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京阪出町柳駅から吉田キャンパスへ続く道

  中学時代の通学路、高校時代の部室。その場所、その道を通るだけで、当時の風景や感情が確かな解像度で思い出されるような、思い出を真空パックのように保存してくれているような場所を誰しもが持っているように思う。

 私にとって、京阪出町柳駅から吉田キャンパスへ続く道はそういう場所の一つになっている。

 2019年の2月25日、私は京都大学を志望する合格可能性20%の受験生だった。その日の朝、私は受験生の群れの一員となり、京阪出町柳駅から試験会場となる京大吉田キャンパスへ歩いていた。最後まで知識を詰め込もうと参考書を片手に歩く受験生や、友人とリラックスした表情で雑談している受験生に囲まれる中で、私は大学生となりこの道を自転車で走る自分を空想していた。いや、空想することで周りの受験生たちが発する偏差値が高そうな単語に耳をふさぎたかったのかもしれない。腹が立つほど清々しい朝日に照らされ、自分の不合格を悟った。それでも空想することを止めることはできず、ついには大学生となった自分の服装や髪型までもが鮮明に思い浮かんだ。とにかく数時間後の試験のことではなく、数か月後の自分を考えていたのだ。私は、当時の浮足立った感じや、場違いな場所に来てしまったという恥にも似た感情、それなのになぜか眩いばかりのキャンパスライフを妄想する奇妙な心の動き方を今でも思い出すことができる。

 2020年の2月25日、今度は合格可能性80%の受験生として、私は出町柳駅から例の道を歩いていた。一年の間に予備校で身につけたささやかな受験知識、そしてそれ以上に脂肪をつけた腹を抱え吉田キャンパスへと歩いていた。一年前と同じような、澄んだ空気と柔らかい日の光が、受験独特の緊張感とマッチした朝だった。一年中勉強し自分の学力にある程度の自信を持った私は、昨年のように浮足立つことなく確かな安定感があった。(もしかしたらその安定感は、体重増加による物理的なものだったかもしれない)要するに、合格という強烈な目的意識に突き動かされていたのだ。

 これから先、違う季節の、違う時間に、違う人と今出川通りを歩くことが何度もあるだろう。それでも、2019年と2020年の冬の朝の京阪出町柳駅から吉田キャンパスへ続く道はいつまでも私の心の底に沈殿し続ける。

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