からだからこころへアプローチ【臨床動作法】

■臨床動作法ってなに?

毎日の生活の中で嬉しい、楽しい、悲しい、緊張する・・・などさまざまな感情の経験があると思います。そのような体験をすると体にも変化が起こります。

たとえば、今日は、みんなの前で何かを発表する日!という人は、朝から緊張して、体は、

・肩が上がっている
・腕に力が入っている
・呼吸が浅い

などが起こっていることが考えられます。

このような状態のときに「緊張しないようにしよう」と頑張ってもなかなかその緊張は和らぎませんよね。

そこで心理学の中には、からだからこころへアプローチする方法も存在します。それが臨床動作法です。

臨床動作法とは?

動作を主たる道具とする心理臨床活動であり、治療セッションにおける動作体験を通して、クライエントの日常の生活体験のより望ましい変化を図る心理療法(成瀬,2,000)

と定義されています。

すこし分かりやすく説明すると、

臨床動作法では、動作がメインでまずはからだで感じていることをターゲットにします。

先ほどの例を挙げれば、

・緊張で肩が上がっている。

この場合の目標は、「リラックスして肩の緊張を緩めること」になるかもしれません。

そして、それが出来るようセラピストがサポートします。例えば、肩をゆっくり回す、肩をゆっくり開くなどを必要なところはお手伝いしながら一緒に行います。

つぎに、そのやりとりの中で体の変化とともに感じられる考えや感覚などの気づきを促したり、共有します。

例えば、

・なんだか体が温かくなってきたなぁ
・眠くなってきた
・こんなに体に力が入っていたんだなぁ

などの考えや感覚を得るかもしれません。

これらの過程でこころもからだも緩めていくことができるという方法です。

■臨床動作法の歴史とは?

臨床動作法には長い歴史があります。この方法を開発したのは、日本の臨床心理学者で医学博士でもある成瀬悟策(1924年6月5日- 2019年8月3日)先生です。

成瀬先生は、もともと催眠療法の研究や臨床を行っていました。その中であるとき、脳性マヒの青年の身体が催眠の暗示によって動くという体験します。

当時、もともと脳性マヒの手足の不自由さは脳障害のためと考えられていたのでもう手足は動かないと考えられていました。

しかし、そうではない結果が得られた経験から臨床動作法の研究が始まりました。

成瀬先生が、脳性マヒ児・者の行動を観察していると非常に強い筋肉の緊張が見られます。

しかし、寝ているときや何かに集中しているなど気を取られているときは普段は出来ないと思われているような体の動きが見られることがわかりました。

その中で脳性マヒの子どもたちは力が入らなくて手足を動かせないのではなくて、余計な力が入りすぎて思うように体を動かすことが出来ないのではないか?

という仮説を立て、肢体不自由は脳障害だけではなく、心理的な影響も大きいと考えました(成瀬,1998)。

そして、体を緩めるリラクセーションにより、手足を動かせるようになることだけでなく、正しい力の入れ方を身につけることが出来ればもっといろいろな体の動かし方をめざして技法を開発していきました。

今では、脳性マヒの人だけでなく、

・自閉症スペクトラム症
・心身症
・不適応状態に陥っている人

など、さまざまな人が対象にされています。

■臨床動作法の効果とは?

臨床動作法は、単にリラクセーション効果だけでなく様々な心理的効果をもたらすことがわかっています。なぜならば、1つの動作を通していろいろな体験をするからということが研究で実証されています。

武内 (2017)の研究では、大学生・大学院生132名を対象に動作法で得られる体験を検討しました。この研究では、

躯幹(くかん)捻り・・・胴体をひねること
肩上げ      ・・・肩をゆっくり上げ下げすること

以上の2種類どちらかの動作法を体験したあとに質問紙に回答します。

結果

体験した動作で得られる体験は7つあることがわかりました。

主体的動作感・・・自分で体を動かしているという感覚や自分の体であるという感覚を得る。

動作統制感・・・自分の動作感覚の統合感や動作のコントロール感を得る。
弛緩の実感・・・体が緩んでいる感覚を実感する、緊張が緩むのがわかる。
自己存在実感・・・動作を通じて自分の体である実感をしっかり得る。
安心安定感・・・心身の安静や深い安心感を得る。
動作協力感・・・自分の動作を援助する他者、寄り添ってくれる他者の存在を実感する。   
自己活動のモニタリング・・・自分の動作やこころの動きに注意を向けることができる。


これら臨床動作法で得られる体験を通して

・緊張が緩む

・こころがほっとする

・自分で問題を解決できる実感を得られる

などの効果につながるということです。


参考・引用文献

鶴光代(2007)臨床動作法への招待. 金剛出版
武内智弥. (2017). 動作法体験をモデル化する試み――学生との 1 セッションのデータから――. 心理学研究, 88-16336.
成瀬悟策. (1998). 催眠の科学と動作法. 人間情報学研究, 3, 3-22.
成瀬悟策. (2000). 臨床動作法の理論. 日本臨床動作学会 (編著) 臨床動作法の基礎と展開 コレール社, pp13, 30.


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