも各々が覚悟を決めて本場を乗り切ったことで、「やって良かった」「楽しかった」と当初は思ってもみなかった感情が芽生えたような気がします。社長が狙っていた「歴史の理解」「団結力」「達成感」もしっかり得られたようです。
8.メリットや発見
今回、弊社としては初の試みである演劇を取り入れた新卒研修を行ってみて、「歴史の理解」「団結力」「達成感」以外にもいくつかのメリットや発見がありました。
一つは、やったことがない事でもやればできる、ということ。人は経験を積めば積むほど、いろんなリミッターが装着されてしまい、「素人には無理」「3ヵ月じゃ無理」「できたとしてもレベルは?」とやる前からネガティブなことを述べたがります。最初に社長から「演劇やるよ」と言われたときの自分の率直な感想がまさにそれ。
一方で、新卒メンバーは経験が浅いからこそ、そのリミッターは緩く、ある種の開き直りや覚悟を持てたのが今回の成功に繋がったのではないかと推察しています。改めて“やればできる”ことを新卒メンバーから教えられた気がしました。
もう一つは、OBと新卒の交流です。演劇終了後にOB・OGも交えた懇親会を行いましたが、役を演じた新卒メンバーと当時を知るOB・OGが直接コミュニケーションをとっている様はなんとも新鮮。これまでの会社の歴史の中でもなかったことです。この様子を見た社内ES交流委員会の委員長(品管部長)は「ES向上や離職率低下にもつながる取組みになるかも」とヒントを得た様子。先人の苦労を知ることは会社を知ること。しかも先人本人から直接話を聞くことで会社への思いも強くなりそうな気がします。
今年度に入社した新卒社員は、過去最高の16名でした。感想にあった通り、今回の演劇研修を通じて団結力は強まったのではないかと思います。現在は研修が終わり、それぞれ異なる部署に配属されているので顔を合わせる機会は激減していると思いますが、引き続きしっかり交流を深めて、いつの日か「新卒研修で初めて演劇をやり切った黄金世代」と呼ばれる社員に育って欲しいと願っています。
とりあえず「この台本、ぜんぜんつまらんやん」と誰からも言われなかったことだけ私にとっての救いです。次はもっとちゃんと書こう。え、次もあるの?
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