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優しさが蕾になって。


「やっぱり、おさかな返してあげればよかったねぇ…」


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2020年春。

未知のウイルスにより日本全域で
緊急事態宣言が発令。


この緊急事態下での産物は
息子と向き合う時間だった。
よくある、着眼点のようだが
自慢げには言えない内容だ。

お母さん歴4年。まだまだ未熟もの。


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都会から少し外れた郊外。
近所の川で遊んでいた。

「おさかなさん。いないねぇ。」

息子は、自分の背よりも長い虫取り網に
振り回されている。

いるかもわからない魚を探していると
1人の、おじいさんが近づいてきた。

遠目では、おじいさんかもわからないくらいに
シャンとしていて、イケメンな顔つきが
全て露わになったいた。

ドキドキしながらも
そっと、ソーシャルディスタンスをとりつつ
話を聞いていると
どうやら、この川、海老とハヤがいるらしい。

とり方と、育て方を楽しそうに教えてくれた。

「うちの孫と、よくとりに来てたんだよ」

(きっと、今は会えなくて寂しいのかもなぁ…)


早速実践してみると、すぐに4匹の海老と
ハヤが1匹とれた。

「ママーーー!とれたーーー!」

「おうち連れてかえりたい?」

「うん!」

小さな虫かごに入れて
餌について調べながら帰路についた。

「ねぇパパ。おさかなは、水槽でも飼えるかなぁ?
ちょっと狭い?きっと海老は、大丈夫だよね」

「そうだね。水が急に変わると死んじゃうから
川の水を多目に持って帰ってもいいかもね。」

「そっかぁ。可哀想だから、おさかなだけ返した方が良いかなあ。」

「育ててみないとわからないけど、連れてかえるのも、まぁ、ひとつ体験になるかもね。」

「そっか。じゃあ飼ってみよう。」

(ピコピコピコピコ)

かっくんは、後部座席で、どうやらゲームをしていた。


帰宅後、しっかりと、水槽に移し
お世話のしかたを
かっくんに教えると。
嬉しそうに眺めている。

(しばらく観察できそうだな)


------数日後

朝起きると、水槽から突然。
おさかなが消えた。

一晩の間の出来事だ。

(海老が食べたのか?さすがに残骸があるはず…)

(飛び出したかな?)

どこを探しても見つからない。
狐に包まれたような感覚だった。

どうしても見つからなくてその朝は諦めた。

かっくんは、不思議そうにしていた。


----そのまた翌日

「いたーーーーー!」

パパが、驚いて叫んだ。

掃除をしていたら
絨毯のしたに標本みたいにペタンコになった
おさかなが突然現れたのだ。

すぐそばにいたカックンは、
そのおさかなを、見てすぐに目を逸らした。

おさかなを、土に埋めて
ひと通り経った頃、ポツリと言った。

「やっぱり、おさかな返してあげればよかったねぇ…」



P.S
おさかなさん、安易に連れて帰ってごめんなさい。





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