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1万字まで書いた話の続きが書けないのでとりあえず読んでみてほしい②

遠い昔、エミと星を見に行ったことがある。
僕らの地元は所謂田舎で家から少し自転車を走らせれば山や川といった自然と触れ合うことができた。エミはよく僕の家に預けられていた。
彼女の両親は共に忙しく働いていたが、エミが生まれたと同時に日本へ戻ってきた。この子は日本で育てたいという父親の強い願望を母親も尊重して日本に越してきた。日本に渡ってきても彼らの忙しさは変わらなかった。これほど田舎なのによく仕事があるなと思っていたが、彼らは毎朝5時頃には仕事に出ていたと後に知った。幼いエミをよく身内に預けていたらしいが、どうしようもない時は家族ぐるみで仲良くしていたウチで預かっていたようだ。
かあさんが「明日は咲理ちゃんがウチに来るって」というと僕は嬉しかった。エミは小さい頃から誰もが可愛いと言ったしいつも笑顔を絶やさない子どもだった。彼女がいると周りの大人は釣られて笑顔になったし場のトーンが上がったとでも言うべきか、とにかく明るい雰囲気になった。僕は彼女の笑顔も明るくなったその時間も好きだった。

かあさんがエミに「なんでそんなにいつもニコニコしているの?」と尋ねていたのを聞いたことがある。「だって私の名前は咲理って言うでしょ?パパはいつでも笑顔の子に育ちますように、って笑うって書いて笑理にしようとしたんだけど、ママが字が可愛くないからヤダって咲理にしたんだって!」と答えていた。彼女は聡明でもある。小学生に上がったばかりなのに自分の名前の由来をしっかりと大人に伝わるように話すことができた。かあさんは「そうなのねー、だからいつも笑顔なのね、偉いねすごいね!」と頭を2回ぽんぽんとし、余計に彼女を笑顔にさせた。
そんなエミも物悲しい顔を見せる時があった。いつも笑顔を振り撒いているが、やはりこの年頃に両親と一緒にいれないというのは不安であり悲しみの根源だったようだ。かあさんにエミが悲しそうだと相談すると、必ず外に連れて行ってくれた。美味しい物を食べようと洋食屋に連れて行ってくれたり、体を動かした方がいいとバッティングセンターに連れて行ったりしてくれた。自分の娘ではないが、家族に女が1人もいないウチだったので僕よりもエミを可愛がっているように見えた。僕は何だか悔しいと思ったが、かあさんが楽しそうな顔をしていて嬉しくもあった。
エミが寂しそうにした時は色んなところに連れて行ってくれたが、あの日は夜になって彼女がそんな顔をしたのでかあさんは困っていた。どうしよっかと一通り考えた後、かあさんは「あ!」と閃いたようで「星を見に行くよ!」と言った。エミの方を見たが、まだ寂しそうで晴れやかな顔になるには時間が掛かりそうだった。

年季の入った軽自動車に僕らは乗せられ、いつもより随分長い間かあさんは車を走らせた。エミは寂しい顔をしたままうとうとしていたが、僕はしっかり起きていた。この日も確かエミは右隣に座っていた。そして、横に見る彼女の顔は今よりも丸みを帯びているが今日と変わらず綺麗だった。
「かあさん、星なんて家の庭で見てもいいじゃん。」と不満気に言うと、意外そうな顔をして「あら、あんた起きてたの?うん、全然違うんだよ。」と答えてくれた。僕は田舎の空の星が綺麗なことを知っていた。空気も綺麗だし星の光を妨げる街灯も消されている物が多く夜はとても暗い。天気の良い日の空は無数の星が見えて名前も知らない星が沢山見える。流星群だって見たことがある。だから僕は家の庭で十分だと思った。そんなことを考えていると、瞼に重力を感じた。何度か抗ってみたが完全に瞼は閉じ知らぬ間に寝落ちていた。

「起きろー!」とエミとかあさんが交互に言っている。さっきまでエミもうとうとしてたじゃないか、と思いながらも彼女たちに起きたことをサインした。
辺りは真っ暗闇で車のライトがないと何も見えないのではないだろうか。そんなことを思い「ねぇ、かあさん。こんに暗いのにどうやってここまで来たの?」と聞いてみると、かあさんは「あんた達が寝ている間に月がビカビカに光ってね、光の道ができたの。それの上を走ってきたんだよ」と言った。今考えると嘘に決まっているのだが、当時はそんなことがあったのなら荷物置きと化していた助手席に座ってかあさんと喋りながら光の道をドライブしたかったと思った。
エミも「なにそれー、かあさんずるいね⁉︎」となんとも形容し難いニコニコ顔をこちらに向けた。幼いながらも僕はエミと同じ感情を共有できたことが嬉しく、寝ていて良かったと光の道の興味は薄れていった。
2人の会話を遮るようにして「こっからがメインよ。さぁ2人とも降りて!かあさんも久しぶりで楽しみなんだから」と早く車から降りるよう促された。どこで見たって星なんかいつもと同じで綺麗に見えるのに。

車から降りるとかあさんが「こっちへ来て」と車のエンジンを切る前に運転席の辺りに僕らを招いた。確かに辺りは真っ暗で少し怖さすら感じる。エミは僕よりももっと怖がってかあさんの手を握っている。かあさんは僕らに小さな懐中電灯を渡し僕らの間に入った。一旦、僕の側の手を離して車のエンジンを切った。車のライトは消え懐中電灯の2つの光だけが僕らのライフラインとなった。「ちょっとだけ歩くわよ」と僕らは手を繋ぎながら暫く歩いた。山の匂いと虫の鳴き声がして自分がなんとなく山や川の近くにいるんだろうとわかった。アスファルトを歩いていたはずがいつの間にか草や土の柔らかい感触の上を歩いていた。

「さ、この辺でいいかしら」とかあさんは言って立ち止まった。暗すぎて今手を繋いでいる人が本当にかあさんなのか心配になって左手に持った懐中電灯でかあさんの顔を照らした。照らされた顔はちゃんとかあさんで安心してついでにエミの顔も照らした。眩しいと目を半分閉じたまま顔で訴えかけてきたので足元を照らすようにした。僕はこれからこの2つの光が消えると思うと不安になったので、かあさんに掛け声のカウントダウンをお願いした。
「3、2、1、0!…で明かりを消してね」とかあさんがいうとエミは懐中電灯をOFFにして自分の周りだけ暗くなりあわあわと焦っていた。「騙されたー!」とエミがかあさんの顔を照らすと引っ掛けたことが嬉しいのかエミが可愛かったのかニヤニヤ笑っていた。僕はかあさんのこの手口を知っているのであえて僕の足元だけ照らしてエミがよりビックリするようにこのドッキリに加担していた。今度はちゃんとゼロで2人とも消すからねとかあさんが言った。
「3人でカウントダウンしよー!」とかあさんが言い、続けて「いくよ?」というので僕らは「おっけー」と言い「さんはい、3、2、1、0!」の声に合わせてカチッと2つの明かりを消した。僕の視界は一瞬真っ暗闇に包まれてとても恐怖を感じてしまった。かあさんと繋いだ右手にぐっと力を入れた。すると「あーきれー」とエミが言ったので真上を向いてみると空がビカビカに光っている。空の黒に一面中の星が輝いていてどれが一番星かも検討がつかない程になっている。「変わらないわーきれいねー」とかあさんが言うと「あれ?すごい!」とエミが言った。僕はエミが一番星でも見つけたのかと思って上をずっと眺めていたが、かあさんが「これね、ホタルっていうのよ」とエミに話した。僕はホタルがお尻が光る虫だと知っていた。下に目をやると緑とも黄色とも言えなすい幻想的な光が輝いていた。初めはそれが2、3匹いるだけの様に見えたが辺り一面に光は広がっていてその光のおかげで僕らは小川沿いにいることが認識できた。僕らの今いる場所は四方八方、上下左右どこを見ても光がビカビカと光っていた。
プラネタリウムのような宇宙のようなその空間では各々の光が「僕を見て、わたしを見て」と言わんばかりに主張していて、そのどれもが一番星の如く輝いていた。

想定外の星とホタルの輝きの綺麗さに呆気に取られてしまい、暫く黙って見続けていた。エミはうわーとかきれーとか仕切りに何かを言っていた。5分程経った時に「かあさんね、30年前にもここで同じ光景を見たのよ。すっごく綺麗だなと思って今まで一度足りとも忘れたことがないわ」なんとなく頷き相槌を取って話を聞いた。「今見ても本当に綺麗で凄いなーと思ったの。でもね」エミも黙って聞いている。「私にとってはあなたたち2人はこの星にもホタルにも負けない光よ。だからいつまでもずっと輝き続けてね」と続けた。僕は返す言葉が見つからず暗闇の中でうんうんと頷いていた。エミは「かあさんもね!」と返していた。あの頃から彼女はそういう人間だった。かあさんは「ありがとね!」と言い、繋いでいた両手を解き2人の頭をぽんぽんとした。真っ暗闇で何にも触れてない不安と頭をぽんぽんとされた嬉しさが混ざってなんとも言えない気持ちで満たされた。この景色、この感情をきっといつまでも忘れないだろうと僕は幼心にも感じた。

車への帰路も真っ暗の中2つの明かりに頼っていたが不思議と全く怖さを感じなかった。目を開けていても閉じていてもさっき見た光たちがビカビカと残像となって周りを明るく感じさせた。
車に乗り込み家に帰るまでの間、エミはずっとスゴカッタ!キレイダッタ!と僕らに訴えかけていた。一緒に見たはずなのに感動のあまり誰かに共有してもらいたかったんだと思う。良い映画を見た時のそれと似ている。僕は普段そんなにおしゃべりではないがその時ばかりはウン、スゴカッタ!ウンウン、キレイダッタ!とエミに続いた。
かあさんは帰路の道中にホタルについて沢山教えてくれた。ホタルはゲンジとヘイケの大きくわけて2ついて、さっき見たのはゲンジの方らしい。エミは「じゃあ戦うの?」と言ったが僕には何を言ってるのか訳がわからなかったし、かあさんは目を見開いて「そんなことも知っているの?でもね、かあさんそこまでは知らないの」と言った。またさっき見たホタルの群れは成虫と言って1週間から2週間くらいまでしか寿命がないこと、ビカビカと光っていたのは全部オスだということ、かあさんはホタルについて色んなことを教えてくれた。最後にホタルは日本でも東にいるものは4秒に一回、西にいるものは2秒に一回光ると教えてくれた。「なんでかは知らないけどね」とかあさんは言った。
僕もおんなじ生き物なのにととても不思議に感じた。エミは「じゃあ大阪のおっちゃんと一緒だね」と言った。大阪のおっちゃんは近くの駄菓子屋さんの店主のことだが、喋るにも歩くにも何をするにもせっかちで早い。たまにお金を渡してないのに毎度あり!なんて言っている。かあさんと僕は「たしかに!」と言いみんなでゲラゲラと笑った。エミのその一言を聞いて先程まで『東西蛍問題』について不思議に感じていたがなるほどと合点がいった。かあさんの豆知識というか蛍知識を沢山聞いていると帰りしなは行きしなの半分に思えた。エミは「かあさん凄いね!すぐ着いたし誰も寝てなかった!」と言い、ニコニコと笑っていた。家に着くと普段寝ている時間はとっくに超えていた。僕の瞼はまた重くなり小人でも掴まっているかのようだった。もう半目の状態で油断すれば寝てしまいそうだった。でも、家を出る時とは嘘の様にエミはかあさんと僕に笑顔を振る舞っているので少しでも長い間起きていたかった。

暫く我慢して起きていたが段々と夢と現実の間を行き来するようになった。エミは僕に向かって「今日も…しかったね!…ようね!」と何か言ってくれたがいつの間にか夢の世界に落ちていった。

-続く-

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