東京タワーの悩み

真冬の夜、囲炉裏を囲みながらなめこ汁を飲んでいた。
向かいに座っている東京タワーは、大きすぎるからだを持て余しているのか、あるいは何か全く別のことを考えているのか、繰り返しお椀を持ち上げては囲炉裏の縁に置いていた。

手におさまるほどの小さいお椀の中で、十ほどのなめこの艶やかな頭が沈んだり浮かんだりしている。じっと彼らの頭を覗き込んでみると、そこには世界が広がっていた。

空っぽのお椀を持った男の子が、いつか彼が画面越しに見たふくよかな女の子とその子がたらふく食べていたフライドポテトのことを思い出している。
王様が、今日履いた靴下に毛玉が一つついていると怒っている。
王様の小さい猫が、暇そうに両ひげを震わしている。このひげが、今晩までに何ミリ伸びるか予想しながら。
企業の部長が、三ヶ月先の売上の予測と睨めっこしながら、どうやって売上目標を達成するか考えている。そして、カフェインが足りんな。と言いながら空いたカップを机にどんっと置く。

見たいとか、見たくないとか、そういうこちらの意志とは無関係に、艶やかななめこの頭に、世界がぷかぷかと浮かんでは消える。

僕は常々、音楽はレコードで聴きたいと思っているのだけれど。
東京タワーが口を開いた。いつの間にか、囲炉裏の縁にあったお椀は空っぽになっていた。

レコードで？

そう、ステレオ録音のレコードで聴きたい。
最近は、レコードではなくて、CDでもMDでもなくて。ポータブルな音楽が主流。それだけではなく、ワイヤーで繋がったイヤホンすらもなくなってただ耳元で音が流れる。

ああ、最近流行りの、たとえばAirPodsとかいわゆるワイヤレスイヤホンってやつですね。
でもなんでまたレコードで？

交換会だからだよ。
……個々人でどう受け取るかは変わると思うけれど、何かを得る際に、一つも失わずに得られることはないと思っている。

外は雪が振り始めていて、街灯が見えなくなるほど激しくなっていた。明日の飛行機は飛ぶのだろうか。私は無事帰宅できるのか。そんなことをぼんやり考えながら、私はなめこ汁をすすった。これも、交換会、なのかもしれない。

……先日の出来事を思い出しながら、私は自宅で目の前に流れるYouTubeのお笑いの動画を観ている。
画面の中では、2人の芸人が、「フライドポテト」、「AirPods」、「東京タワー」、「飛行機」、「なめこ」の5つの単語を使って即興漫才をせよ。というテーマで漫才を創っている。