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丸和運輸機関(東証プライム/9090) 2022/3 Q4決算精査

 東証プライム上場(9090)の丸和運輸機関が2022/5/10に23/3期Q4決算を開示しました。私はIPOの時からの株主ですので、長きに渡り同社を応援している立場ではありますが、当記事で決算の内容を確認していきたいと思います。
 なお、当記事に記載している内容は、私の主観により記載されております。従いまして、誤認や事実と反する点が介在する可能性があります。その点、ご了承頂ければと思います。なお、お気づきの点があれば、ぜひなんなりとご指摘頂ければ幸いです。以下のツイッターよりリプライなりDMなりで頂けますと助かります。

1.参考記事

 まずは、前回の決算精査記事と直近の株主総会のレポート記事をここに再掲しておきます。

2.決算概況

 まずは決算短信を簡単にみていきましょう。なお、同社は後日、新中計の説明を含めた決算説明資料を開示する予定とのことですので、こちらの内容を踏まえて必要に応じて追記していきたいと思います。

決算短信表紙より抜粋(22/3期Q4決算)

 決算短信表紙によると、売上高は1,330億、経常利益は91.4億となり増収増益となりましたが、昨年11月の上方修正後のガイダンス値からみると売上はこの値を超過しましたが、経常利益が▲2.6%と僅かではありますが未達となりました。

 全体観としては堅調な状況が続いていると思います。21/3期に資金手当てを行い、それを2年に渡りコロナ禍の下でも順次投資投下を行ってきており、今後に向けた素地を整えてきたという見方だと思います。

 ・長期PL推移

 長期の推移は以下の通りです。
 まずは、売上と粗利率の状況からです。売上はIPOの2014年から一貫して増収しており、その伸長率は規模拡大に伴い徐々に鈍化してくるはずなのですが、むしろ加速しているようにもみえます。粗利率は概ね11%台で安定しています。同社の売上原価構成は有報にもある通り、外注費が7割弱、労務費が2割ということで、変動費が7割弱、固定費が2割ということになりますが、もう少しわかりやすい図表は決算説明資料にも原価構成の説明があります。
 物流=燃料コスト上昇がネガティブという発想がありまして、これは正しいのですが、構成比からみるとそれより傭車費や外注費が大きいことになります。ですから一定の荷量が伴っていれば、利益率は案外安定しているという事なのだと思います。とはいえ、これらのコストも漸増傾向にあるわけなので、燃料費高騰や人材不足といったことをネタに顧客の理解を得ながら、単価交渉を重ねて適正な利益率マネジメントをされているということかと思います。

売上-粗利率推移
21/3期決算説明資料から抜粋
決算データより独自作成

 販管費についてもみておきます。
 売上の伸長が大きくなってきた19/3期辺りから販管費支出も増額されてきています。この頃、Amazonの荷受けの業務を開始し、センター開設やら人材体制面の強化を推進してきており、当然のコスト上昇です。とはいえ、売上伸長が大きいため、売上高販管費率が4%台で安定しており、これもある程度規律性をもって対応なされている事が窺えます。なお、販管費の費目としては、有報から主に人件費関連が大きいことがわかります。

決算データより独自作成
21/9期有報より抜粋

 同社は重要指標目標に経常利益を掲げているため、いつもは営業利益をみますが、経常利益をみておきたいと思います。ない営業外損益としては、受取利息・配当金の加算があり営業利益に対してやや積み増されますが影響は軽微です。
 経常利益率8%が目標とする経営目標として掲げられておりますが、現状としては、概ね7%前後で推移をしています。21/3期には京都大学等への寄付金の計上もあり、実はこの要素を除くと8%水準に手が届くなど個々の事情があるわけですが、同社は現在も超積極採用や各種センター新設を進めるなど投資も進めていることもあり、どちらかというとトップラインを伸長する方に重きを置いて経営されているかと思います。物流業界はどうしてもサプライチェーンのコスト部門と捉われがちな労働集約型ビジネスですし、労働力不足等の観点からも大きく利益率が伸びる要素に乏しいわけですが、それでもこの水準を確保しながら、積極投資を進めている点は優秀なのではないかと思います。

決算データより独自作成

 というわけで、純利益とEPS伸長もみておきます。同じトレンドですが、EPSはIPO後の8年で3倍程度となるでしょうか。株価は10倍をゆうに超えているので、その分高いPER評価がなされているということになりますね。

決算データより独自作成

 ・四半期PL推移

 次に四半期毎の状況もみておきます。売上と粗利率からですね。
 同社の業績はQ3偏重なのですが、22/3期はこの勢いが顕著になった上、それがQ4でも継続していますね。それからQ4で利益率は下がらなかったですね。QoQで見ると利益率が下がる傾向があるのですけどね。恐らく売上のQoQでの減少が小さかったのと、絶対額が大きかったことで、固定費分の吸収があったことによるものかなと思います。
 今後ホールディングス化していくとのことで、売上スキームも変わるので見通しづらくなりますが、現状持ち上がった売上レンジがどう推移していくのか注目ですね。

決算データより独自作成

 販管費は額面で大きく増えていますね。販管費率でコントロールされている印象です。前述の通り、人件費が多く占められているので、賞与等の支出もあったでしょう。少し前の記事でM&Aの件の取材記事でも、還元という部分はとても大事にされています。過去にも個人資産を社員へ給付する等していますからね。

決算データより独自作成

  経常利益推移です。閑散期であるQ4でも絶対額でもそれなりに利益積上げなされていますし、利益率も相応に販管費支出している割には6%程度を確保されていますね。

決算データより独自作成

 ・BSの状況

 次にバランスシートの推移をみておきましょう。ビジュアル的にみやすいので、マネックス証券さんが提供してくれている銘柄スカウターより抜粋します。
 企業の規模の拡大に伴い、総資産は更に大きくなっており、今後の設備投資の状況も踏まえて借入金の増加もあり固定負債が大きくなっています。また、新規取引先の拡大もあり、売掛金も増えているという状況です。このような情勢下で、自己資本比率は35%から34%に微減です。経営目標としては40%を掲げていますが、長期推移でみて頂けるように21/3期から攻めの姿勢もあり低下しているという状況です。

銘柄スカウターより抜粋
決算データより独自作成

 自己資本比率が低下していることもあり、念のため書くレシオもみておきます。流動比率/当座比率は100%超が一般的なに安全と言われる水準ですが、この観点で見ると特に問題はなさそうです。

決算データより独自作成

 固定比率が借入金増加に伴い増加しており、100%を超えています。とはいえ、そこまで異常な状況ではないですし、自己資本を踏まえた固定長期適合率では十分安全域とみる事が出来ます。

決算データより独自作成

 ・CF推移

 次にCF推移ですが、こちらも銘柄スカウターより抜粋します。

銘柄スカウターより抜粋

 21/3期に転換社債発行による資金手当てにより、手持ちキャッシュが潤沢な状況です。そもそも自社のキャッシュフローがきちんと出ていますね。22/3期としては投資キャッシュフローが50億超となっており、この主因はファイズ子会社化による資金投下となります。このため、フリーキャッシュフローが小さくなりました。それでも2018年のAmazon立ち上げの投資期にはマイナスになりましたが、プラスとなっています。

 ・配当

 配当についてもみておきます。21/3期は創業50年記念配当がありましたが、22/3期はこれを普通配当にして配当額を維持しています。そして、23/3期は配当性向40%として増配予想となっています。同社の配当政策は目標30%程度と定めていますが、一方で業界最高水準としています。そのような観点で40%とされていると思います。
 ですが、個人的にはもう少し配当を絞ってもいいのではないかと思います(もちろん頂けることはありがたいのですけどね)。配当19円維持で配当性向32%ですからこの程度に抑えて、その分、積極投資に向けて頂いた方がいいのかなと思います。

決算データより独自作成
決算データより独自作成

・今期業績見通し

 投資家にとって最も関心が深かろう今期業績予想についてですね。私もかつては、この数値が四季報予想と比べての強弱で一喜一憂していたものですが、今ではだいぶ関心も下がってしまいました(笑)。とはいえ、会社側が先行きをどう見ているかですね。びっくりの大幅増収増益見込みです。

決算短信より抜粋

 元々感覚的な話ですが、Amazonの配送については、ヤマト等の復権もあり、相対的に伸びが鈍化すると思っていたのですよね。そしてBCPの立ち上げ等利益率を落とす要素もあり、利益の伸びは更に落ちるのかなとも思っていました。ところが、利益もほぼ売上と同程度の伸長となっており、個人的にはびっくりしました。そしてそのコメントについてみようと思うわけですね。
 全然わかりません(笑)。色々厳しいんだけど、様々な施策を打つことにより成長するんだそうです。Amazonをはじめとした常温EC、スーパー等の低温物流、マツキヨなど医薬品物流、といった区分くらいで見立てが知りたいですね。この辺りは決算説明会の資料や動画で確認したいですね。

決算短信より抜粋

3.新中期経営計画

 新中計が開示されましたね。
 その前に前中計がどうだったかですね。定量部分として22/3期については以下の通りとなりました。

 ■19年5月開示
 売上:1,300億
 経常利益:100億(利益率7.7%)
 ROE:19.7%

 ■20年5月修正
 売上:1,150億
 経常利益:87億(利益率7.6%)
 ROE:19.7%

 ■実績
 売上:1,330億
 経常利益:91.4億(利益率6.9%)
 ROE:22.4%

 20年5月修正時にコロナ影響等を考慮した下方修正をしたのですが、売上は修正前の当初計画を超過してきたのですね。コロナ禍であっても物流のお仕事はシュリンクしませんでした、ということですね。一方、利益率は想定より下がりましたが、これは今後のBCPの本格投資や新たな体制強化を前倒しで進めている部分もあり、むしろ長期的には足元の素地を整えるという意味ではよい面もあるのではないかと思います。
 定性的な取り組みも含めた振り返りは、改めて説明会でご説明があるでしょうから、それを楽しみにしたいですね。

 これを踏まえて、今後の数値目標をみてみます。3年でざっくり倍増計画ですね。かなり強気で盛り込んだのだと思います。まずトップラインは23/3期の伸びが大きく一度落ち着いて更に25/3期で2割成長に復すという形ですね。利益は利益率目標8%を掲げつつ、投資期という事もあり現状維持がやっとということですね。

中計開示資料より抜粋

 25/3期には松伏に社運を賭けるような超大型センターの開設を控えています。これは同社としては初めて自己勘定で投資をする新たな取り組みです。ここには、最先端のAI技術を盛り込むと共に、海外留学生を多く引き受ける寮施設も備えたものとなります。自治体との連携を深めて町作りの一環で雇用を創るという意味合いもある事業です。当然、自動車専用道路の敷設が決定しており、交通の便も良い所となります。こういった投資を成していく中で、26年以降は償却負担も出てくるわけですが、ここに向けた研究開発や先行費用発生もあることから、そういった事も踏まえてこの利益水準を出していくということはそう簡単ではないと感じます。

北首都国道事務所から引用

 定性コメントとしては、既存領域やガバナンス対応の他、以下の項目は気になるところです。

中計開示資料より抜粋

 人材面は今後更に採用計画を強化するということでオールリクルーティング体制を敷いていますが、非常に重要な観点なのでしょうね。そして採用だけでなく、適正配置や離職防止という点も盛り込まれています。これまでは採用サイドに説明の重きが置かれてきましたが、規模の拡大やブレーンの拡充という点から、人材の多様性とその活用という点の重要性が増しているのだろうと思います。

 DX活用についても直近でもリリースが出ていましたが、昭和文化の体育会系ごり押しみたいな雰囲気からは想像できないような先進的な取り組みがなされています。東大等との産学連携を深めており、社員に大学に行って学ばせるみたいな活動を通して先進的な風を入れるようにしているようですからね。今後、生産性向上だけではなく、イノベーションが期待されます。

 資本効率の話がこの羅列で出てくるのは興味深いです。この成長性と投資効率を測定して配分の所は、具体的にどのような目線で配分していくのか興味深いですね。トレードオフの関係になる事もある中で、どういう目線を大事にされていくのか、この辺りはより深く共有したいところです。

4.さいごに

 とりあえず決算説明資料や説明会がこれから催されるため、それを通してもっと深い考察ができそうですが、現状開示資料から見て取れる部分としてまずは所感を整理してみました。
 和佐見社長は少年時代から苦労を重ねて、母のために丁稚で八百屋に従事することで、経営を学び今に至るわけですが、仏教の教えてを重んじ、人のご縁を大切にされています。私もいつも株主総会等でお会いできる時には楽しみで仕方ないんですよね。こういう会社が長きに渡り活躍される事を祈っています。
 頑張れ、丸和運輸機関!

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