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「米と味噌」地域のブランドを彩る食品と食材

「今日のご飯は何にする?」という言葉に対し、もっとも困る回答が「なんでもいい」という言葉だとよく耳にします。

なるほど。料理する、買い物に行く、または外食するにしても、目的が定まっていないということは大変困る話です。

それに、そういうことをいうやつに限って、いざ食事をすると「この味じゃないんだよなぁ」などと言い出したり。

しかし考えてみると、実際自分たちが食べている料理というものがどういったものなのか、きちんと把握している人はどれだけいるのでしょうか。

ダイエット中の人にとっては、その料理の脂質や糖分の数値が気になるでしょう。

アレルギーのある人はもちろん事前に食品のチェックが大切ですし、単純な好き嫌いで料理を選ぶ人もいます。


ですが、ほとんどの人が、普段当然の食べている料理・食材を「どこで作られたものなのか?」「誰が作ったものなのか?」など意識しないのではないでしょうか。

冗談なのか本当の話なのか、子供(といっても高校生くらいの子)の中には、アジの開きは開いたまま泳いでいると思っている子がいる、なんて話も聞きます。


その食材を作る農家や職人の方々がどのような方々なのか。そしてどのようなこだわりを持っていらっしゃるのか?

そういった背景を知れば、自分が口に運んでいる食品もまた変わった味わいになるはずです。


今回はHEARTBEATまるこ(以下HBM)のメンバーであり、米作りをしている依田さんと、その米を使ってこだわりの味噌を作る大桂商店の小林さんにお話をお伺いしました。



依田 昌幸
農家(米、アスパラガス、きゅうり)

米は栽培の仕方等で味の変化をつけるのが難しい作物ですが、土質で最も変化が見られると思っています。私の作付けする田んぼは自宅より東西南北に点在しており、土質も砂地から強粘土質まで様々。そこで食べ比べをして一番美味しいと思った地域の米を一般販売用にしております。更に食味が良くなるよう有機物(鶏糞)を播いたり、わらをローテーションで燃やして土質のバランスが崩れないようにしております。とにかく美味しい物を味わっていただきたい。その思いは強く持っております。

HEARTBEATまるこ 
https://heartbeat-maruko.com/member/yoda-masayuki/

小林 大史
株式会社大桂商店 代表取締役

味噌造りの原料は大豆・米・塩だけ。
創業は江戸時代の文政四年(1821年)。
厳選した原料を手間を惜しまず仕込む。
信州の四季により自然に熟成されたお味噌は、
味はもちろん香りも違います。

株式会社大桂商店 公式HPより
https://www.daikeimiso.com/

お二人は小中学校の同級生であり、元々は今とは別の内容のお仕事をされていました。
そして今はそれぞれ家業を継ぎ、HBMの縁でお仕事をするようになったそうです。

米という「食材」と味噌という「食品」。
同じ地域に住まう生産者のお二方はものづくりに対してどのような考えをお持ちなのでしょうか。


小林さんへお尋ねします。奏龍の会について簡単にご説明いただけますでしょうか。

「地元の物を組み込んだ、自信を持って勧められるお土産が欲しい」

小林 
奏龍っていう名前は信州銘醸(武石地域の酒米で作った酒)の銘柄で、そのお披露目会のときに柿嶌さん(※参考1)と出会ったんだよね。

その時「つぶほまれ」という通常の豆より大きな品種の豆を使って、味噌をつくれるか相談を受けて。

最初はちょっとずつ始めていって、豆をまいてから作るまでには3年かかったかな。


うちは元々スーパーとかに商品を卸す店じゃないから、まずは飲食店とコラボして、そこでラーメン屋6件とコラボしていって。

人気が出てきて十数件以上に増えてきて、こんなに良い企画ならと、長野県の元気づくり支援金に申請したんだよね。

支援金をもらうのとなると、もう少し広い範囲で企画を考える必要が出てきて、甘めの味噌を使ってお菓子屋とコラボしたり、通常の料理屋でスタンプラリーなどをやっていきました。

そうやっていろんな人と関わる中で、もっと互いに話して意見交換が図れる場として「奏龍の会」ができたわけです。


こういう会を作った意味として、作っている人の顔が見える(消費者に伝えられる)し、
地産地消ならぬ地産適消(地域の食材を東京などの都会に卸す)で盛り上げることができると考えました。

地域の料理屋に自分の味噌を使ってもらえたのはやっぱり嬉しいし、
地元の素材を利用して地元の店舗で製造した、ここでしか作れないお土産があるといいと思いましたね。

※1地域おこしのススメ! 地域と人と全国と(前編) 参照 https://note.com/maruko_heartbeat/n/n2959d6ac8b13

依田さんへお尋ねします。現在お仕事で農業をされておりますが、農家を始めようと思った経緯をお伺いしてもよろしいですか

「農業は嫌いでした」

依田 
うちは元々祖父が農家で、子供のころから見てたんだけどすっごい嫌いで(笑)。
ずっとやりたくないと思ってて、一般の車の整備会社に就職したんですよね。

ただその仕事の中でも年数がたつと扱う職種が変わってきて、正直そこまでやりたい仕事じゃなくなってきて、気晴らしがてら、農家の仕事も手伝い始めたら、気づけば朝の仕事もやるようになって。

趣味程度だったのがいつの間にか本格化してきて、その商品をあさつゆ(直売所)へ商品をだすようになりました。

そしたら、徐々に楽しくなってきて「本職にしてもいいか」と考え始めたんです。

農業は若手が少ないですし、チャンスもあると思いました。


Q.お仕事しながらの農作業は大変なのでは?


依田:はっきりいってやれるものじゃないよね。仕事の会議の途中でがっつり寝ちゃったりして。確実に体力不足でしたから(笑)
そこで、何を勘違いしたか農業でもやっていけると思ったんです。

小林:それは大事な勘違いだったね(笑)


(筆者コメント)
それぞれご自分の家業を継がれたお二人でしたが、その経緯や活動の形は当然異なります。

やってみて気が付くこともあれば、周囲の意見を聞いて成長することもあり、そこには「ものを作る」楽しさがあるように感じますね。

原材料となるお米を作る依田さんと、その米を使って味噌をつくる小林さん。

そんな味噌作りについて、作業の行程やなぜ米が必要なのかを、初心者の私にも分かりやすく小林さんが教えてくださいました。


味噌を醸す際に「HEARTBEATまるこ」のお米を利用していただいているとお伺いいたしました。その作業内容や使用する理由などを簡単にお伺いしてもよろしいですか。


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小林
余りに近すぎて意外とみんな知らないと思うんだけど、そもそも味噌は大豆を蒸したものと麹を合わせて発酵させたもののことをいいいます。
で、この麹は何らかの食物に麹菌を繁殖させて作るわけですね。
ちなみにですがこの麹菌は国に定められた「国菌」だったりします。

そのため、米を使った麹は米麹になるわけです。この麹はそれ単体だと別に旨いものじゃないんだけど、そこから温度をかけると甘酒になったり、いろんな加工をして他の食物に変わることになります。

麹の酵素の力ででんぷんを分解して甘味を引き出すんですね。アミノ酸をつくる酵素のアミラーゼとかプロテアーゼとか…専門的な言葉を使うとプロっぽいよね(笑)

小林
つまりよい商品を作るならば、第一段階としてこの麹が良いものじゃないといけないわけです。

ちなみに味噌に使われる麹の種類によって、味は当然だけど、味噌の色合いなどが変わります。
例えば豆が原料として多くなれば、八丁味噌やたまり醤油といった、旨味と癖が強いフルボディな味わいになるわけですね。

ものすごく簡単に言えば、麹菌に米を食わせて育てる作業が米麹作りになります。

小林:そのため、HBM(依田さん)のお米は味噌を作る際の麹として利用しているわけです。実際依田くんと絡んだのは、その時が初めてだったんじゃないかな。
依田:多分そうだね。地元に戻ってたのは知ってたけど絡みはなかったし。非常に大量のお米を卸させてもらってます。
小林:味噌は豆の出来と、米麹の出来が重要で(米自体の美味しさはむしろ要らない)、できれば地産の、そして知っている人から扱いたいと思ったわけですね。

Q.それらの味噌は丸子内の保育園の給食で使用されているとお伺いいたしました。

小林:丸子の給食センターで利用されているから、そこを利用している小学校はほぼ使ってるんじゃないかな?
依田:そうだね。けっこう多いと思う。
小林:塩田の大豆と丸子の米を別所で食べられている。地産地消としては完璧だよね。
依田:ただ作っただけで終わらず、それをだれが食べているのか分かるのが嬉しいよね。そういう話を聞くと責任感が湧いてくるし。


(筆者コメント)
正直実際に語っていただいた内容から3分の1ほどに削ってまとめたのですが、物凄く濃い内容のお話をお伺いできました。
今までなんとなく「発酵食品」くらいの知識しかなかった味噌に、なぜ赤や白等の色があるのか。そもそも「麹」ってなんぞや、という初歩的すぎる質問から丁寧にご説明いただき物凄く勉強になりました。
明日からどや顔で友人に話すと思います。

そうやって作り出された味噌が、自分たちの地域の給食で使用されている。
つまり食品として「信頼できるもの」「子供に食べさせていいもの」として認められるのは本当にすごいことです。



今後の展望や、やってみたいことなどはありますか?

依田そもそも自分の米がここ(大桂商店)で扱われていること自体が嬉しかったからその先の展望まであんまり考えてないけど(笑)でもやっぱり、生産者として自分の名前が出るのはすごく誇らしいと思っています。農家ってやっぱり影の存在というか、作り手がフォーカスされることはないので。

小林
俺としては、その畑や商品をどうブランディングしていくかが必要だと思うな。もっといろんなところで売れると思うから。

良い商品を作るのはもちろんだけど、それをいかに良く見せるか。そうすると他の商品も売れてくるよ。

依田 
地産地消というほどじゃないんですけど、今まで、お米はお米として食べて欲しいと思っていました。例えば自分の米を利用した米粉なんて、別に評価してほしいとは思わなかったんです。

ただいろいろな活動を通じて、今は「どこで誰が食べているか」を意識するようになりました。

自分のお米が誰に食べてもらえているかが直感的に分かる、地元で食べてもらえるつながりを大事にしたいですね。

小林
自分の店を知らない人はまだまだ多いです。本物を目指していく中で、何が本物かと聞かれたとき言い訳したくないと思ってます。

地元はもちろんなんですが、首都圏の「違いが分かる料理人」を唸らせたいですね。ただ目と耳で仕入れた情報を鵜呑みにする人ではなく、ちゃんと食べてもらった上で評価してもらう。

味噌は調味料なので人それぞれ好みが分かれますが、だからこそ本職の料理人の方に判断してもらいたいと思います。

漫然と食事をするのではなく、舌や鼻で味を判断していただける人に響かせたいと思っています。



(まとめ)
それぞれ地元がベースにあるけれど、取り組む形や目指すところは異なるお二人。
その二人が協力して一つの食品を作り、地域で食されている。

ただ漫然と食事をするだけでなく、なぜ美味しいのか、なぜこの食材でなければいけないのか。
難しく考えすぎる必要はありませんが、理解できるときっとより魅力的な味わいになるでしょう。

地域の中で育まれた経験や商品が、もっと多くの方へ届くといいですね。


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