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リチャード・クレイダーマン

 リチャード・クレイダーマン。(40代の)私以上の世代は何とも言えないノスタルジーに包まれる方も少なくないのではないでしょうか。

 金髪に甘いマスク、そして奏でるメロディーはどこまでも優しく切なく。当時日本の女性の心を鷲掴みにしたフランス人のピアニスト、リチャード・クレイダーマン。若かった頃の母も、例に漏れずロマンチックな彼のピアノが大好きだったようでした。

 久しぶりにYoutubeで名曲メドレーを聴いてみると、一気に昭和のあの頃へタイムスリップ。子供の頃住んでいた家、ダイニング、パンケーキやベーコンやスクランブルエッグが並ぶ、素敵にしつらえた朝ごはん、ハミングするまだ若い母の姿。

あ、毎朝そんな豪華だったわけじゃないのです。母が、時々は素敵な時間を持ちたいわって頑張って演出してくれた朝ごはんの日、そんな休日のBGMが、カセットテープから流れるリチャード・クレイダーマンのピアノだったわけです。

母は「三人の子育て、自分に魔法をかけないと乗り切れなかったわ」って言ったことがありました。ロマンチックで素敵なことが好きだった母は、大変な朝も、格好よくキマらない子供達との時間も、綺麗な音楽を流して「素敵な時間、素敵な時間」って自分に言い聞かせて頑張っていたのだろうと思います。

”お母さんのカセットテープではこの曲のこの辺で突然ガシャっとA面が終わったなぁ。”

今思うと何からダビングしたんだろう。「モーニング・エレガンス」と母の字で書かれたカセットテープは思い出すだけで涙が出そうです。

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 私たち三人の子育て真っ最中だった昭和の主婦。カセットテープを繰り返し聴くだけで、当時はコンサートへ出かけようなんて思いもしなかっただろうと思いますが、30年の時を経て、そんな母(と私たち)にそのチャンスが訪れました。

 クレイダーマン氏、実は毎年に近いペースで来日されているようでしたが、特別なファンでもないと、意外とコンサートやライブの情報って入らないものですよね。

 が、それは母が亡くなる2年前のこと。私の目に”リチャード・クレイダーマン来日コンサート”のポスターが偶然?ドーンと飛び込んで来たのです。

 その頃母は重い乳がんを患っていました。良い方向へ行っていないことは家族みんな感じてはいたけど、みんなそのことは心の底にしまっていて、家族全員が大好きなお母さんを前向きに前向きに支えていた時期でした。「このコンサートにお母さんを連れて行きたい!」、私は、迷わず妹と三人で行けるようにチケットを取りました。

当日は体調も良く、母も楽しそうでした。「ふふ、来てる人たちはやっぱりママの世代ばっかりね」「こんなことってうそみたいだわね。」「二人とも本当にありがとうね」

 ワクワク、最初は楽しく聴いていた私たちでしたが、懐かしい旋律に蘇る若い母の姿、思い出、「お母さんこれからももっと生きて欲しいよ!」…やっぱり最後は3人とも溢れる涙を抑えられませんでした。

…… 危険、危険。あの日のことはこのくらいで留めておかなくてはー。

 そんなわけで私にとって思い出のあるリチャード・クレイダーマンなのですが、昨日久しぶりに思い立って聴いたのは実はあの日以降初めて!でした。

「ねぇよかったら久しぶりにママとリチャード・クレイダーマン聴いてみない?」

ステイホームでのんびり過ごしていた私をみて母の方から誘ってくれた?のかな?


今年もスローな連休になりそうです。長らく聴いていなかった思い出の音楽や懐かしい映画に触れてみるのも、意外と新鮮な体験になるかもしれません。




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