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そのオーバードーズちょっと待った(けけまる)


いつもの処方薬,家に残っていた風邪薬,家族の睡眠薬.
あなたの目の前にあるのがどんな薬にせよ,決められた量よりたくさん飲むことは百害あって一利ありません.

いわゆる過量内服,オーバードーズをしようとしているならやめてください.しかし,あなたが過量内服をすると決めているなら,およそ辞めることはないでしょう.なので,急性薬物中毒患者の搬送数が日本で五指に入る救急病院で勤務している私が,過量内服をした未来をお伝えします.

ぜひ読んでいただき,内服をやめていただけると,私の仕事が減ってとても嬉しいです.


薬剤の種類にもよりますがだいたい50錠程度内服すると,おめでとうございます,重症薬物中毒として搬送されます.救急隊も重症患者を診療できる病院に連絡を取ります.
万が一のんでしまったなら,飲んだ時間と何を飲んだか,そして普段から内服している薬剤や通院している医療機関がわかるようにしてください.可能であれば,親類などあなたの代理意思決定ができる人間が一緒に来るようにしてください.

搬送されてきたら,わたしたちは貴方を診察して,必要な処置を黙々と進めます.リストカット痕や注射痕を見るために全身を見させていただきます.
点滴,採血は必須.あと,尿検査をするための管も必須です.

飲んだ薬が致死的なものであった場合や飲んでからの時間が短い場合は,ご存知かもしれませんが胃洗浄といって,読んで字のごとく胃から薬材を回収するために管をいれます.私も試したことがありますがかなり辛いです.

意識がなかったり,呼吸が止まってしまっていた場合は人工呼吸が必要です.致死的な薬剤であれば薬材投与以上の処置,例えば人工透析などが
必要になります.ここまでくると,見事集中治療室に入院です.お金はたくさんかかりますし,常に機械やアラームの音が響くだだっ広い部屋でその他重症患者とともに入院することになります.意識がなければ逆に幸いかもしれませんが,いずれ目は覚めて,薬が切れた頃には全ての現実が押し寄せてくるでしょう.

時間が経てば薬の作用は消えます.後は薬によって起きた内臓の障害や貴方が倒れている間に起きたことが問題になります.
肝臓や腎臓が薬の影響で障害されたりすれば,長い長い治療が始まります.一時的に人工透析が必要になることもあります.
寝てる間に肺炎になったり褥瘡(とこずれ)や血栓ができたり,これらで致死的になってしまうこともあります.圧迫されていた四肢が壊死してしまうことも時々あります.
もちろん亡くなる方もいます.


全身の治療に加えて,必要なのはこころの治療です.まずは洗いざらい話してもらうところから始まります.どうしてもいいたくなければ言わなくても大丈夫です,信頼関係が作れないと前には進めません.
精神科の専門医が判断して,必要であれば精神科の専門病院での入院を継続します,不要なら外来での診療に移行していきます.

過料内服をした患者に話を聞くと,スッキリするから,落ち着くからといった回答が多いです.死にたいから,ではないことが多いです.
そのメリットを享受したよりも,大きな苦痛が入院中に発生しますので,是非やめて,かかりつけでもそれ以外でも,心療内科,精神科の診察を受けてください.そうすれば過料内服をするよりはマシな未来が待っているはずです.




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