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自分にあった人生モデルを選ぶべし7(LIFE SHIFTが提案するマルチステージ)

ギフトとして贈られる100年の時間! 長寿化の恩恵を受けるため、人生の新たなロードマップとなる「人生モデル」を紹介しています。

『LIFE SHIFT』は、人生100年時代に関する世界のベストセラーです。
教育→仕事→引退という3ステージ型の人生モデルが限界にあるという現状認識は他の人生モデルと同じですが、「人生100年時代の人生戦略」を謳い、有形・無形の資産を管理しながら変身を続けていく「マルチステージ」というユニークな人生モデルを提案しています。


3ステージ型の限界

長寿化によって引退後、仕事をしない期間が伸び、経済的な収支が合わなくなります。支出を減らすには無理があり、年金の支給額は減っていきます。

そこで、仕事を続けて、収入を得られる期間を伸ばすことが現実的な解になります。しかし現在、シニアの労働環境は十分とはいえません。
また、心身の健康の問題も生じます。20歳から80歳まで60年間、サパティカルもなく、柔軟な働き方もせず、働き続けることには無理があります。
さらに、満足できる仕事を長く続けようと思えば、どこかのタイミングでリカレントやリスキリング(学び直し)に大胆な投資を行う必要もあります。

このように、これまでの3ステージ型の人生モデルで、この長寿化を乗り切ろうとすると多くの問題に直面します。まして、与えられた時間を使って胸躍る経験をするまでに至りません。

マルチステージ型人生モデル

そこで、提案されたのが「マルチステージ」という人生モデルです。
マルチステージは、数年~10年単位で、複数の「ステージ」を渡り歩きキャリアを積み重ねるというものです。

新たに提案された一つ一つのステージもユニークです。
「ポートフォリオ・ワーカー」は、複数の活動を金銭的、精神的なバランスをとって行うもので、兼業とは異なる復業という考え方です。
また、「インディペンデント・プロデューサー」も、これまでの起業家と異なり、ビジネス規模の小さい事業も含まれていて、むしろ独立して働くことで多くを学習しキャリア形成することが意図されています。
そして、「エクスプローラー」は、新しい世界と経験を通じて自己を探求する新たなステージです。

このように、あまり聞き慣れない複数のステージが用意されましたが、すべての人が、すべてのステージを経験するわけではありません。
また、ステージと年齢は一致しません。これまでとは異なり、様々な年齢階層の人が同じステージに混じり合うという面白さもでてきます。

エクスプローラー(探索者):自分を日常生活・行動から切り離し世界を巡り、自分の好きと得意を発見するステージ。るつぼの様に人間性を形作る経験をする。
インディペンデント・プロデューサー(独立生産者):自分の職を生み出すステージ。事業を売却し成功することより、ビジネスの活動自体が目的であることが多い。
ポートフォリオ・ワーカー:異なる種類の活動を同時に行うステージ。頭の働かせ方と仕事の仕方を状況ごとに柔軟に切り替えるスキルが求められる。


無形資産を貯める・使う

ステージをわたり歩き「変身」するマルチステージ型の人生モデルでは、人生のマネジメントは、他でもない自分自身で行わねばなりません。
その際、そこに経営的な視点を入れるのが『LIFE SHIFT』流で、常に自分が持つ資産に注目し、資産管理を行います。

資産といっても、貯蓄や不動産といった有形資産だけでなく、「無形資産」を重視します。ここでの無形資産とは、やさしい家族、素晴らしい友人、高度なスキルと知識、心身の健康といったもので、目に見えないものです。

長寿化でより多くの老後資金が必要になる、仕事も続けざるをえないといったように、関心はお金と仕事に向かいがちです。しかし、より良い人生を送りたければ有形資産だけでなく、無形資産を充実させ、両者のバランスをとり、相乗効果を生み出していく必要があります。

『 LIFE SHIFT 』は無形資産として、「生産性資産」「活力資産」「変身資産」を提案しており、特徴は下記の通りです。中でも「変身資産」という新しい資産概念を提案している点がユニークです。

自分の無形資産を意識した上で、資産を蓄えることと、使うべき時には大胆に使っていくという生き方が必要になります。

「生産性資産」:仕事で生産性を高めて成功し、所得を増やすのに役立つ資産。「スキル・知識」「評判・社会的評価」「職業上の人脈・仲間」など。
「活力資産」:心身の健康と、心理的幸福感を得るための資産。「健康」、「友人関係」、「家族との関係」などが含まれる。
「変身資産」:自分自身の変化や変身を支える資産。「自己についての知識」「多様な人的ネットワーク」など。人生100年時代で必要になった新たなタイプの資産。
「有形資産」:貯蓄などの金融資産、マイホーム・不動産など。

自分自身の人生マネジメント

これまで3ステージの人生では、人生の計画と自己内省はほとんど必要とされませんでした。それは、確実性と予測可能性がある人生だったからです。
しかし、100年時代で与えられた時間が増えると、選択肢が増すとともに、不確実性が拡大します。未来に向けて適切な行動をとるには、経営的な視点を取り入れ、戦略的に人生をマネジメントを行う必要があります。
そのための第一歩は、自分で自分自身の人生シナリオを書くことです。

『LIFE SHIFT』には、年代別に多くの人生シナリオが描かれています。
「3.0シナリオ」は65歳で引退する従来からの人生モデルですが、これでは長寿化でお金も無形資産も底をつくことになます。
そこで、0.5ステージを足した「3.5シナリオ」が提示されます。70代まで働き細やかな投資をすることで、金銭的に延命するとともに、家族や友人とゆっくり過ごすことで活力資産を充実させる生き方です。
「4.0シナリオ」は、40代でリスクを取りながら転換を図り、もう一つのステージである「ポートフォリオ・ワーカー」や「起業」を加えて生きるというものです。
そして「5.0シナリオ」では、教育期間を終えて「エクスプローラー」になったり、「インディペンデント・プロデューサー」「フルタイム・ワーカー」などを次々と経験し、最終的に「ポートフォリオ・ワーカー」として働き、85歳で引退するというマルチステージ型の人生が描かれています。

リ・クリエーション(再構築)

この「5.0シナリオ」は、ステージ間を変身するだけでなく、ステージを移る時に「移行期間」を設けているのが特徴的です。

3ステージ型人モデルでは、大きな移行期間は2回で、仕事期間中に、転職時にリフレッシュ期間や放浪期間を設ることもありました。
しかし、そのような移行期間の時間の使い方はエネルギー充填型といって、「活力資産」は貯まっても、それまで継続的に蓄積されてきたスキルが枯れて「生産性資産」が損なわれることになります。

そこで『 LIFE SHIFT 』が薦めるのは、「自分のリ・クリエーション(再創造)」です。移行期間において「活力資産」への投資よりも、新しいスキルや知識、人的ネットワークなどの「生産性資産」への投資を積極的に行うというものです。
例えば、節目節目にリスキリングで学び直したり、移住して環境を変えたり、ライフスタイルを変えたり、これには大がかりな変化を伴うケースも含まれています。

賢いお金の使い方

このように移行期間にリ・クリエーションで無形資産(活力資産と生産性資産)への投資に成功したとしても、金銭的な資産が減ることは避けられません。

老後の資金については、まず旧来からの考え方を転換する必要があります。
例えば、21歳で就職、65歳で引退、85歳で亡くなる人を対象に、以下の条件で計算すると、勤労期間中に毎年所得の17.2%を貯蓄に回さなければなりません。かなり厳しい現実です。そのため、65歳になっても仕事を続ける選択をすることが必要になります。

  • 目標代替率(退職直前年収に対する退職後生活費の比率)50%

  • 公的年金 退職直前年収の10%

  • 自宅を所有

加えて、賢いお金の使い方が必要です。
まず、金銭的な「自己効力感」を高めることです。自己効力感とは自分ならできるという認識です。金融リテラシーを向上するとともに、自分の金銭的な状況を把握し、資金計画に現実性をもたせていきます。
次に、お金に対する「自己主体感」(自ら取り組むという認識)を高めることです。計画を実行に移す際、「双曲割引」による「現在バイアス」がかかり、なかなか将来に対する貯蓄や投資ができません。そのためのセルフ・コントロールが必要になります。

また、シェークスピア「リア王」を引き合いに、世知辛い「戦略的遺産動機」の話題にも触れています。遺産を子どもにちらつかせることで、子ども達の行動を操作し、老後に世話させようとする思惑のことです。

日本の課題

『 LIFE SHIFT 』は、ギフトとして贈られる時間を豊かな人生づくりに生かすため、自分自身の人生マネジメントを積極的に行い、変身(ステージ間の変化)を促しています。全面的に賛成です。

ただし、これを日本で広めて行くには、工夫が必要になります。
一つは、個人を基点とした議論を始めるという点です。
現在、多様な働き方の議論は、雇用者(企業)や政府がリードしています。ワークライフバランスを重視して、短時間正社員、週4日勤務、完全在宅などの働き方が検討されています。
しかし、どれも短期間、短いスパンでの時間の使い方でしかありません。
確かに、大企業の従業員のインディペンデント・プロデューサーを支援するはずもなく、ましてポートフォリオ・ワーカーは企業活動とは無関係で、個人がマネジメントしていかねばなりません。

もう一つは、日本の雇用環境を勘案したマルチステージを用意して、議論していく点です。
エクスプローラー、ポートフォリオ・ワーカー、インディペンデント・プロデューサーといったステージ(働き方)は、日本人に馴染みが薄く、縁遠い存在のような気がします。10年単位の長いスパンで個人が人生マネジメントを行う際にスムーズに入っていけるようなステージがほしいところです。

私にとっても、これらの議論を広げていくことが大きな課題です。

(丸田一葉)

参考)
『 LIFE SHIFT 』リンダ グラットン、アンドリュー スコット、2016年

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