見出し画像

【音楽連載】マリオネット|本日もくらげ日和!vol.3|音楽と文:RaGmy -具志堅舞-@石垣島


第1回・第2回と続けて
東京生活のことを綴ったが、
第3回目の今回もまた書かせていただきたい。
石垣島という離島の田舎から
大都会に上京した小娘の話を。


ー東京で職を探すー



ふらっと東京に出てきて
ここに住むことを決断した私は
ワクワクしながら職探しを始めた。
石垣島では携帯電話ショップと
紳士服店でのアルバイトをしていたので
また接客業をしたいと考えていたが、
石垣島にはない職業にも興味があった。
駅前でのポケットティッシュ配りや
コールセンターなど。

ある日、
大好きだったドラマ
「池袋ウエストゲートパーク」の
聖地巡礼をしたいと池袋に降り立った私は
これまた見事に迷子になっていた。

地下をぐるぐるぐるぐると。

とりあえず地上に出たものの、
今日見てきた池袋にしては
ちょっと雰囲気の違う感じが漂う。

振り返り
駅の看板を見直すと
「池袋駅北口」と書かれていた。

駅を出たらすぐ
ティッシュ配りのお兄さんが
ティッシュを3個ほどまとめて
差し出してきたので
「ありがとうございます」と受け取る。
そうするとまた3~4個
目の前に差し出してくる。

東京に出てきたばかりの私は
ティッシュを差し出されたら
全て受け取っていたので、
お家に帰ってカバンをひっくり返すと
大量のティッシュが湧いて出てきた。
だって、断れなかったんだもん。

「この方はティッシュを配り終えないと
 今日お家に帰れないんだろうな」
とか考えちゃってね。

まるでティッシュ配りのお兄さんを
マッチ売りの少女に思うかのように。

池袋駅北口で大量のティッシュを受け取った私は
いつもはそのままカバンに投げ入れるが
その日はなぜかポケットティッシュにふと目をやった。

そこに書かれていたのは
【事務職募集しちゃいます(^^)時給2500円から★】

2500円から!?
え!?
東京すげぇ!

私は感動していた。

目を見開いた私は
とりあえず話だけでも聞きたいと
その場でティッシュに書かれた番号に
電話をかけていた。
商業科を卒業し、
事務で使えそうな資格・検定を取得していたので
まさにそれを活かせるチャンスだと確信。

電話を取った声の低い男性に
事務職志望ということと今いる場所を伝える。

「北口にいるの?
 おーけおーけー!今迎えに行かせるよ!
 どんな格好してるー?」

どうやらすぐ面接してくれるらしい。

え!?
わざわざ迎えにきてくれるの!?
東京すげぇ!!

私は感動していた。


ー何かがおかしいー


「電話くださった具志堅さんですか?」
私の服装の特徴を見て
男性が声をかけてきた。

電話を切って10分しないうちにやってきた男性は

・明るめの茶色のスーツ
・ワインレッドのシャツ
・金に近い色のネクタイ
・凶器のように尖った靴

という身なりで現れた。

やっば!
東京のサラリーマンおっしゃれ!
東京すげぇ!!!

私は感動していた。

「具志堅さんってことは沖縄ー!?
 良いとこだよねー!!」

上京して3ヶ月。
もう何十回とその会話を交わしていた私は
慣れた返事をしながら
男性の後ろをトコトコついていった。

「ここねー!」

と、男性が地下に続く階段を降り始めてすぐ
私は看板を見上げた。

【セーラー服カラオケ○○○○】

さすがに何かおかしいと感じたが

きっといろんな業種を経営している大企業なんだな!
東京すげぇ!!!!
と、もはや自分に言い聞かせていた。


ーセーラー服カラオケのやばい仕事ー

中に入ると、
地下のジメジメした感じと
湿気の匂いが漂っており、
各テーブルの上には
透明のグラスが逆さまになって数個並べられている。

席がたくさん用意されているが
おひとり様用なのか
小さめの2人掛けのソファばかりだ。

面接シートというものを記入していくが、
所有資格を記入欄がどこにもない。
というか面接シートの内容もほぼ全てが
何かおかしい。

「あの・・・
 私ポケットティッシュに書いてあった
 事務職志望なのですが・・・」

恐る恐る男性に尋ねると
食い気味で

「あぁーね!
 君かわいいからもうお店で
 働いちゃいなよ!ね!」

その返答の速さと勢いに
私は返す言葉が出なかった。

「仕事内容説明するね!」

とニコニコしながら語る目の前の男性。
今これを読んでいる読者の皆様は
私がポケットティッシュを受け取った時点で
察しているかもしれないが、
その仕事内容はとてもじゃないが
ここに記せる様なものではなかった。


ー赤シャツ金ネクタイ男の説得ー

「よく考えれば(よく考えなくても)
 サラリーマンがこんな赤いシャツに金のネクタイを
 着用するわけないじゃないか!!
 数十分前の私の大馬鹿野郎!!!」

と、自分の愚かさに心の中で泣く反面
私の頭の片隅によぎったのは

「今私が帰ってしまうと、
 目の前で一生懸命語っている男性は
 上司に怒られるかもしれない・・・
 もうすでにこれだけ長い時間を
 私に費やしているのに・・・
 私が逃げ出すように帰ってしまうと
 この人の今日の報酬はどうなるのだろう・・・」

という
目の前の赤シャツ金ネクタイを
思いやるという何とも言えない気持ちだった。

とりあえず耳だけ傾けた。
赤シャツ金ネクタイが満足して黙るまで
話を聞いた。

「じゃあ今日からどう?」

最後の締めと思われる言葉を
男性が言い放ったその時
私はこの数分で頭の中に用意した
精一杯の一言を
赤シャツ金ネクタイに返した

「一旦持ち帰りまして!
 一緒に住んでるお兄ちゃんに相談してまいります!」

「え!?
 お兄ちゃん!?
 いや・・・それはお兄ちゃんに余計心配かけると思うよ・・・」

そりゃそうだ。
赤シャツ金ネクタイの言う通りだ。

だがこの場を立ち去る理由が
それしか思いつかなかった私は
まるで呪文かのようにただそれを言い続けた。

頑なな私に負けた赤シャツ金ネクタイは
説得することを諦め、
家路に帰ろうとする私を地上まで見送ってくれた。

「兄としっかり話し合いまして、
 本日中にはご連絡を差し上げます!!
 お忙しい中、本日は本当にありがとうございました!」

深々と頭を下げ私は足速にその場を去った。
田舎から上京し、
私のような体験をした者は、
きっとたくさんいるであろう。
(あれ?私だけ?)

その夜
泣きそうになりながら
兄に今日の出来事を話し怒られたのは
言うまでもない。

ー大人になったからできることー


そのようなことも含め
たくさん色々な経験をし、
東京で20歳を迎えた私。
兄も出かけていて1人だったアパートで
7月22日の誕生日をカウントダウンした。
0時になった瞬間
「大人になったからできること」を考え
部屋を出てコンビニへ走り出した。

特にこれまで興味もなかった
タバコというものを買って部屋に戻り
不慣れな手つきで火をつけた。

喫煙者と呼ばれる人たちは皆
まさか煙を肺に入れているなんて知らなかったので
まるでリスのように頬を膨らませ
煙を口に溜めこんで数秒後に吐き出すという行為を繰り返した。

最終的に激しく咳き込み
タバコの火を消した私はギターを手にした。

「大人な歌を書こう」

そうして大人になって初めて書いた曲が
マリオネット。

マリオネットを歌っている二十歳の私の映像を見ると
小娘が背伸びをして歌っているのがよくわかる。
今ならもっと大人っぽく歌えるだろうか。

島では経験しないであろう
たくさんのことを教えてくれた東京。
楽しかったことも
悲しかったことも
びっくりしたこと
それら全てのおかげで今の私がいる。

第二の故郷です。


今月のふろく

①大好評だった、4月〜6月号までのふろくをまとめて大公開!
②まちのコイン”まーる”で募集した台風対策や台風の日の過ごし方をご紹介!
③編集部おすすめ!落ち着いてランチが楽しめる石垣の名店5選!
↓まちのコインまーるからお申し込みいただいた方にお送りします!↓

ーーー

この記事を書いた人

Ragmy -具志堅舞-
石垣島出身。くらげを愛する唄うたい。幼少期よりのど自慢大会や芸能スクールオーディションなどに積極的に参加し、歌やダンス、ギター、楽曲制作を始める。高校卒業後、東京にて音楽活動を行い、その後沖縄本島へ。2020年に石垣島へ帰郷。キッズダンススクール「cafumusica entertainment 」インストラクター。
<このコーナーの他の記事を読む>

ーーー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?