電車に乗り遅れたことを肯定してみた


発車のベルが鳴って、駆け込めなかった電車の扉が閉まった。
混雑した車内の人と目が合う、くもった扉のガラス越し。

発車していく電車を見送りながら、大切なものを逃したような、人より大きく遅れをとったような気分になる。
ちょっとしたことで馬鹿みたいに落ち込んでしまう。

ついでに、今日仕事で言われた嫌味とか、友達との些細な鼻に付く言葉を思い出したりして、苦虫を潰すような顔で、去っていった電車の方を睨む。

でも、そうしている間に時間は着実に進む。

前の列車のことなんて、気にもしないようなスピードで、次の列車が、ホームに入ってきて、思わず僕は笑顔になる。

その電車に乗って、空いた席に座る。
窓に、確かに映る僕の姿と、さっき乗り損ねた電車の残像が重なり、追い抜いていく。

落ち込む時間が無駄になるわけじゃない。
思った通りにいかないことが、うまくいかないわけじゃない。

きっと、どんなに心が折れても、次来た電車に乗り込むことを、かすかな期待をわたしたちはやめない。


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