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タンが無ければハラミを食べればいいじゃない!

 ご存知マリーアントワネットの言葉とされる『パンが無ければケーキ(お菓子)を食べればいいじゃない!』は、実際のところは全くの濡れ衣なのだが、あのお高くとまった女ならそんなことも言いそうだってことで、あのお姫様は洋の東西を問わず血祭りにされている。しかし最後はギロチンなんだもん、怖かっただろうなぁと思う。冤罪に陥れられた理不尽な事実もあったし、私は間違いなく彼女の擁護派だ。

 我が故郷、五島列島(上五島 中通島)では、私が子供の頃は四つ足の動物の肉は食べなかったから、肉屋というものは存在していたが、売っていたものは鯨肉と鶏肉のみだった。新鮮この上ない海産物は日常の中に溢れていたが、こと畜肉類に関しては江戸時代からそんなに変わっていない状況だったと思う。だからだろうか、今でも焼肉(特に脂の多い部位や内臓脂肪たっぷりのホルモン)を食べると、ほぼ1時間以内に toilet express ートイレットエクスプレスー になる。

 そんなこともあって 寿司や天麩羅と並んでご馳走の代名詞である焼肉だが、他の人と比べて私は嬉しいとか有難いとかといった感情を持っておらず、残念ながらそれはご馳走ではない。

 今や竹島問題は問題ではなく、金嬉老の立てこもり事件の経緯など知らぬであろう若い女性で溢れる生野のコリアンタウンだが(彼女たちにとってはBTSをはじめとする 歌って踊れる韓国発の男女アイドルやコスメなんかは憧れの的であり、それらこそが『カッコいい国=韓国』だと思っているのだろう)、ほんの10年頃前までは 肉屋には牛の脳みそや 見たことも聞いたこともないような牛の各部位のホルモンがところ狭しと並んでいたものだ。

 そんなコリアンタウンにまだアイドルやコスメの店が全くなかった時代、ある肉屋に一際目を引く物体がのガラスケースの中で売られているのを見つけ、店の人に『これは何だ?』と聞いたことがある。何とも奇妙な形の黒ぶちのそのかたまりはタンだった。牛の舌である。続けて『へぇ!すごい色やな〜!』と言う私に、その人は『皮ひいてないからね』と教えてくれた。タンに皮があることを初めて知った、まだ若い無知な私だった。
 タンは 腹の弱い私でも塩こしょうとネギを乗せ、レモンで食べるヤツはサッパリと美味しいと感じる。

 ある日のこと。私たちは何度か行ったことのある焼肉屋を訪れたのだが、その日大量に頼んだ人がいたのか 仕入れの量が足りなかったのか、タンを頼んだ私に 店員からは『今日は品切れになってまして・・・』と冷たい返答が帰ってきたのだった。私にとっては面白くない状況である。冷麺とわかめスープだけというわけにもいかず、あ〜あ・・・となった私にとっては、気を取り直して脂の少ないミノなどのホルモンを食べればいい話なのかもしれないが、その日私はタンの口だった。肉の食感を欲していたのだ。そんなことを聞いた向かいの知人が発した答えが標題の言葉だったのである。なんでもその男いわく、ハラミは牛の横隔膜であり要するにホルモンなので、普通の肉よりハラには来ないはずだと(当然こんな論理は破綻しているw)。

 こんな言葉にまんまとノセられ、美味い美味いと何人前も平らげた私は、案の定この後、お決まりの toilet expressになったのはいうまでもない。

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