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米津玄師の魅力を文章化する ー米津批評40記事の分析による音楽批評の体系化ー
お世話になっております。まるです。
今回の記事では米津玄師の批評40記事の分析を通じて、音楽の良さをうまく文章化する方法を明らかにしていきたいと思います。
音楽を文章化することの難しさ
みなさんは米津玄師、好きですか。僕は大好きです。
ところで、米津玄師の楽曲を文章化しろと言われた時、みなさんはすんなりと言葉にすることができるでしょうか。
音楽を言語化するというのは、意外と難しいことです。
中には「音楽は聴いて体感するものなのだから、言語化するなんて無粋だ」と思う方もいるでしょう。
確かに音楽は聴くものではありますが、それでも言葉として表すことには一定の恩恵があります。例えば、ある楽曲について他の人の意見を聞くことで、自分が見つけることのできなかった楽曲の新しい良さに気づくこともあります。また、自分の意見を言葉にしてみることで、自分がその楽曲のどこを気に入っていたのかを再発見することもあるでしょう。何より、同じ楽曲が好きな仲間と語り合う時、楽曲の良さを言語化することは欠かせません。
にも関わらず、感覚的な音楽を言葉にするのは、なかなか困難です。
楽曲の良さを語ろうとして、なかなか自分が思った通りに表現できなかったことは誰しも一度はあるのではないでしょうか。
そのような中、本記事を書くにあたり、今回、ネット上の批評40記事を集めて分析し、世の中のライターはどのように音楽を文章化しているのかを調査してみました。
調査を行なっていく中で気づいたのですが、音楽の批評にはどのような観点があるか、またどのように音楽の良さを表現するかはある程度パターンが存在しているようです。
この音楽を文章化するときのパターンを知っているか知らないかで音楽を言語化する敷居が大きく変わることでしょう。
ということで、今回の記事はどのようなことを目的にしているかというと
米津玄師を例に取り、ネット上の米津批評40記事を分析した結果見えてきた、批評や表現のパターンを明らかにする。
分析を通じて、米津玄師に留まらず一般的な音楽批評のパターンを俯瞰し、記事の読者が音楽を言語化する際の手助けとなる情報を提供する。
ということを念頭に記事を書きました。よければ最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
楽曲を評価する時の観点
音楽を文章化するにあたり、まずは自分がその楽曲のどの部分が良いと感じたかを明確にすることは欠かせません。楽曲の良さを分析し、評価するわけです。
一つの楽曲はメロディー、歌詞、歌声などの非常に多数の要素が複合的に絡まり合って構成されていますが、その要素一つ一つはシンプルです。
今回は様々な批評を集めた上で、楽曲を以下のように分解して各批評を分類してみました。
曲の観点:
メロディ / テンポ / コード / リズム / 構成 / ジャンル /その他(転調・不協和音・可変拍子・特殊な音の使用など)歌詞の観点:
共感性 / メッセージ性 / 文学性 / 曲と歌詞の関係性歌唱の観点:
歌唱力 / 声質 / 歌い方 /感情表現作者や楽曲の背景の観点:
インタビュー内容と楽曲の関連性 / 過去の経歴・過去の楽曲と現在の楽曲の関連性 / 影響を受けたアーティスト / コラボレーターの情報
以下では、それぞれの観点について具体的な批評例を引用しつつ、楽曲の分析方法を眺めていきたいと思います。
曲の観点
![](https://assets.st-note.com/img/1689403968024-BJ54a81FFY.png?width=1200)
メロディ
メロディは曲を構成する上で最も重要な要素だと言っても過言ではありませんが、一方でコード進行などと比べると音楽理論的な下支えが整備されておらず、感覚に頼って作られている部分が大きいです。
メロディを評価する方法としては、例えば以下のような例があります。
メロディの音程がどのくらい上下するか
シンプルなメロディと複雑なメロディの対比がどのようになされているか
メロディの上下に関する批評例を見てみましょう。
この例では、メロディの跳躍が激しい曲はJ-POPでよく使われる手法であり、キャッチーな要素を楽曲に与えていることが書かれています。
「Lemon」のサビ=「♪あの日の悲しみさえ~」からや、「打上花火」のサビ=「♪パッと光って咲いた~」からの音の動きは、とても忙しい。五線譜の上の方の高音部の中で、16分音符の細かい符割りで、上へ下へ、オクターブ以上の行き来をする。と書くと、実験的な音楽のように聴こえるかもしれないが、高音部での音の跳躍は、たとえばMr.Childrenがよく使う技法だ。つまりはある意味、Jポップの王道的手法である。言い換えれば、Jポップの主戦場の1つであるカラオケの場で、歌自慢の若者がこぞって歌いたくなるメロディだと言え、そのあたりもロングヒットに貢献していると思われるのだ。
また、シンプルなメロディと複雑なメロディの構成は曲にメリハリを与えます。以下はメロディの複雑さに言及した例です。
(Lemonについて)ドラマチックで複雑なメロディかと思えば、シンプルなメロディがきたりと予想のつかないようなメロディの組み合わせを繰り返し使ったコード進行が多くみられます。
テンポ
アップテンポな曲は明るく、賑やかで、時に情熱的なイメージを持たせます。反対にスローテンポな曲は落ち着いていたり、大人びていたり、物悲しかったりといった印象を与えます。
単純ではありますが、テンポを軸に批評を行うこともできます。
(春雷について)基本的に、音楽は移動や作業の際のBGMにしているからか、特にアップテンポな曲は耳を通して体内に染み込みやすい感覚があります。肩でリズムをとったりなんかしていると作業も捗っているような気がしてくる。
コード
コードについて、最も簡単な批評は、使われているコードがメジャーコードかマイナーコードかということです。メジャーコードは明るい印象を、マイナーコードは暗い印象を与えます。
歌謡曲(演歌含む)とはマイナー中心の音楽で、そのアンチとして組成したJポップはメジャー中心の音楽である。そして、歌謡曲の中でも、1980年代には、メジャーのアイドル音楽が幅を利かせてくるが、1970年代までは、かなりマイナー偏重のジャンルだった。マイナーによる哀愁を帯びたメロディを、米津玄師の声で歌われると、昭和の歌謡曲が醸し出していた、あの切ない感情が沸き立つ。そしてそれは、現在の音楽シーンの中ではかなり特異な、差別性が高いものである。思い出したのは、安全地帯のことだ。「ワインレッドの心」や「恋の予感」(ともに1984年)など、彼らのマイナーのヒット曲は、あの頃、歌謡曲と「ニューミュージック」(ロックとフォークの当時の総称)の融合した音として聴こえた。
もう一歩踏み込んで、コード進行の観点から曲を評価することもできます。評価の例としては
コード進行そのものが持つイメージについて触れる。
同じコード進行を採用している楽曲同士を比較して、共通点や差異について論じる。
王道のコード進行から外れた進行を指摘し、独自性について述べる。
循環コードを使っている場合、その中毒性や陶酔感について書く。
といったものが挙げられます。以下はコード進行について批評を行なった例です。感電について、コード進行自体がドラマチックなものを採用していることに加え、各所で変化を入れることで、米津玄師ならではの独自性を表現している、という指摘です。
(感電について)繰り返しが多いコードながら、たった4小節でもドラマチックな表現をしているコード進行でした。そのまま進行をループさせてもいいものの、いたるところで微妙な変化が見られました。米津玄師の表現へのこだわりが垣間見えます。ジャジーなコード進行が主体でしたが、なんともいままでのJPOPの概念を覆すようなセクションも現れました。Cメロの部分です。普通、僕たちが聞きなれない音楽的アプローチは違和感を感じ、そのままにされがちですが、とうとうこうした高度で前衛的な楽曲も受け入れられ始めたようです。
ただし、コード進行については音楽理論についての知識がなければなかなか分析するのは難しいと思います。
あまり理論に詳しくない内は、明るいか、暗いかといった程度で構わないので、まず和音から感じる印象を考えてみるところから始めると良いかもしれません。
リズム
ドラムを中心としたリズムパターンについても、楽曲を構成する重要な要素です。
(アルバム「YANKEE」以降の楽曲について)ドラムも複雑怪奇、基本パターンから大きく外れて「そこで鳴らすの?」みたいな位置でスネアを叩くがそれがまたツボにストンとはまるように曲ができている
ドラム以外にも、歌詞の韻やリズムパターンを持った楽器・音源の使用などで曲にリズムを持たせることもできます。その点について指摘をする批評も多いです。
歌詞では巧みに韻が踏まれるなど、日本語の持つ響きの美しさを感じることができます。
(Lemonについて)「クェッ」もリズムの一部となり、ドラムと共にヒップホップのような跳ねたリズムを刻んでいる。洋楽ファンは無意識にこのリズムに反応してしまうのだ。
構成
構成とは、ここでは曲全体を通しての緩急の付け方のことを指します。例えばメロでは比較的落ち着いた印象を与えておき、サビで大きく盛り上がりを見せる、といった構成は代表的です。
(Lemonについて)同楽曲のAメロからBメロまでは、ゆったりとしたテンポで2小節を歌唱する。そこから勢いよくスタートするサビからはテンポも上昇。サビの冒頭には〈あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ/そのすべてを愛してた あなたとともに〉という2つのフレーズが用意されている。しかし、その勢いに反してここでは所々にブレスが挟まれており、各フレーズは一旦着地を見せる。そこからの〈胸に残り離れない 苦いレモンの匂い〉は、サビに入って初めてブレスを挟むことなく歌唱され、歌っていて最も開放感を感じる瞬間となる。同フレーズが楽曲を通じて最も盛り上がる箇所となるのも頷けるだろう。
同じメロ内やサビ内でもリズム等により緩急をつけることは可能です。以下はLADYのサビ内の緩急についての批評です。
サビに登場する16分三連の性急さ(たとえば、〈レディー 何も言わないで〉の〈何も〉の唐突で畳み掛けるようなスピード感。これがサビで反復されるのだ)が、あたかも強い思いがあふれるかのように感じられる。
ジャンル
ある楽曲が音楽のどのようなジャンルに属しているかを考察することも、楽曲の評価に用いることができます。特に米津玄師の場合は、他のアーティストに比べて、ロック、ヒップホップ、ジャズ、民謡といった多様なジャンルに挑戦していることは一つの特徴です。
(ピースサインやTEENAGE RIOTについて)ギター、ベース、ドラムを中心とした正統派バンドのパフォーマンスを思わせる、聴いていて熱くなれるような音がそこにはあります。
(ペトリコールについて)メランコリックで沈んでいくような曲調。『BOOTLEG』の楽曲『fogbound』に近いどんよりとしたメロディーが特徴的。ここら辺からトラップやヒップホップ系の曲の影響が反映されていったと思う。
(アルバム「Bremen」について)マムフォード・ジャム的なリズムが広大なスケール感を放つ“アンビリーバーズ”や、ヒップホップ風の気怠く太いビートが印象的な“Undercover”をはじめ、打ち込みとさまざまな生楽器を取り入れたサウンドはさらに洗練され、シンプルながら巧妙かつ多彩に。それを米津節とも言える人懐っこいメロディーでまとめ上げ、知的で高品質なポップスとして成立させている。
音楽のジャンル自体も非常に多くの種類があり、詳しければ詳しいほど多種多様なジャンルと楽曲を紐づけることが可能です。次の批評はジャンルについてかなり踏み込んで批評を行なった例です。
オルタナティブロック、フォークロック、エレクトロニカ、電子音楽、コンテンポラリー、実験音楽、アダルト・コンテンポラリーミュージック、クラシック(ストリングス)で、彼の生まれた日本で日本語で歌う限り、J-POPにまとめられてしまうことは他ならないのだが、少なくとも、エレクトロニカから始まり、クラシックへの変化と独自性が影響し、もっとリズムやメロディの人の快感を追求するアーティストやプロデューサーが出てくるだろう。
普段から聞いている曲が、どのようなジャンルに属しているかを考えながら聞くことは批評をするにあたって役立つことでしょう。とはいえ全てのが曲が何かしら既存のジャンルにぴったりと当てはまるというわけでもないため、ジャンルへの分類分けはそこまで厳密に行う必要はありません。
その他(転調・不協和音・可変拍子・特殊な音の使用など)
転調・不協和音・可変拍子・特殊な音の使用といった飛び道具的な要素は、楽曲に変化や意外性、独自性をもたらす要素です。通常はそこまで多様されることはないかと思いますが、米津玄師に限って述べると、かなりこのような特殊な要素を楽曲に取り入れていることが多いです。
不協和音と言ってその音の組み合わせを好まない人が多いですが、その不協和音を米津玄師さんは曲の中にたくさん取り入れています。しかもその曲を聞いた人が心地よいと思ってしまうのですごいですよね!これは米津玄師さんの才能と言えるでしょう。私は1度聞くとなぜか覚えてしまいメロディーが頭から離れなくなりました。
ドーナツホールとか駄菓子屋とかTOXICとかとかで聴けるこの小人だがバケモノだがの鳴き声みたいなサウンド。普通はエフェクト的に使う所を、この鳴き声に音程を持たせてイントロのリードパートにしている。
(ゴーゴー幽霊船について)女の子がテレビ君をバールのようなもので殴った後、右のギターがぶっ壊れてる、リズムも無視でぶっ壊れてる。そして何事もなかったかのようにしれっと戻ってくるあたりがこの楽曲のコミカルさを増幅させているように感じる。
なお、このような飛び道具的な要素を楽曲に入れることの効果は複数考えられます。例えばですが
楽曲に意外性や斬新な印象を与える。
楽曲を複雑な構成にすることで、他の楽曲との差別化を図ったり、アーティストならではの独自性を持たせたりする。
楽曲をあえて難解にし、聞き手に楽曲を理解したいと思わせ、リピートを促す。
といった要素が挙げられるかと思われます。
歌詞の観点
![](https://assets.st-note.com/img/1689404064004-dFH68DxUdG.png)
楽曲の歌詞を構成する要素は様々ですが、基本的な要素として何を伝えたいかとどのように伝えるかという観点は欠かせないでしょう。
「何を伝えたいか」と言う観点については、作詞者が聞き手に向かって何か思いを伝えたいという方向性と、聞き手(=世間の人々)の感じている様々な思いを作詞者が読み取り、代弁するという方向性の二つの方向性が挙げられます。前者の方向性が強い歌詞はメッセージ性の強い曲として、後者の方向性が強い歌詞は共感性の強い曲として分類することができそうです。
「どのように伝えるか」という観点では、隠喩・暗喩を用いたり巧みな日本
語を使って伝えたいことを表現する文学的な表現や、素直に感じた感情をそのまま力強く歌詞にするストレートな表現などの分類ができるかと思います。
共感性
アーティストが歌詞を書く際、世の中の人々の感じている多いを代弁する内容となると、歌詞は共感性を与えることになります。米津玄師の楽曲の歌詞は、この共感性を聞き手に与えるものが多くあります。
(Lemonについて)米津玄師という一人の人間の悲しみが歌詞に込められていることで、私は“悲しみの型”を与えられていると感じた。そして、死に直面したときの、現実として受け入れられず、過去の思い出に逃げるようなもやもやした感情を“悲しみの型”に当てはめることで、ちゃんと悲しむことができた。だから、たとえ個人的な感情を歌にしただけとはいっても、私にとっては『Lemon』はとても意味のある曲になった。そう考えるのは、私だけではないはずだ。
メッセージ性
アーティスト側から世間に対して思いを強く伝える時、その曲はメッセージ性を持ちます。以下は米津玄師の曲の中でも特にメッセージ性の強い曲に関する批評です。
(LOSERについて)自身を「負け犬」と表現しながら、「負け犬」でも、いや「負け犬」だからこそ臆せず、挑戦することを促してくれる一曲。
(アンビリーバーズについて)目標に向けて努力する人や世間ではなかなか認めてもらえないような形で頑張る人の全てを受け止め、応援してくれるような一曲です。
文学性
アーティストには、自分の伝えたいことを歌詞として表現するために、隠喩・暗喩を用いたり巧みな日本語を使って伝えたいことを表現する文学的な歌詞を書く人や、素直に感じた感情をそのまま力強く歌詞にするストレートな表現を好み人など、様々なタイプがあります。
米津玄師はそのような中でも前者の文学性に優れたタイプの歌詞を書くことが多く、言葉の選び方やメタファーの使い方に定評があります。
米津玄師の魅力はいくつもあるが、米津玄師の言葉の選び方に関しては、才能に溢れていると思う。サラリと歌いこなす言葉一つ一つに美が感じられる。現代の人と思えない難しい言葉を歌詞に使うところも他にはない才能を感じる。例えば、春雷という曲では「たおやか」という言葉を使っているが、なかなか今の人が普段使う言葉ではない。しかし、米津玄師が使うとその言葉が開花されていくような感じ。
(Lemonについて)苦く苦しい気持ちと同時に、レモンから感じる爽快さと瑞々しさから、いつまでも褪せない死者へのプラスの感情を読み取ることができます。マイナスとプラスの感情が混ざった死者への思いが、レモンという果実により絶妙に表現されています。一見何の関係性のない2つを結びつけ、より響く歌詞を生み出す能力には、才能を感じざるを得ません。
曲と歌詞の関係性
楽曲の中で、歌詞自体が単独で存在しているわけではなく、曲と関連することでその印象が大きく変わります。
以下はLemonの批評ですが、「死」という悲しいテーマを扱った歌詞に対して希望を抱かせるようなメロディーを対比させることで、より人の心に響く楽曲が構成されている、という分析です。
その歌詞を魅せるためのメロディーはひたすらに美しい。歌詞は、悲しみを歌っているのに対して、メロディーは光を歌っているように感じた。もちろん、歌詞にも光という言葉が出てくるが、最も光を感じるのはメロディーだと思った。歌詞とメロディーが共鳴して、「あなたの死は悲しいけど、私はこれからも生きていく」というポジティブな感情を私たちに抱かせている気がした。前にも言ったが、何に対しての悲しさを歌っているのかは人によってとらえ方が違うと思う。でも、どんな人でも感じたことがあるだろう“悲しみ”という感情の中に、“光”を感じさせてくれるから、『Lemon』という曲は多くの人の心に響いているのだろう。
また、次の批評は、LADYにおいて曲中に出てくる「間」の存在が歌詞とリンクすることより効果的に働いていることを書いています。
2番めのAメロで〈二度と会えなくなったら〉の直後に、淡々と進むリズムをかき乱すように半小節カットされる展開に注意してみよう。この乱れは、描かれている関係のかけがえのなさを、言葉にならない場所から浮かび上がらせるどきっとするような仕掛けになっている。
歌唱の観点
![](https://assets.st-note.com/img/1689404119054-FhkiZma2RC.png)
歌唱力
声量、発声、音程、音域といった歌唱における基本要素が他のアーティストに比べて優れている場合、その点は批評に値する観点になります。以下は米津玄師の発声に関する批評です。
もう一つ大きな要因は声の響きです。そしてそれを作り上げる息の使い方がとても上手いアーティストの一人です。流れるような歌唱の中で、常に通る抜けの良い声を使っています。これは声の響きが関係しています。基本的な腹式呼吸やリラックスはもちろん、声帯を通過して口の外に出るまでの息の流れが一定でまっすぐでなければ米津さんのような発声は難しいでしょう。アーティストなら誰でもやっているだろうと思いきや、そうではありません。
声質
そのアーティストならではの声の特徴について言及する批評は多いですが、声質に対する印象は非常に感覚的なものであり、文章で表現するのは難しいことです。以下は声質に関しての表現例です。
米津さんといえば、やはり透きとおる声が印象的だと思う人が多いのではないでしょうか。複雑なメロディの楽曲をクールに歌いあげていて、思わず聞き入ってしまいます。クールなのにそっと寄り添うような優しさを感じる不思議な歌声です。
米津玄師さんは乾いたような歌声をしており、歌詞の一言一言がとても響いてきます!聞いていてとても心地よい歌声と言えるでしょう。この歌声が好きな人も多いようです。
この二つの批評は、米津玄師の声質を「透き通る声」「乾いたような声」「心地よい歌声」と表現しています。みなさんは米津玄師の歌声に対してどのような印象を持つでしょうか。
声質に関して表現する語彙については、後述の批評表現に関する章でいくつか例を挙げるので、自分の感じた印象に近い表現を探してみてください。
歌い方
歌い方の特徴はアーティストの個性が最も現れやすい箇所ではないでしょうか。アーティストごとに様々な歌い方がありますが、米津玄師の場合は母音と子音を繋げたような独特の歌い方に注目されることが多いです。
米津玄師の発声は非常に力が抜けており、気だるそうな歌声が印象的です。他にも、母音と子音を繋げて滑らかにすることで、より気だるそうな印象になっているのではないでしょうか。特にタ行やナ行、ラ行でその傾向が強く「のよ」という歌詞を「ぬょ」と聞こえるように意図的に発音しています。はっきり発音する部分と、曖昧に発音する部分を使い分けることで、歌い方に色気が出ているのです。
『感電』の「♪逃げ出したい」をよく聴いてみてください。無理矢理に表すと「♪nげだsたーぃ」という感じで歌っています。そんな特異な歌い方によって、弾けるようなグルーヴを生み出している。だから強く印象に残る。
感情表現
アーティストの方の心揺さぶる感情表現に感動する人も多いかと思います。声の大小や高低、歌い方の変化によるアーティストの感情表現の仕方に注目する評価方法もあります。
米津玄師の声質は低めだが、メロのキーは低く、サビのキーが高い。『Lemon』も例外ではない。声質が低めな人が高いキーを出すとより感情的に響く。BUMP OF CHICKENの藤原基央さんもサビで声を張る時の歌がエモーショナルだ。
作者や楽曲の背景の観点
![](https://assets.st-note.com/img/1689404211477-z5V5D2DB3V.png)
インタビュー内容と楽曲の関連性
本人のインタビュー記事を楽曲を紐づけることによって、その楽曲がどのような意図・背景のもとで作られたかを、ライターの推測ではなく事実として批評に取り入れることが可能になります。
例えば米津玄師に関して言えば、インタビューで「美しさ」について言及することが多いため、楽曲と美しさを関連させた批評というのは一つの方法となるでしょう。
米津さん自身も「美しい」という言葉をインタビューなどでよく使っていることからも、この点は非常に重きを置いている点であると思われます。
過去の経歴・過去の楽曲と現在の楽曲の関連性
あるアーティストの経歴や、過去の楽曲から現在の楽曲に至るまでどのような変化があったかを追うことによって、分析しようとしている楽曲について新しい発見があることがあります。
米津玄師について言えば、特徴的な経歴として元々ニコニコ動画でボカロの楽曲を作っていたことから有名になったことは批評で触れられることが多いです。
2009年にはニコニコ動画などの動画サイトで、ボカロ楽曲制作を始め、2012年より本名での活動を開始します。
影響を受けたアーティスト
分析しようとしているアーティストがどのようなアーティストから影響を受けているかを調べ、その内容とアーティストの特徴を結びつける、といった批評の方法もあります。
小学生の頃にインターネットにアップされていたBUMP OF CHICKENの曲にあわせたアマチュアの方が作ったFLASHアニメを見てBUMP OF CHICKENと出会いBUMP OF CHICKENに憧れを抱きます。
コラボレーターの情報
かなりマニアックな観点ですが、アーティスト自身と作詞者・作曲者・編曲者が異なる場合は、その点に関して触れた上で楽曲について分析することもできます。
今回のアルバムの大きな特徴となっているのは、米津と同世代であり現代クラシック音楽の分野で活躍する作曲家・坂東祐大(29)が大半の楽曲で共同アレンジャーとして参加していることだ。これまで作編曲は米津自身が手がけることが多かったため、新たな挑戦に踏み出したと言える。
また「馬と鹿」での緻密かつ壮大なストリングスのオーケストレーションをはじめ、坂東が主宰するアンサンブル集団Ensemble FOVEが参加していることも見逃せない。ボーカルにデジタルクワイアと言われるエフェクト(音響効果)を施した幻想的な響きから幕をあける「海の幽霊」でも、ストリングスがポスト・クラシカルなサウンドを生み出すことに貢献している。
そのほかにも、もし楽曲に携わった演奏者が特定できるのであれば、演奏者の特徴と楽曲の評価を結びつけることも可能です。
(感電について)ギターはプロデューサーとして、あるいは3ピースバンド・Ovallのギタリストとして活躍する関口シンゴが担当。あいみょんや藤原さくらのプロデュース、あるいはCMソング作成やテレビ朝日の番組「関ジャム」への出演で著名な音楽家となった。先日はBiSHのアイナ・ジ・エンドのソロ作「死にたい夜にかぎって」のプロデュースでも話題に。
ジャズや黒人音楽への深い知識を基に構成されるグルーヴ感の強いフレーズと、優しい音色が特徴的なギタリストだ。
批評に使う表現方法
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さて、この記事の今までのパートでは楽曲の良いところを見つける際に注目する観点について解説してきました。一方、それと同じくらい大事なことは、自分が分析した楽曲の良いところをどのように言葉にするかということです。
分析内容を言語化するにあたり、様々な語彙を使用することができます。普段あまり文章を書いていない人にとっては、自分の感情を表現するのにどのような言葉があるのか、あまり知らない人もいるかもしれません。
そこでこの記事では、今回参考にした40記事の中から感情を表現する言葉を抜き出して、以下にまとめてみました。
自分の感情を何か言葉にしたいときに使える表現があるかどうか、参考にしてみてください。
汎用的に使える表現:
感動的 / 印象的 / 魅力的 / 衝撃的 / 味わい深い / 感性溢れる / 引き込まれる / エモーショナル / 心に響く / 心を掴む / 心に刺さる / 心に訴えてくる / 心を揺り動かす / 人を惹きつける / 情緒に溢れている / 快感を覚える / 体内に染み込む / 多彩 / 多様な音楽性 / xxを彷彿とさせる明るい曲への表現:
ポップ / キャッチー / 温かい / 楽しい気持ちになる / 爽快感がある / 口ずさみたくなる / 鮮やか / 希望的激しい曲への表現:
熱い / 情熱的 / 格好良い / 興奮する / アップテンポ / 疾走感に満ちている / 高揚感を受ける / エネルギーを感じる / 強さに満ちている / 刺激的なサウンド / 本能的落ち着いた曲への表現:
心地良い / 大人っぽい / おしゃれ / 哀愁を帯びている / 物悲しい / 切ない / 暗い / 神秘的 / 幻想的壮大な曲への表現:
圧巻 / ドラマチック / 華やか / 優雅に響くシンプルな曲への表現:
聞きやすい / 分かりやすい / 癖がない / 直感的 / ストレート / 馴染みやすい / 慣れ親しんだ歌詞に関する表現:
勇気が出る / 励まされる / 共感できる / メッセージ性を感じる / 繊細な描写 / 考えさせられる / 意味深い / 知的 / 知的好奇心を刺激する / 理知的 / ありありと描かれる / 重厚な世界観ジャンルに関する表現:
バンド志向 / 洋楽っぽい / ジャジー / ファンキー / 民謡チックリズムに関する表現:
跳ねたリズム / 小気味良いリズム / リズムに反応してしまう / グルーヴ感が強い歌唱に関する表現:
綺麗 / 優しさを感じる / 柔らかな聞き心地 / 安定感がある / 耳に入ってきやすい / すんなり感情に入ってくる / 歌詞の一言一言が響く / 絶妙なニュアンスが表現されている / 感情を見事に表現している / 幅広い表現 / 色気がある / 味がある / アンニュイ / 気だるげ / なめらか / スムーズ / 浮遊感がある / 中性的 / 語り口調緻密さに関する表現:
計算されている / 洗練されている / こだわりを感じる / 無駄がない / バランス感に優れている / 曲に立体感を感じる曲の完成度に関する表現:
洗練されている / 高水準な曲 / 巧みだ / 才能に溢れている / 芸術的なセンス / 複雑 / 凡庸さを抜け出している / くっきりとした解像度奥深さに関する表現:
聞き入ってしまう / 耳に残る / 頭から離れない / 中毒性がある / 没入感を抱かせる / 様々な発見がある / 奥ゆかしい独自性に関する表現:
斬新 / 非凡 / 特徴的 / 個性的 / 前衛的 / 実験的 / 変態的 / ユニーク / アナーキー / 一味違う / 他にはない / 唯一無二 / 差別性が高い / オリジナリティーが溢れる / 新しい音楽性 / 新鮮な印象 / 期待を裏切る / 面食らう / 翻弄される / 不思議な雰囲気 / 遊び心が見られる / クセがある / 新しい価値観を提示する / 誰もやっていなかった音楽 / 難解 / 理解できない / 異常 / 異次元の存在不協和音に関する表現:
不安定なサウンド / 緊張感がある / 聞き慣れない / もどかしい / 違和感を感じる
楽曲の良さを文章化する
以上が、楽曲の分析方法と、分析内容を言語化するときの表現方法についての解説になります。この章では上記までの分析パターンを使ってどのように音楽を言語化するかを見てみましょう。
例えば、とある楽曲に関する以下の文章をご覧ください。
この楽曲はとても明るく、キャッチーだ。
この文章のままだと、ライターがどのような点についてキャッチーであると感じたかが表現できておらず、内容が薄い批評となってしまいます。
この文章について、この記事で解説してきた分析観点をふまえて、「何をキャッチーであると感じたか」を明確にしてみましょう。例えば以下のように文章を書くことができます。
この楽曲は、所々に不協和音を取り入れていたり、聞きなれない機械音のようなサウンドを多様していたりと、従来の楽曲にはない特徴を持っており、初めて聞いたときには面食らうだろう。ドラムパターンの複雑さも相まって、あまり馴染みのない曲調のように感じる。
にもかかわらず、曲全体としては非常にキャッチーな印象を受ける。なぜだろうか。一つの要因としては、高速で乱高下するメロディーの存在感だろう。このアーティストは元々ボカロ楽曲の製作者というバックグラウンドであり、「アイドル」「夜にかける」といった大ヒットソングを手がけるYOASOBIのコンポーザーAyaseや、最近アニメソングとして起用された「錠剤」で知られるTOOBOEと同じ経歴を持つ。このアーティストも含め、ボカロ楽曲の製作者の多くは激しく上下するメロディーを多様し、曲に爽快感や高揚感を付与する術に長けている。この楽曲が一見すると複雑な構成に見えるにもかかわらず、馴染みやすく、聞きやすいものとなっている背景にあるものは、アーティストが長くボカロ独特のメロディーに慣れ親しんで身につけた実力かもしれない。
この例では、「曲がキャッチーである」ことの原因は「16部音符で乱高下するメロディー」によるものと分析しています。ただそれだけだと味気ないため、「なぜこのようなメロディーを作れたか」という背景として「ボカロ楽曲の制作者であった」という作者の経歴を引用し、また同様の経歴を持つアーティストを並べることによって文章に奥行きを持たせています。
さらに、「不協和音や聞きなれない機械音」といった独特な特徴を前半に置きつつも「それを補うほどのキャッチーさをメロディーが持つ」、いう対比の構成にすることで、文章の後半部分をより強調させています。
おわりに
以上、米津玄師の批評40記事を参考にしながら、音楽という感性的なものをいかに分析し、言語化するか、という方法についてまとめてみました。
あなたの人生でもし今後、音楽を言葉にする機会があるとき、本記事がお役に立てたら幸いです。
もしこの記事を気に入ってくださった方は、是非いいねを押してもらえると嬉しいです。それでは、最後までお付き合いくださりありがとうございました。
参考文献
Yahoo!ニュース「米津玄師『POP SONG』の魅力は、その見事な歌い出しに詰まっている(月刊レコード大賞・2月度)」
モノガタリは終わり地続きのセカイに鳴り響く「米津玄師のジャンルとは? ロック? J-POP?~シングル:1stから7thまでのカップリング編~」
モノガタリは終わり地続きのセカイに鳴り響く「米津玄師のジャンルとは? ロック? J-POP?~9th、10thシングル編~」
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