あなたはこうやってラーメン店に失敗する(1)の3
夫婦で開業した場合
あなたが既婚者でそのうえ奥さんが健康で働き者だったとします。これでやっと第一段階はクリアできます。あなたは奥さんを説得しなければなりません。
奥さんにも二通りのタイプがいます。
(A)夫がサラリーマンをやめることをそれほど真剣に考えていないタイプ、と
(B)毎月決まった給料が入らなくなることに不安感を持つタイプ
です。
(A)のタイプの奥さんは説得するほどの努力も必要なくあなたの意見に賛成してくれるでしょう。ある意味うれしいことです。しかしこういったタイプの奥さんは社会の厳しさを実感していないケースがほとんどです。いざ始めたあとから「こんなはずではなかった」と思い始めます。夫がサラリーマン時代は家の中で仕事の話などする必要がありませんでしたから家ではくつろぐことができました。事業主になるとそうはいきません。家で食事をとっているときでも仕事の延長となります。テレビを見ているときでも仕事の話をしなければならなくなります。
せっかくの休業日も結局買い出しに行ったりして仕事絡みとなります。奥さんは友だちと遊ぶこともできなくなってきます。息が詰まります。
奥さんと働いているあなたは奥さんの仕事ぶりに満足はしないはずです。あなたの考えている仕事観とは相容れない仕事のやり方をすることもあるはずです。家で食事をしているとき、休業日にゆっくりしているときあなたは奥さんに文句を言うはずです。必ずあなたは言います。あなたは強い決意でラーメン店を繁盛させようとしているのですから…。
奥さんは我慢、辛抱を強いられます。それが奥さんをイライラさせます。夫婦喧嘩が始まります。口をきかなくなるでしょう。
夫婦喧嘩はどこの家庭でもあります。夫がサラリーマンであるなら夫婦喧嘩をしても翌朝が来ると夫は会社に行きます。夫婦は日中の間は顔を合わせることもありません。この間にお互い冷静になることもあるでしょうし、夫は会社帰りに同僚と遊んだりして気分転換をはかることもできます。これは奥さんも同様です。夫のいない間に友だちに愚痴ったり、またはテレビの人生相談を聞いて反省することもあるでしょう。夫がサラリーマンである場合はこのようにして夫婦喧嘩は収まるものです。例え日数がかかることがあるにしても…。
しかしラーメン店を営業している場合はそうはいきません。喧嘩をしていてもラーメン店という同じ仕事場で顔を合わせ一緒に働かなければならないのです。サラリーマンのように気分転換をはかる時間もないのです。ときによっては一緒に働いていることによって喧嘩が深く長くなることもあります。仲直りをする機会を逸してしまいます。それが高じるといつしか心は離れ離婚さえ考えることもあります。
ここまでくるとラーメン店の業績にも影響がでます。お店の雰囲気は働いている人の雰囲気がそのまま出るものです。お客様は不審に感じ満足しないまま帰ることになります。売上げは徐々に落ちてきます。固定費をまかなうことさえできないほど売上げが落ちたとき夫婦は初めて話し合います。
「このままじゃ、俺たちダメになるよな」
もしかすると仲直りはするかもしれません。しかしラーメン店を続けることには二人とも抵抗があるでしょう。
あなたはこうやってラーメン店に失敗します。
(B)のタイプの奥さんの場合は説得するのに容易ではありません。ほとんどの奥さんが言います。
「私は商売人と結婚したつもりはない。あなたがサラリーマンだから結婚したのだ」と。
あなたは奥さんをあの手この手で説得するはずです。なぜならあなたの心はもうラーメン店の店主になることで占められているのですから。一国一城の主になることしか頭に浮かんでこないのですから。
あなたはなかなか「OK」を出さない奥さんに頑張ってねばり強く説得します。それでも奥さんは反対します。
ある日、あなたは会社でミスをして元気をなくして晩ご飯を食べています。その様子を奥さんは食器の後片づけをしながら背中越しに見ています。
数週間後、あなたは寝言で「ラーメン一丁…」と言うでしょう。たまたま目が覚め水を飲みに行って戻ってきた奥さんはその寝言を聞いてしまいます。翌日、奥さんは晩ご飯を食べているあなたに向かって言います。
「あなた、そこまで思ってるならいいわよ」
こうやってあなたはラーメン店を開業することができます。
(B)のタイプの奥さんは一端決定すると一生懸命サポートしてくれます。元来、ものごとを冷静に判断するタイプですからいろいろな面で一緒に考えてくれ行動してくれます。もしかするとあなたより一生懸命ラーメン店について勉強するかもしれません。そうなるとあなたより積極的になります。
ここまできたら開業するまでは安泰です。あなたには力強いパートナーがいるのですから開業に向かってスムーズに進むでしょう。ところが…。
この(B)タイプの奥さんは(A)タイプの奥さんのようにラーメン店を開業することを軽く考えていたわけではありません。ですから、例え夫婦喧嘩をしても「早く仲直りする必要性」をわかっていますし収めるコツをわきまえてもいるものです。ラーメン店で独立することについて勉強さえしているのですから夫婦喧嘩ごときで失敗することはありません。
開業して半年を過ぎた頃、お店の売上げは一度下がります。そしてなかなか思うように売上げは上がりません。すると今後のやり方について二人で話し合います。(A)タイプの奥さんなら経営について真剣に考えませんので問題は起きません。しかし(B)タイプの奥さんのようにラーメン店経営について勉強をして真剣に考えている奥さんのケースでは対立が起きます
あなたと奥さんの間に経営についての意見の相違が対立の原因です。この対立は単純な夫婦喧嘩とは異なり奥が深い種類の対立です。単なる夫婦喧嘩なら奥さんは収めることができますが、原因が経営の問題ですので奥さんも安易に収めることができません。経営の問題ですから二人の間には険悪な雰囲気が生まれます。(A)タイプ奥さんのときと同じように険悪な雰囲気はお客様に伝わります。
ある日の営業時間を終えたとき看板の電気を消し暖簾をしまいながら奥さんはあなたに言うでしょう。
「ちょっと話があるの」
店を閉めたあとの店内であなたは奥さんとテーブルを挟んで向かい合います。
「お店に店長は二人はいらないわ。私やめようと思う」
あなたは驚きます。なんとか翻意させようと説得します。それに対して奥さんは反論し、あなたと言い合いになります。そして最後に言います。
「私はやりたくなかったのにあなたが『どうしてもやりたい』って言うから…」
あなたはこうやってラーメン店に失敗します。
つづく。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?