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鱒寿司

2024/05/08
ゴールデンウィークには、富山に住む私の祖母と、新潟に住むパートナーの祖母に会いに行った。祖母巡りの旅、三泊四日。

子どもの頃から、祖母が富山から遊びに来ると必ず手土産に「鱒寿司」を買ってきてくれた。いつも同じパッケージ、同じサイズの鱒寿司。それを見るたびに、母が「誰も好きじゃないから買わないでって言ってるでしょ」と叱る姿が思い出される。私は寿司が苦手だったので、お菓子にしてくれたらいいのにと思っていた。それでも祖母は買い続け叱られ続けた。(ボケているわけではないはず)

祖母はいつも、私が欲しいと言っていないモノでも決まって「お母さんには内緒ね」と言いながら買い与えた。家に帰ると母にバレることが必ずで、「これどうしたの?」と聞かれる。嘘をつくこともできず私は「おばあちゃんが...」と答え、祖母は「え、知らないよ」ととぼけて、母には見えないところで私にウインクしながら舌を出した。モノを与えることで叱られる姿を見て、子どもながらに複雑な気持ちになった気がする。

施設に入ったことやコロナの影響で5年ぶりの再会。昔はSMS?メッセージに絵文字を巧みに使ってくれる祖母だったが、四年前の誤タップでの電話が最後の連絡になっていた。祖母の姿を想像し、驚かないように心の準備をして施設に向かった。

施設のドアノブは高い位置についていて、それだけでいろいろ想像できた。扉の奥から出てきたのは車椅子に乗った祖母で、自分ではもう歩けないことを悟った。祖母が漂わせる不思議な透明感にドキドキした。それは一般的に女性の肌などに使われる透明感とは違って、無駄がなく削ぎ落とされたような、ただ生きていることだけを残したような感じだった。祖母はもともと派手な人で、こまめに髪も染めたりパーマをかけたり、洋服もたくさん持ってしまうような女性だったが、今は白髪混じりで髪は短く、黒の落ち着いた服を着ていた。長年祖母を見てきたが、今が一番美しいと心から思った。「その髪、とても似合っているよ。かわいいね」と言うと、彼女は皆に褒められるんだと言って嬉しそうだった。限られた面会時間の15分、祖母の最近の生活や健康の話に耳を傾けた。「施設の目の前にあるコンビニにも行ったことがなくて、ほんとうはコンビニのサンドイッチが食べたいんだ」という話を帰ってから何度も思い出してしまう。まだわたしには何かしてあげられる時間があると思った。

翌日は、パートナーの親戚への手土産に鱒寿司を買った。昼食に皆でおいしいねといっていただいた。

鱒寿司と祖母の思い出。

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