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『豊島竜王』 にコロサレル!

さてさて今回は将棋のお話。
将棋がエンタメ?
私の中でのエンタメとは「私を楽しませてくれるものすべて!」です。
激動の第33期竜王戦七番勝負第1局1日目が終わり、前人未到の大記録である“タイトル通算100期”(タイトル通算2位の大山十五世名人ですら80期)に挑む羽生九段に注目が集まりますが、ここはあえてその“相手”である豊島竜王にフォーカスしたいと思います。

簡単にプロフィール。

豊島将之。30歳。愛知県生まれ、大阪府育ち。
若い頃から破竹の勢いで勝ち星を重ねて現在は竜王と叡王の二冠。
愛称は“きゅん”。
NBA好きでゴールデンステート・ウォリアーズのファン。

豊島将之という男。

将棋について書くときになぜ羽生九段でもなく、藤井二冠(藤井二冠の話はこちらの音声配信でしてます➡︎『テーマに沿って話したい2人。』よろしければこちらも併せて。)でもなく、豊島竜王なのか?
私も彼と同じくゴールデンステート・ウォリアーズのファンだから?
そうではなく(いや私もウォリアーズのファンなのは本当です)豊島竜王が「現在最も魅力的な棋士」だと思うからである。
何がそこまで魅了的なのか?
もちろん将棋はめっぽう強い。
四天王(現在タイトルを保持している渡辺名人、豊島竜王、藤井二冠、 永瀬王座)と呼ばれる現在の将棋界を牽引する一人である。
さらに彼は“名勝負クリエイター”の側面もある。
記憶に新しいのは今期の第5期叡王戦七番勝負
史上初の七番勝負で第9局(千日手も含めると実質十番勝負)までもつれ込むという大接戦を見事に勝利して叡王を奪取した。
(とてつもない名勝負の数々で語り始めると終わりそうもないので、詳しく知りたい方はリンク先の記事を参照して欲しい。)
しかし彼の魅力はそれだけでない。

私が数いる棋士の中で彼に最も惹かれる理由は、彼がどの棋士よりも“棋士然”としていると感じるからなのである。
おそらくあまり将棋を知らない人の思い描く棋士の姿そのものではないであろうか。

第2期の叡王戦本線トーナメントでこんなことがあった。
久保九段と豊島さんの戦いが東京の将棋会館で行われたのだが、関西所属の久保九段が時間を勘違いして開始時刻に間に合わなかった。
レギュレーション通り開始時刻より1時間が過ぎた時点で豊島さんの不戦勝となるのだが、開始時刻になると彼は席について自分と相手の駒を全て一人で並べて不戦勝になるまでの1時間正座を崩さず、中座することもなくそこに座り続けた。
この姿を見たときに私は「あぁこれが棋士というものなのだな。」と直感した。
将棋の強さの問題ではない。
1人で淡々とすべての駒を並べる姿。
対戦相手の座らない盤の前にまるで自分もそこに存在しないように静かに座る姿。
それはまるで美しくも荘厳な大自然を前にして立ち尽くしてしまう。そんな感覚だった。

さらに豊島竜王は研究の仕方も独特で、将棋AIソフトを用いて1人で研究している。
棋士は普通、研究会やVS(2人で行う研究会)など複数人で研究をする。
もちろん現在は将棋AIソフトを使用して研究している棋士は多く存在するが、それはあくまで研究会やVSを補足するものとしての位置付け。
しかし彼は研究会やVSには参加せず、1人でAIと将棋を打つ。
そのきっかけと言われるのが電脳戦と呼ばれるプロ棋士と将棋AIが対局する棋戦で、5人参加した棋士のうち自分しか将棋AIに勝てなかったこと。
これを機に彼は「1人で研究した方がいい。」と籠もるようになる。
おそらく彼が感じたのは絶望にも似た“焦燥感”と圧倒的な“孤独”。
もちろんこの時点で彼よりも強い棋士は存在した。
しかし彼は感じたのだと思う。
このまま今までのように他の棋士と研究をしていては自分の望む場所には到達しえないという焦燥感。
そしてそれを為し得るために孤独を引き受けるという覚悟。

現代の日本という恵まれた国でこの種の焦燥感や孤独を感じることはとても難しい。
しかし彼の佇まいにはたしかにそれが透けて見える。
豊島将之という男が纏うこの焦燥感や孤独こそが、私を遠い侍の時代まで誘い、棋士とはこういうものだと静かに語りかけてくるのである。


将棋にコロサレル!
ニシダ

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