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ヒトも踊ったほうがいいと思った。「飛騨の森でクマは踊る」フォレストカレッジ番外編ツアー参加

「広葉樹がクリエイティブに化ける現場を見てみたい」

7月に参加したINA VALLEY FOREST COLLEGE2022(以下、フォレストカレッジ2022)の現地講座1で講師としていらっしゃったお一人が、株式会社飛騨の森でクマは踊る(以下、ヒダクマ)の松本剛さん。

広葉樹の木が新しい視点で都市に広がるたくさんの事例を語っていただいた講義が印象的で、先日、受講生有志で自主的に、松本さんに飛騨を案内していただくツアーが組まれました。これは、行っとかないと!ということで、私も参加いたしました。

フォレストカレッジ2022現地講座1の模様はこちらのgreenz.jpの記事で書きましたが、この度のヒダクマツアーの模様をブログでレポートします。

ヒダクマがオフィスを構えるのが、岐阜県飛騨市の古川町という城下町。リノベーションした古民家は、3Dプリンターなどのデジタルファブリケーション機器を使えるFab Café、広葉樹の木を使って試作ができる工房、宿泊施設など、さまざまなスペースで構成されています。

この古民家が、広葉樹の木を使ったものづくりに関心があるクリエイターにとっての実験の場であり、広葉樹の可能性をひらくショールームであり、地元の人たちや観光客にとっての交流の場ともなっているんですね。宿泊もできるので、新型コロナウイルスの感染が拡大する前には、海外のクリエイターもたくさん訪れたそうです。

オフィスを案内してもらったあとは、もっぱら広葉樹の製材をしているという西野製材所さんへ。西野製材所は山と街の境目にあり、「土場」という丸太の置き場を広くとっているところが特徴です。広葉樹は多種多様なので、さまざまな木を丸太としてストックしているというのは、広葉樹を活用したい人たちにとっては大きな魅力となっています。

きれいに製材され、天然乾燥されている材木ともにドドドと置かれているのが、曲がっていたりキノコや芽が生えていたりする個性派の木々。こういう個性が広葉樹の面白さなんだよな、と実感できる楽しい空間です。個性的な木とユニークな視点をもったクリエイターとのお見合いをアレンジして新しいプロダクトに導くのが、ヒダクマの役割なのですね。

西野製材所の一角に建設中なのが、ヒダクマの「森の端オフィス」。このオフィスの建物は、躯体から建具、家具、断熱材にまでさまざまな広葉樹の木が使われています。特に目をひいたのは、ぐにゃぐにゃの板を重ねた梁。原木を直径いっぱいに製材する「だら挽き」の板を組み合わせて躯体に使っているのです。

製材の工程で発生するカンナくずを固めてボードにしていたり、割り箸の製造過程で発生する木くずを断熱材にしたり、徹底的に、広葉樹。もしや…と思ってクッションの中身を見て見たら、やっぱり木くずが詰まっていました。

森から木、街から人という流れの真ん中にできる「森の端オフィス」ができることで、これまでにないアイデアが生まれることになるのでしょうね。

製材所見学のあとは、日帰り温泉施設でひとっ風呂。クロモジの香りがするお湯があったのは、さすが飛騨、森の湯って感じです。

夜は地元の居酒屋さんで地元のお料理とお酒を。富山湾からの新鮮なお魚もなかなかでしたが、むむむと思ったのが「漬物ステーキ」。

地元の人は「ツケステ」と略して呼ぶらしいそのお料理は、鉄板の上で焼いた漬物に卵を落として鰹節をまぶしたもの。雪深い飛騨では保存食として漬物が重宝されてきており、凍ってしまった漬物を美味しくいただくための工夫から始まったのだそう。こういう、その土地ならではの風土や暮らしに根ざした素朴でユニークな食との出会いはうれしいものですね。アツアツのしょっぱいおいしさに、お酒が進んでしまいました。

ぐっすり眠って2日目の朝。松本さんが案内してくださったのが、地元の岡田さんという方が整備されている広葉樹の私有林。

飛騨市は面積の9割が森林で、その森林の約7割が広葉樹。飛騨は急峻な山が多く、いわゆる木の畑として針葉樹の人工林にしづらかったということ。そして、大都市から離れていたことから、戦後の針葉樹植樹ブームに乗り遅れたことも、日本で珍しい広葉樹の森が広がる地域となった背景としてあるそうです。

岡田さんの森の山道は、3段階の幅になっていて、「語らいの道」「哲学の道」「文学の道」と進むにつれ、道幅が狭くなっていきます。広葉樹の森は木の姿といい、幹の模様といい、葉の形や色といい実にさまざまなので、歩いて眺めていても飽きることはありません。

松本さんは、多様な木で成り立っている広葉樹の森の豊かさを、ビジネスや人間関係に例えたりして楽しく、わかりやすく話してくださいました。

種類もバラバラで伐りにくく、また伐っても持ち出しにくい広葉樹は、材木としては使いにくい面があります。画一的で管理がしやすく、大量生産大量消費でコスパ重視なのが針葉樹の森だとすると、多様性に溢れていて、ロングライフな価値を重視するのが広葉樹の森と言えそうです。

いま日本の森が針葉樹に覆われていて悩ましい状況になっているのは、経済が大量生産大量消費を卒業しようともがいている時代とシンクロしているように思えてきました。針葉樹と広葉樹のバランスが取れた山が増えるような、サステナブルな経済社会のあり方について考えさせられます。

山を降りて街に戻り、建物がレトロでいい感じの「蕪水亭OHAKO」でランチ。ここは、薬草を使ったメニューがカジュアルに楽しめるお店です。

薬草もまた森のめぐみ。お薬としてではなく、食事としておいしく薬草をいただけるというのがうれしいですね。

ランチのあとは日本の木造建築の礎を築いた飛騨匠の技が学べる「飛騨の匠文化館」へ。釘一本も使わずにガッチリと構造を組める木組や、代々受け継がれた大工道具など、マニアックな展示が充実。木のことを知り尽くした人間だからこそ磨ける知恵と技に感心させられます。

学びのあとは、おいしいコーヒーを絶景とともに。Fab Café Hidaが開催しているイベント「森カフェ」を楽しみに、サノライスさんのフィールドへ。コーヒー豆とともにクロモジを焙煎したコーヒーは、すっとした香りが印象的な一杯。青空のもと広がる山並みを眺めながらゆっくりいただきます。

サノライスさんの田んぼにも案内していただきました。東京から移住されてきたサノさん一家は、放置されていた田んぼを整備し、無農薬、無化学肥料で米づくりをされています。

田植えや草取り、稲刈りといった米づくりを体験できる会員制度「M Y田んぼ」を展開さているサノさんは、多くの人に、自分たちの食べ物を自分たちでつくれる喜びを感じてほしいとおっしゃっていました。紛争などで輸入に頼りがちな食材が高くなっているいま、とりあえず食べていける、というスキルは大きな安心材料になるのかもなあと思いました。

とても2日間だったとは思えないくらい充実した時間を過ごした飛騨。細やかなコーディネートで充実すぎる学びの場を設けてくださった松本さん、どうもありがとうございました。いつか森に恩返ししに参ります!


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