あったら怖い ♯1


 

元来、僕は怖がりな性分なのだけど、例えば、シャワーを浴びていて、目をつぶるのが怖い。うん、チキンにも程があるのはわかっている。

 我が家のユニットバスは狭い。築40年以上は経つ、6畳一間のアパートだ。貧乏人の一人暮らしには丁度いい。ユニットバスとは、まあ、風呂とトイレ、それに洗面台が一か所に押し込まれたスペースな訳だ。入居当初は、バスタブとトイレを区切るシャワーカーテンがあったが、邪魔臭いので取っ払ってしまっている。冬場などは、やせっぽちの身体を寒さに震わせながら、シャワーのハンドルをひねる。お湯が出る。水と混ぜて適度な水温にし、身体に流す…。さて、頭を濡らし、シャンプーでわしゃわしゃと髪をかき回し、お湯で流す段には、目を閉じなければならないのだが、このプロセスが、なんか怖いのだ。

 子供の頃は、風呂場で頭からお湯をかぶり、目を閉じている間、よくこんな想像をしていた。間近で自分を見つめる誰かの顔を。それが誰であるかは、その時の気分によって違った。腐乱した死体、にやにやと笑う漆黒の怪物。あるいは、眉間にしわを寄せ、怒れる表情を浮かべた、バーサーカーの様な屈強な顔。

 もちろん、恐る恐る目を開けてみても、何もいない。湯船に落ちる水滴が、びちょんと音を立てるだけだ(親と暮らしていた幼い頃は、毎晩風呂を沸かしていた)。

 大人になった今も、そんな風に想像する癖が残ってしまった。まったくばかげている…自分で自分を怖がらせて何になる?。だけど、つい思い浮かべてしまう。冷たい滑らかなタイル張りの壁から、黒々とした二本の腕が付き出されて、自分につかみかかってくる光景を。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?