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【ポエム連載】「自分らしく在る」葛藤|人×ことば×詩 vol.3|文と写真とポエム:洋々(詩人)


この企画は、石垣で活躍する詩人、洋々さんが、出会いの中で受け取った言葉をインスピレーションとして、詩を創作し、文と写真と共に配信する【ポエム連載】です。洋々さんの詩の世界と、石垣で紡がれる「縁」をお楽しみください。(月刊まーる編集部)


自分らしさ



「自分らしさ」とは何か。
10代の頃からずっと考えているテーマの1つ。
正解なんてなく、答えは時代や年齢、環境によって変化するものかもしれない。

以前、定年退職した後、現役顔負けで働く女性と出会った。
現役顔負け、といったら失礼にあたるほど、その働きっぷりは感嘆に値する。

「何にも(予定が)ない日は、年に3,4日かなぁ」なんて言うのだから、脱帽してしまう。

 私は無意識に疑問が口をついて出た
「どうしてそこまで頑張ることができるのですか?」
この後の応えを聞いて、そもそも私の前提が違っていたことに気付く。
「頑張っているつもりなんてないの。自分らしく在るだけ。合わないと思ったら、すぐに辞めるよ」

『仕事=頑張るもの』

彼女にとって上記の図式は成り立たないのだ。
それは当時の私にしてみると衝撃の考え方だった。

仕事とは、プロに徹するもの。もっと言えば、己を殺し職務に忠実であること、とも言える。
それが当たり前だと思っていたし、当たり前だと考えるような環境にいた。
私の考えの元となったのは、人間の根底にある「不安」と関係している。
そう考えるようになった。

自分に対する評価、価値がない、愛されていない、といった感覚が引き起こす「痛み」。

それを避けるため、人は「何か」に成ろうとする。
そのモデルの代表的な1つが、「仕事を通じて社会に価値を提供している自分」ではないだろうか。
そんな一面的な見方に、自分という人間の全てを委ねてしまうと、
その自分から離れることが恐くなる。
本来の自己を殺し、社会的価値のある自分、つまり仕事をしている自分に徹する。
その結果もたらす自己からの乖離。
そして、その状態を維持する為には並々ならぬ努力が必要だろう。

だからこそ、
『仕事=頑張るもの』
上記の図式は当然の帰結かもしれない。
だけど、彼女はいつも自然体で、よく笑い、よく話し、よく動き、朗らかだった。

仕事を頑張っていない、そう言った彼女こそ、よく働き、社会に貢献し、幸福そうな雰囲気を纏っていた。
何が正しいかなんて分からない。

それでも、彼女の持つ雰囲気や言動は、「彼女らしさ」をよくよく体現しているように私には思えた。
悩んでいることが小さく思えてしまうほど、彼女の行動に迷いはなかった。
合うか、合わないか。
自分らしくいられるか、自分を殺す必要があるか。
それが分かったらすぐ行動。
そこに、迷いはない。
迷う必要がないのは、よく自分と対話をしているからなのかもしれない。
判断する環境にある時、周囲に流されず、自分はどうしたいか、その問いに明確に答えが返ってくるほど、自分の声をちゃんと聞いている。


己を殺すということ

私は20代の頃、自分を殺すことに慣れ過ぎて、何をしたいか、どうしたいか、その問いを内側に向けても、何の答えも返ってこなかった。
正確に言えば、自分の声を聞く能力が、大幅に下がっていたのだと、今は思う。
当然だった。

己を殺すということは、自分を無視し続けるということ。
都合の良い時だけ反応して欲しいなんて、”私”の都合だけしか考えていない。

虫のいい話だ。
自分とは、自分であって自分でない。
自分を蔑ろにし続けていれば、いずれ自分からの信頼を失い、こちらの声に反応しなくなる。

人間関係と同じ。
他者なら氣を使う人も、それが自分となると軽んじてしまう。
自分から離れるほど、自分らしさを見失う。
言葉にしてみると、それは至極当然な道理に見える。

ただ感覚として、自分が今、自分から離れているのか近付いているのか。
それを見極めるには、深い自分との対話と、鋭敏な内的感覚が必要だ。
一朝一夕で身に着くものではない。

だからこそ、暮らしの中で丁寧に、自分と会話をする時間が必要だと私は思う。

私の中で、という前提だが、丁寧な暮らしとは、表面的な欲望に直進せず、己の1つ1つの言動と自己を丁寧に結びつけることだと考えている。
どんな自分が居てもいい。

自分から認められ、認めることができるのなら。


「らしく在る」



世間の目
常識の尺度
世界の基準
倫理の境界
暗黙の了解
誰かの目が形作る

誰かの目が形を崩す

天秤は
右か、左か
正義か、悪か
良いか、悪いか
白か、黒か
僕の居場所は
どこだろう
左右の秤の上には居られない
僕の
居場所
だから
探した
どこかにあると
信じていたから
母を探して三千里
なら
自分を探すと
何千里?
歩き疲れて
躓いた
内から流れる
液体は
確かに赤い色だった
ふと
手が差し伸べられた
その人は言った
「君はの血は青いんだね」
僕の血は赤じゃないの?
「君が望めば赤でも、青でも。
水でも、海でも
空でも、大地でも
犬でも、猫でも
君でも、君じゃなくても


今月のふろく

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この記事を書いた人

洋々(詩人/作家/整体師)
1989年生まれ。『自由に表現できる心を』石垣島を拠点に活動中。PSJ2019年大会で、日本3位。KSJ2021年大会、名古屋大会優勝。静岡でポエトリーユニット『分水嶺』を結成。
現在石垣島で詩人として活動。言葉と身体を通じて、自由に表現ができる身体作り、それを指針に整体師として人と向き合う。子供たちの支援や、蕎麦屋の店長としても活動中。
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