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読解力を育むか、育まないか。それが問題だ。

こんにちは。ホリトモカです。漫画を描いたりお話を考えたりすることが好きな田舎の書店員です。

例のアレのせいでステイホームを強いられるようになって約1年。書店でも大きな変化がありました。

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みんなめっちゃ本読むやん!!!!!!!!!!

電子書籍の普及で紙の本の需要はなくなりつつあるとは誰が言ったのでしょうか。連日大盛況。一人あたりの購入冊数もかなり多く感じます。

更にびっくりしたのがメディアミックスした作品の原作本の売上増。
小説原作の実写ドラマ化も漫画原作のアニメ化も「普段に比べればよく売れるようになる」程度だった今までとは違い、先にTVやネットで作品にハマったファンたちが嬉々として全巻まとめ買いしていきます。

みんな日々の生活に精一杯で時間の余裕がなかっただけで、本を読む文化自体は娯楽として消えてなかったんだな、とホッとする今日この頃です。

書店の大盛況を支えているのがみなさんご存知のコミック「鬼滅の刃」。もはや国民的漫画のひとつになった作品です。この冬からは「呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)」(これも同じく少年ジャンプの漫画)も“第二の鬼滅”と呼ばれ、売り上げをゴリゴリ伸ばしています。集英社儲かってる~!

鬼滅の刃が爆発的に流行った理由は諸説ありますが、私は「大人が熱狂するものになっていた“漫画・アニメ”という娯楽が、再び子供が熱狂する娯楽として帰ってきたから」説を支持しています。実際に子供たちは「鬼滅の刃ごっこ」と称してチャンバラごっこをしたり、お気に入りのキャラクターのグッズをお小遣いで買ったり、実に“オタ充”しているように見えるからです。

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子供が好きになるものは、大人の心もつかめると思います。これだけたくさんの人が愛しているのは、『子供たちの受け入れ→大人たちも高評価大絶賛→そんなに絶賛するなら…とアニメ見ない層がお試ししてみる』という流れがあったからではないでしょうか。

そして、ここからが本題です。

分母が大きくなった作品にはさまざまなファンがつきます。みんなで作品のすばらしさを分かち合うことを幸せとする人がいれば、独占し尽くして高額で転売して自分の利益にしようと企む人もいます。
一人で数十冊単位で同じ巻を買おうとする人が現れ始めたため、うちの書店では人気作品の陳列場には張り紙をして注意喚起をしました。

「人気作につき希少 お一人様 各巻1冊まで」

これである程度混乱は防げるぞ…よしよし。

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この1年くらいずっとこんな感じで個性豊かな人たちがやってきては説明して、大抵クレームになって、落ち込んでの繰り返し。「ああいう人にはきっといつかバチがあたるよ!」なんてスタッフ同士で励ましあってはため息つく日々。
私にとって常識なことでも、別の人にはまったくの非常識なことがある。じゃあどうしたら、なにをしたらある程度同じ価値観を共有できるのだろうか…。
思い出した。小学生のころ。国語のテスト用紙に「めあて」としてよく書いてあった。

『読解力』……これめっちゃ大事じゃね?

「読解力」でググってみるとどうやらこの言葉にはいろいろな意味合いがあるが、「効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力(三省堂 『読解力とは何か』)」という一文にこれだ!と思った。小、中学生のころ〝他人とは違う変な人間〟になりたい私は、国語のテストで言葉の裏をかくようなことにばかり気を集中させ、結果散々な点数でも「先生には私の答えがわからなかったようね。大多数の人がそう思っても、私はそうは思わない!」と超上から目線で内心吠えていたし、道徳の授業であえて多数派の意見に反する発言をして注目をうけるのが爽快でたまらなかった。

画像6クレームをつける人のなかにはこんな考えの元で行動してる人もいるのかな?(知らんけど)

自分は人と違うと信じて行動に移せるのは才能だと今でも思うし伸ばしていくべき部分なのだけれど、それと同時に相手の意見を理解して汲み取った行動をとる能力も育むべきなんだなぁ…と今更思う。今更手遅れ…なんてことは思いたくない。


近年、書店で働いていて感じる人気の出る物語の傾向は〝すべてが最初から説明されていてオチまで大体想像つく安泰な作品〟。Twitter漫画と呼ばれる1ページ完結漫画は日課に組み込みやすくクスリとできるし、異世界転生系小説が「お約束展開」「安心・安定」または「快進撃」なことで日々の面倒くさい社会との関わりを忘れてスカッとできる存在になっているのだろう。
こういった作品の流行は現役サラリーマン世代の現実社会での生きづらさや忙しさ(異世界転生系は主人公が現世ではブラック企業勤めの中年男・女だった、という設定が多い)がもたらしていると思う。
だとしたら、例のアレで在宅ワークが増え、時間的にも精神的にも余裕ができた今の時代は、「意外な展開」「複雑な舞台設定」のような読解力が必要な作品が流行るのではないだろうか。ちょっと期待している。

いずれにせよ受け取り手がいかに作り手側に歩み寄ろうとするのかがこの社会で生きるための肝になってくるのだろう。

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ではまた!

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