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『幸せ』についての授業2

 もう一つ。私が授業を行うことには欲張った目的が他にもある。それは 望まない妊娠で退学する生徒が毎年出てしまう現状に歯止めをかけたいという願いだ。広義の性教育だともいえるこんな指導を、こんなジジィが教えるのは適切じゃないのかもしれない。しかし毎年助産師に来てもらって 妊娠や中絶手術の弊害について 話してもらうのだが、その手の方々がする話は一言で表すなら なまっちょろい。愛や命などというものを教えるために使う言葉の中に、尊さ、感謝、敬意などという美辞麗句が多過ぎてうるさいのである。そんなパステルカラーの話で望まない妊娠が防げるのだろうか? 妊娠する仕組みを知れば中絶は減るだろうか? 答えはNOだろう。

 私は決して未婚での妊娠、出産そのものをタブー視するものではない。そんな古典的な価値観による是非の判断ではなく、もしその事実がわかった時に2人が喜べるなら祝福すべき話ではないか。しかし現実には在学中に女子生徒が妊娠した時、経験した中では 残念ながら当事者の2人が喜んでその事実を受け入れることはない。大抵は親に対し、学校に対し、また場合によっては子供の父親に対してさえ言い出せずに『どうしよう・・・』と涙の夜を過ごし、迷った挙句に打ち明けるというプロセスをたどるのである。

 新しい命ができたことがわかった時には、喜びをもってその事実を周囲に公表できる方がいいではないか。だからこそ若気の至りやその場の勢いに飲まれてしまって、後で『どうしよう・・・』とはならないように十分注意させるべく、男子生徒には『アホなクズ男じゃアカンぞ!』と、女子生徒には『最後の砦は女やぞ!』と、強調する。

 と、こんなことを年に一度、新入生に話す。校長先生がこんな話をするとは思っていない生徒ばかりだから、終了後の感想のレポートは『驚いた』とか『こんなのは初めてだった』という感想に混じって、『泣きそうになった』と書いてくれる生徒もいて、誠に面白く やってよかったと毎年思う。


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