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「いってらっしゃい」
パン屋さんで
朝、会社に行く前に、地元のパン屋さんでお昼ごはんのパンを買います。こじんまりとした、感じのよいパン屋さん。いつものパンが行儀よく並ぶなかから、お気に入りのトマトのパンをトレイにお迎えします。お会計でポイントカードに小さなスタンプを押してもらいながら、「今日はまた冷えますね」「ほんとうに。体調に気をつけましょうね」とひとことふたこと。「ありがとうございました」「ありがとうございます」と、スタンプカードとパンを受け取ります。
「いってらっしゃい」
パン屋さんをあとにしたわたしは、今日もきっといい日になると、足取り軽やかに駅にむかうことができます。うれしいような、なんだかしあわせな気持ち。でもどうしてでしょう?わたしはずっと不思議でした。
会社で
不思議なごきげんで、会社に到着です。会社で、わたしはスタッフとして営業さんのサポートをするお仕事をしています。営業さんは、暑い日も寒い日も、雨の日も風の日もお客さまのところや現場へ足を運びます。会社では営業さんが出かけるときには「いってきます」「いってらっしゃい」、戻ってきたら「ただいま」「お疲れさまです」とことばを交わすことが習慣になっています。その日、わたしはいつものように、「いってらっしゃい」と営業さんを見送った後、ふと、思いました。
わたしの「いってらっしゃい」は、営業さんをちゃんと送り出せているのでしょうか。パン屋さんの「いってらっしゃい」にわたしがうれしくなるみたいに、わたしは営業さんになにかを届けられているのでしょうか。
ことばにのせて
”寒いから、風邪ひかないように、気をつけてくださいね。”
”足元にも気をつけて、転んだりなさらないようにね。”
”今日はどんな一日でしょうか。どうかいいことがありますように。”
”そして気をつけてぶじに帰ってきてくださいね。”
「いってらっしゃい」は、こういった想いをひとことに、きゅっとしたことばなのではないでしょうか。ここを出てゆくひと見送る、そしてそのひとの無事や幸を願う、祈りのような気もします。そして、そうして発せられた「いってらっしゃい」は、きちんと相手に想いを届けてくれるのだと思いました。
パン屋さんの「いってらっしゃい」にわたしがしあわせな気持ちになるのは、きっとそのひとことにわたしを想うパン屋さんのやさしさがつまっているからです。わたしはいつも、あたたかいパンといっしょに、やさしさを大切に手わたされていたのです。
ほんの2、3秒の、短い、なにげないひとこと。習慣として声にするなら、それはあいさつなのかもしれません。でもそこに、ひとつひとつ、たしかに想いをのせることができたなら、きっと相手にも伝わるような気がします。
相手を想う気持ちはそれだけでとてもやさしいものです。その想いをことばにのせることは、やさしさを相手に手わたす、とても大切なことなのだと気づきました。
わたしも
なにげなく、相手にかけていることば。日常の、あいさつ。じぶんの身近にあることばたちを、いま一度見つめてみましょう。そのことばに、どんな想いをのせたいか、そのことばをかけられた相手に、どんなきもちになってほしいかを考えましょう。
わたしの「いってらっしゃい」が、ちゃんと営業さんを送り出せますように。営業さんが、「よし、いってこよう!」と明るくなれますように。
読んでくださってありがとうございました。
コロナがおさまらない中、毎日に不安や緊張があると思います。その中で、きっとあなたも、どこかへお出かけになる機会があるでしょう。
どうか、お気をつけて。どうか、ご無事で。
そして、願わくば、いいことがありますように。
「いってらっしゃい」
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