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生物の進化は「頑張って」できるものではない。狙って進化できるなんて考えるなどおこがましいにもほどがあるのだ。生物は種の生存のために多種多様な突然変異を生み出し、環境の変化にたまたまうまくマッチした変異種が繁栄するという過程を繰り返してきた。なるべく絶滅しないために。おそらくキリンが首を伸ばそうという意思をもって何世代も首を頑張って伸ばしてきたから生き残ったなんてあるわけない。たまたま首長いのと首短いのが生まれて首長いのがだけ残っただけの話だろう。

経済活動もまさに同じ論理で動いているような気がする。ある企業や業界の売り上げや利益が急速に伸びたりする本当の理由やきっかけは、企業の社員や役員が意図して頑張ったことがその意図通りに運んだ結果ではないことがほとんどではないだろうか。大手商社が今期すべて最高益となるのは資源価格が急騰したことが理由だ。資源価格の高騰はなどは誰も予測できない。(もっとも高騰した後に「俺は予測していたよ」という人たちは山ほどいるが。)

東京の都心に先祖代々の土地がある家は資産家だろう。都心の土地などは今現在の値段では高すぎて、普通どころか高級取りの大企業サラリーマンでも極小の建売が何とか買えるかどうかだ。都心の土地持ちはひたすらご先祖に感謝するしかあるまい。日本で土地の所有権と売買が公に認められたのは1872年の地租改正だ。ちょうど150年前。不動産という資産がはじめて日本に登場し、しかし庶民がその意味をまだ理解していなかったであろうその頃に、日本で一番人口が多かったのはどこだろうか?

1873年の人口一位は新潟の144万人、兵庫、愛知、広島と続き、東京は5位で109万人だ。江戸はすでに大都市であったことには違い無いだろうが、日本には100万人クラスの都市はほかにもゴロゴロあって東京はその一つに過ぎなかったわけだ。2022年現在の不動産価格については言うまでもないが、1873年に東京の今の姿を予測して東京都心部の土地を買った奴など一人もいないだろう。

東京にそのころから土地を持っていた人のほとんどは、たまたま昔からそこに住んでいたからだろう。そしてその土地を今でも売らずに持っていればかなりの資産になっているはずだ。土地を持っていれば貸して収入を得ることもできるし、敷地の一部を高額で売ってほかの事業を始めることができた。リスクの高い新規ビジネスを土地がたまたまあったおかげで安全に始めることができただろう。おそらく東京発の企業で家が土地持ちで余裕があったから起業してみたらうまくいきましたという会社はかなり多いはずだ。でも、会社のホームページにはそんなこと書かないだろう。きっと先見の明とか、革新的な技術とか、リーダーシップとか書いてあるはずだ。

経済活動の成功を決めるのはほとんどが運だと思っている。こんなことを言ってはなんと夢がないのだろうと思う。なんとかして自分の力で頑張って富豪になれないかと考えて至った結論だ。大事なのは自分の幸福感まで運にゆだねる必要はないよということだ。経済的に成功するために仕事を頑張るというのはむなしい。それは努力と結果にあまりに相関関係がないからだ。でも仕事を頑張ることで、同僚と分かり合えたり、上司の愚痴を言ったりして同僚と仲良くなるとか、会社の業務を改善したとか、Diversity and Inclusionのための活動が楽しいし意義深いとか思えたらこれはおそらく意味のある目標になりえる。もちろん営業頑張って数字上げたいですというのもその一つとなりえるが、営業の数字というのは多分に(ナシームニコラスタレブの言うところの)最果ての国の概念なのでそれだけにならないようにする工夫が必要だ。

頑張れば報われるという信仰はほとんどの日常生活上の出来事においうては悪くない考え方だと思う。一方で、運とか偶然に圧倒的に支配されている世界の出来事(芸能界の売れる売れないとか、3か月後の資源価格とか)まで「頑張れば報われる」教を持ち込むと、たぶん病む。会社がそれを理解していないのであれば、自分の中で線引きをする勇気をもとう。

大企業が出来上がるというのはかなり奇跡的な確率だ。ゼロから立ち上げ、個人商店から中小企業になり、売り上げを増やして大企業の一角となるそのすべてのステップで奇跡といえるような事が起こらないと大企業は誕生しないだろう。そういう大企業の経営者はきっときわめて有能なのだろう。だが、有能だからといって大企業を作れるというわけではない。いま頭の中に思い浮かべている有能な大企業の経営者というのは孫正義だが、孫正義が10人いたとして、ソフトバンクが10社できていたかというと多分ちがうだろう。孫正義は能力もカリスマ性もピカイチで好きだ。しかし、孫正義が2人真正面から敵対したら共倒れしてソフトバンクが立ち上がりもしなかったかもしれない。

デカい会社には価値がある。大きな仕事を成し遂げるには、世の中には大企業が必要なのだ。そして、優秀な人材と資金がどれだけあっても大企業が成立するにはそれだけでは不十分でミラクルがいくつも起こらないといけない。幾多のミラクルを経てできた大企業はみんなで守り育てていく価値のある社会的財産だとすらおもっている。大企業に参加し、乗っかり、育てていくというのはいいアイデアだ。せっかくできた大企業だってプアマネジメントで死んでしまうことだってあるだろう。トップマネジメントだけではなく、少しでも部下のいる人間はすべて大企業という貴重な財産を守り育てているという自覚をもってほしい。

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