あなたはこうやってラーメン店に失敗する(2)の2

【自分を管理する難しさ】

次に、個人単独で開業するケースを考えてみましょう。

あなたは地元である程度有名なラーメン店を訪れ「将来独立することを前提に働かせてほしい」と懇願します。最初は渋っていた店主もあなたの「無給でもいい」と言う熱意に負け了承してくれます。三ヶ月後、一通りの仕事を覚え開業に向けて準備をします。修行期間中に問屋さんなどとも顔見知りになり開業に向かって順調に進みます。師匠も快く応援してくれ開業することができました。

あなたは三年間は順調に過ごせます。三年目にはサラリーマン時代の収入を上回るようになり有頂天になっています。サラリーマン時代の友人と会ったときなど「自営業者の大変さ」とそれでも「やりがいがある」ことなどを口先なめらかに話します。

四年目あたりから売上げが前年を下回る日が出てきます。それでもあなたは不安になることはありません。「四年もやってたらそういう日もあるさ」と考えています。

売上げが悪かったある日、あなたは閉店後に考えます。その日は閉店三十分前からお客さんは一人も来ませんでした。

「なんか時間がもったいな。せっかく誰もこなかったんだから閉めてたほうかよかったかも」

次の売上げが悪かった日、あなたは確信します。

「誰も来ないんだったら店は早く閉めたほうが電気代を節約できる」

それからは閉店時間近くにお客さんが一人もいないとき、お店を早く閉めるようになります。そしてそれが普通になります。しかも一ヶ月を通して計算してみると閉店時間を早くする日があっても売上げは以前とあまり変わらない結果でした。あなたは効率よく売上げを作っていると考えるようになります。

「閉店時間を早くする」ということは自分の自由になる時間が増えることです。はじめの頃こそ家でくつろいでいたのですが、それにも飽きてくるようになりました。あなたは趣味でパソコンをやるようになります。

元々機械いじりが好きだったあなたはパソコンに夢中になります。

「自分がラーメン作りに夢中になっている間に世の中はこんなにも進歩していたんだ」などと感動しています。それからは営業時間中であっても暇な時間がとれるとパソコンの本を読むようになります。以前なら店内の汚れたところを清潔にしたり売上げを上げる方法を考えたりしていました。さらに、ソフトがうまく使えないときは徹夜さえするようになってしまいます。

徹夜を何日かすると当然、睡眠時間が少なくなってきます。するとあなたはこう考えます。

「開店時間を少しくらい遅くしても売上げに影響はないだろう」

閉店時間を少しくらい早めても一ヶ月を通した売上げはあまり変わらなかったのですから開店時間についても同じように考えて不思議ではありません。要は効率的であればよいのですから…。

徹夜をした日の翌日、開店時間が十分遅くなります。そうしたことが何日か続くと次は二十分遅くなります。なんの罪悪感もありません。チェーン店に加盟しているのであれば規約がありますが、個人で開業しているあなたは誰からも文句を言われる筋合いでもありません。あなたのお店は徐々に営業時間が短くなってきます。それでも売上げは極端に減ることもありません。徐々にしか減ってはいきません。そして「徐々に」はあなたから緊迫感を取り除いてしまっています。あなたは客離れが起きていることに気がつきません。気がついたときは利益が半減しています。

あなたはこうやってラーメン店に失敗します。


また、違うあなたはこうやってラーメン店に失敗します。

売上げも順調、利益も順調、下がる気配もありません。あなたは仕事が終わったあと飲みに行くようになります。自由になるお金もサラリーマン時代より多くなっています。飲みに行った先で知り合いも増え夜の街に出かけることはあなたの楽しい生活の一部となっています。

最初の頃こそ飲みに行く頻度は二週間に一回程度でしたが段々と増え毎週一回となり、やがて週に二~三回となっていました。奥さんには注意されますが、それほど気にも留めません。金払いのいいあなたは夜の街で好感を持って迎えられ、またお金に不自由していないことを示すことはあなたにとって優越感でもありました。今のあなたは飲みに行った先でヒーローになっていました。あなたはみんなの憧れの的です。

しかし飲みに行く回数が増えると自然とお金も使うようになります。

ある日、あなたは飲みに行こうとしたとき手持ちのお金が少ないことに気がつきます。当然です。飲みに行く回数が多くなっているのですから。あなたはレジに入っている売上げの一部を持ち出します。一度が二度になりそして三度になり…。それでもラーメン店は日銭が入る商売です。毎日数万円のお金がレジに貯まります。あなたは少しくらい持ち出しても影響はない、と考えます。いや、考えようとしています。

月末に取引先の問屋さんが集金にきます。あなたはお金を払います。レジからお金を持ち出しはじめても最初の数ヶ月は問題なく支払うことができます。問屋さんへの支払法は月末締めの翌月払いですから当月の売上げから支払うこともできます。しかし、徐々に自転車操業に陥っています。数ヶ月後、問屋さんに支払うお金が足りなくなっています。

あなたはこうやってラーメン店に失敗します。

つづく。


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