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自分にあった人生モデルを選ぶべし6(相転移をセルフコンサルティングする)

自分に与えられた時間が増える! この長寿化の恩恵を受けるため、人生100年のロードマップとなる「人生モデル」を紹介しています。

今回紹介するのは、平井孝志さんの著書『人生は図で考える』で示された人生モデルです。コンサルタントから大学教授に転身した経歴と重ねて、2ステージ型の人生モデルを提唱しています。

特徴は、前半生から後半生への転換を「相転移」と呼んで、高い解像度で人生の転換期にフォーカスしたことです。
そして、「セルフコンサルティング」、つまり人生という舞台で自分をコンサルティングするため、経営手法を駆使していることです。

幅広く40代~60代にとっての良い指南書になると思います。そこに示されている生き方は、単なる経験知ではなく、スキル(技能)というべきもので、誰にでも応用できる一般性があります。


相転移とは

「相転移」とは、水が氷に変わるように、ある系の相が別の相へ変わる現象です。H2Oという「系」は変わらないが、「相」が変わる。
人生の相転移とは、前半生から後半生へ転換する際に、「相」がかわるほどの変容があるということです。平井さんは、前・後半生を以下の様に説明します。

 前半生=人生を構成していく時間
 後半生=人生を統合し、味わう時間

前半生は、人生を構成する仕事、結婚、趣味などを形作る時間ですが、後半生はそれらを突き詰めるのではなく、人生の構成要素を統合することで、創発する人生を味わう時間だといいます。

人は生まれて死んでいくわけで、どこかで潮目が変わります。
五木寛之さんは、人生を山行に例えながら、それを登りと下りと表現しましたが、平井さんは「相転移」といいます。
いずれにせよ、潮目が変わることに抗わず、相転移を受け入れ、後半生をいかに幸福に生きるかが問われています。

マインドセットを丸ごと転換

「相転移」が突然、目の前に現れることがあります。病気や、定年、子どもの独立といった場面がそれですが、それをスムーズに受け入れられる人は少ないと思います。最悪の場合、中年クライシスに陥ることもあります。

こうした事態を避けるためにも、平井さんは自分から相転移を呼び込み、むしろ相転移を作り出していくことを提案します。

それには、まず自分の思考を転換させる必要がありますが、そのため平井さんは『人生は図で考える』で21にもおよぶ思考法を紹介しています。
前半生の延長線で後半生を考えることなく、マインドセット(思考群)を丸ごと転換することを促しています。

自分自身の再定義/相の転換

まず、自分自身を定義する必要があります。
後半生ではどんな輝かしい肩書きを持つ人も、大きな組織に属していた人も、一端そこから解放されて自由になり、個人として立つことになります。

そこで改めて、自分の周りを見渡してみます。そこでの他人との関係が現時点での社会との接点です。
それをコミュニティと呼ぶと、家族や新しい趣味仲間などコミュニティは人それぞれですが、そこでの関係こそが自分自身、自分のオリジンといえます。

その上で、「相(フェーズ)」の転換を促す必要があります。
そこで登場するのが「フェーズ思考」。例えば、前半生の価値軸が「お金」であれば、「お金以外」の価値軸を設け、行動のベクトルを新しい軸方向に90度ズラすことで、相(フェーズ)の転換を促します。
そして、その新たなベクトルの先には、自分にとって価値ある何かが待っています。

能動的な行動で自分らしさが生まれる

ただし、仮にそうした行動ベクトルを選択できたとして、それが本当に自分にとって意味あるものか不安がつきまといます。

そこで、「センスメーキング思考」を用います。これは、行動することで周りに働きかけ、その行動自体を能動的に意味づけしていく手法です。
”能動的”というところがポイントで、意味は誰かから与えられるものではなく、周りとの相互作用によって作り出すものだと考えます。行動こそが人生の意味付けの最短経路になるということです。

こう考えると「自分らしさ」の捉え方も変わってきます。
どこかに本当の自分が眠っているわけではなく、自分らしさは「経路依存性」にあるといいます。自分が歩んできた唯一無二の経験の道(=経路)こそが「自分らしさ」を形作ると考えます。
これは、相転移における「系」の一貫性、つまり変えることの出来ない自分であり、「自分らしさ」の本質ともいえるものです。

これまで生きてきたことの全てが「自分らしさ」であれば、自分らしく行動するには、それを巧く棚卸しすればよいことになります。その手法が「パーソナルアンカー思考」で、自分の強みや興味の根幹といった「自分資産」を棚卸する手法です。
この自分資産をもとに、自分らしさ(個性)や、さらに自分は「本当はどうありたいのか」を明らかにして、行動を起こしていきます。

後半生は「やりたい亊」に資源を集中

自己資産というのは経営の考え方。資産を見極め、有効活用するのが経営の基本です。
これを人生に当てはめていくわけですが、経験や知識といった自己資産の他に「時間」という重要な資産を忘れてはいけません。

年寄りには主観的な年月の長さがより短く感じられるという「ジャネの法則」があります。これには少し異論があるところですが、いずれにせよ後半生では、希少な時間を巧く配分、運用することが求められます(「ストラテジー思考」)。

前半生では、好むと好まざるとに関わらず、「やるべき亊」で時間が埋められていました。それに対して後半生は本当に「やりたい亊」にできるだけ時間配分する必要があります。
そして、「やりたい亊」を通じて、身近なコミュニティからの承認を得られた時、最も幸福で、意味のある自己実現になるといいます。

トレード・オンで賢い選択を

しかし、「やるべき亊」と「やりたい亊」は、二律背反のトレード・オフの関係になりがちです。
やるべき亊を「生活基盤を守ること」、やりたい亊を「起業すること」に置き換えてみます。起業しても多くが失敗する現実を考えると、起業で生活基盤を守ることは難しく、両者は、どちらを立ててればどちらが立たずのトレード・オフの関係です。

行動とは、選択することです。よく経営では「やらないことを決める」ことが重要といわれますが、これも二律背反のトレード・オフが前提にあります。

しかし、後半生は「トレード・オン思考」で、トレード・オフを超えた両立を目指すことが重要だといいます。「やりたい亊」を諦めることなく、もう一度、その対立項そのものを見直してみようというのです。

その際、ゴール地点から「バックキャスティング」して眺めなおすとよいといいます。
上のケースでは、起業が一つのゴールになっていますが、究極のゴールが人生の充実ということなら、起業にこだわることはありません。選択肢を入れ換え、対立を両立に変え、好い加減の選択をしていいことです。

他にも、『人生は図で考える』は、行動計画を立てるというくだりで、「偶発」や「創発」を取り入れるという柔軟な姿勢を促している点などに関心します。
計画しても巧くいくことは稀。それであれば積極的に偶然を取り入れようというもので、これを「ダイナミック・ケーパビリティ」を用いて説明します。環境変化に臨機応変に対応し、計画外の偶然を排除せず取り込むことで、思わぬ形で創発が起こると。

自分の物語を生きる

このように『人生は図で考える』は、後半生を生きるためのセルフコンサルティングの本です。

後半生は、前半生とはまったく異なる価値観へと変質します。まず、そのことに気づくことができるか。
そして、その過程では、新旧の価値観が激突します。そこを突破することができるか。
後半生のテーマは自分らしさですが、それは能動的に行動することが前提。本当に自分は能動的に行動できるか。

こうした後半生での困難な場面で、活用できる思考法が『人生は図で考える』には、並べられています。
自分の物語を旅する後半生には、こうした知恵をガイドにしていきたいものですし、その知恵を自分なりに膨らませてみたいと思います。

(丸田一葉)

参考)
『人生は図で考える 後半生の時間を最大化する思考法』平井孝志、朝日新聞出版、2022年


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